貴ちゃんナイトvol.8

貴ちゃんナイトvol.8

The Cheserasera

The Cheserasera

菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet)

菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet)

GREAT3

GREAT3

GREAT3、菅原卓郎、The Cheseraseraを迎えて行われた 「貴ちゃんナイトvol.8」のミラクルとは?

毎日、都内ではたくさんのイベントが開催される。そのなかでも「貴ちゃんナイト」はちょっと特殊なイベントだ。このイベントの背景を知らない人にとっては多くの疑問符が浮かぶことになる。なぜ出演者発表前にチケットが売り出されるのか? なぜ地方からたくさんのお客さんがやって来るのか? どうしてイベントの前後、期待や感想がSNSに大量ポストされるのか?

貴ちゃんナイトvol.8

このイベントにやって来るお客さんの多くは1995年から2000年の間、NHK-FM「ミュージックスクエア」を聴いていた元リスナーだ。「貴ちゃんナイト」の主催者・中村貴子はその番組のメイン・パーソナリティだった。彼女が番組でオンエアする楽曲にときめき、音楽にのめり込んだ人も少なくない。この日の出演者、菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet)もヘビーリスナーだった。オーディエンスと「貴ちゃん」の間には特別な結びつきがあるのだ。

とはいえ、ラジオとリスナーの関係がそんなに深く濃いものになること自体に疑問を持つ人もいるかもしれない。ラジオのリスナーというだけで、フェスでもない200人のキャパシティのライブイベントへ地方からわざわざ観に来るだろうか? と思われる方もいるだろう。現在のラジオの訴求力を考えるとわからないでもない。しかし「ミュージックスクエア」で中村貴子がパーソナリティをやっていた1995年から2000年の時代背景を考えると納得してもらえると思う(実は筆者もその番組をお手伝いしていた)。

貴ちゃんナイトvol.8

第一に当時はインターネットがまだ普及していなかったことが挙げられる。どれだけ普及していなかったかというと、メールがまだ一般的ではなかった。YouTubeも見る影もなかったし、iTunesも黎明期だった。初代iPodが登場するのが2001年11月だ。音楽を知るソースはラジオしかなかった。なかには番組を丸ごとカセットテープに録音する人もいたという。ネットによって情報はどんどん入ってくる現代と違い、ひとつのメディアに向かう熱量は半端なかった。しかもCDの普及で日本のポップスやロックは大ブレイク。1週間で100万枚のセールスをあげるアーティストまで現れた。そんな状況のなか、NHKの全国放送で毎日のようにロックやポップスの新曲が聴ける番組となれば、人気が出ないわけはない。しかも中村貴子は「音楽が好き」という気持ちを直球でリスナーにぶつけた。オンエアする1曲を決めるのもスタッフ間で(ほとんど喧嘩のような)議論が行われた。過剰なまでの「音楽が好き」熱の発信。それがインターネット普及前夜に電波にのって全国のリスナーへと届いた。その全国のリスナーから多いときで1週間に2000枚のハガキが寄せられた。その1枚1枚に書かれた文章は中村貴子の熱量すら上回っていた。中村貴子はそのすべてに目を通し、それをトークに活かした。そうやって熱量は雪だるま式に高まっていった。

「貴ちゃんナイト」をめぐるオーディエンスの行動、このイベントの独特な空気は1995年からつづく「音楽が好き」という(元)リスナーの気持ちの積み重ねがつくっている。そもそもこのイベントの成り立ちも変わっている。「貴ちゃんナイト」はリスナーが岡山でDJイベントとして始めた。運営も内容も全部リスナーが行った。当時番組で流れていた曲を流すイベント。それが「貴ちゃんナイト」だった。中村貴子はチケットを買ってそのイベントに参加した。「貴ちゃんナイト」は、そうやってリスナーの情熱に触発されて始まった。だから中村貴子が主催した最初の「貴ちゃんナイト」には「vol.2」とナンバリングされた。

オリジナルの「貴ちゃんナイト」のテーマから変わった点は「音楽の継承」を強く打ち出したところ。当時番組で流していたアーティストをブッキングしながらも、同時に若いバンドも呼ぶ。音楽は繋がっていくことをイベントで見せる。むしろそこにこだわっているように思える。ただし、中村貴子が好きなアーティストに限る。それは当時のミュージックスクエアの選曲と同じ。ヒット曲をかけながらも、中村貴子のこだわりの曲もかける。むしろこだわりの曲に対してリスナーが強く反応する。ノスタルジーもいいけれど、ノスタルジーから一歩踏み出すのも面白い。音楽は個々の思い出と反応するが、今の自分と反応する音楽もたくさんある。「貴ちゃんナイト」に「ミュージックスクエア」を知らない若手のバンドが出るのはそういうことだ。リスナーにとっては、初めて聴く曲を、中村貴子がオンエアするときの感覚を味わえる。まさにラジオの再来。そう、「貴ちゃんナイト」はラジオそのものなのだ。

だから若手のバンドやミュージシャンにとって、「貴ちゃんナイト」に出るということは、「イベントでぶちかましてくるよ」といったいつものノリでは済まされない。「音楽の継承」を担うバンドとして紹介されるわけだから、それなりの責任を背負うことになる。当然、トリには「大物」が控えている(番組がオンエアされていた当時、新人バンドでも、今じゃ20年選手になっているわけだから)。しかもオーディエンスがステージに向かう気持ちも半端ない。イベントの全てを記憶に刻んでいこうとするファンばかりだ。いつもの2マン、3マンのイベントでは経験できない緊張感が生まれる。

貴ちゃんナイトvol.8

今回、その「重責」を担ったのはThe Cheserasera。前身となったバンドの結成が2009年。2011年、現在のバンド名に改名。2014年にメジャーデビューを果たした。メンバーは宍戸翼(Vo,G)西田裕作(B)美代一貴(Ds)の3人。今年の4月にメジャー2ndフルアルバム『Time To Go』をリリースしたばかり。今回はそのアルバムの曲を中心に8曲を披露。ドリス・デイの「ケセラセラ」で登場した3人はセンチメンタルな「賛美歌」からスタート。「butterfly ( in my stomach )」「カゲロウ」とより激しい曲へとつないでいき、一気に会場を盛り上げる。The Cheseraseraが出すサウンドは力強く勢いがあって派手だが、細かいニュアンスまでこだわって音作りをしていることがわかる。この日のトリにはサウンド作りに関して重鎮といっていいGREAT3が控えている。音楽性こそ異なるが、そこに「継承」というテーマが垣間見えて面白かった。このイベントにおいてThe Cheseraseraはアウェイの立場だが、オーディエンスは、初めて聴くかもしれない彼らの音楽を素直に受け入れていた。それは元リスナーの人たちの優しさというよりも、無意識にThe Cheseraseraの良さを探り当てたような感じだった。ここに集まった観客の耳の良さ・感性の鋭さに、ちょっと驚いてしまった。「オレはこういう人たちを相手にラジオを作っていたのか!?」という具合に。The Cheseraseraが最後の「月と太陽の日々」を演奏したときには、会場は一体となっていた。

貴ちゃんナイトvol.8

次に登場した菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet)は会場の空気を最初からモノにした。ニューヨーク・ヤンキースがヤンキー・スタジアムで試合をやるようなものだ。小学生の頃、父親の小さなラジオで「ミュージックスクエア」を一生懸命に聴いていたエピソード一発で試合の行方は決まったようなもの。菅原卓郎は会場に集まっているリスナーの代表であり、代弁者なのだ。「ミュージックスクエア」にまつわる話はなかなか止まらなかった。今回のステージで彼が準備したのは5曲。1曲目「The Revolutionary」と5曲目「Black Market Blues」が9mm Parabellum Bulletの曲。2曲目「SO YOUNG」(THE YELLOW MONKEY)と4曲目「ストレンジカメレオン」(the pillows)が「ミュージックスクエア」でよくオンエアされていた曲。3曲目が弾き語りをやるときによくカバーしているという「氷の世界」(井上陽水)。他にも「ミュージックスクエア」の思い出話と共にGLAYの曲を披露したりして会場を沸かせた。菅原の歌は強靭なボディを持っている。例えば、揺るぎない歌は9mm Parabellum Bulletのサウンドのなかで圧倒的な存在感を示している。それは90年代の音楽の影響があるのではないだろうか。今回、選曲された楽曲も歌の力、歌詞の力が凄い。「氷の世界」は90年代の歌ではないが、井上陽水と9mm Parabellum Bulletの共通点もそこにあるのではないか。集まったオーディエンスを鷲掴みにした菅原卓郎は最後に「Black Market Blues」を演奏。場内は大合唱になった。

貴ちゃんナイトvol.8

最後に登場したのは、中村貴子の熱烈なラブコールによりブッキングが実現したGREAT3。GREAT3のデビューは1995年。「ミュージックスクエア」が始まった年だ。彼らは7枚のオリジナルアルバムを残し、2004年に一旦活動を休止。8年後の2012年、GREAT3は片寄明人(Vo,G)と白根賢一(Ds)の2人で活動を再開。新ベーシストにjan(ヤン)を迎え、2012年にアルバム『GREAT3』を、2014年に『愛の関係』をレコーディングした。ステージに登場したGREAT3はグッド・メロディ、グッド・ソングを乱れ撃つ。しかしサウンドのアプローチは今もなお革新的。珠玉のメロディにサイケデリックとプログレッシヴ・ロックのアレンジが加わり、独特な世界観が形成されていた。そのサウンド・マジックはデビュー当時よりも大胆さを身につけ、janがボーカルをとる(最後の曲)「ポカホンタス」は圧倒的なプログレ世界へとオーディエンスを導いた。音楽の継承ということでいえば、彼らは身を持って、それを実践していた。今回のステージは復活後の2枚のアルバムからの楽曲を中心に構成。デビューから20年間の音楽体験が現在の自分たちの楽曲に何を及ぼしたのか。GREAT3にとってステージはそれを披露する場なのだ。昔の曲はやらなくても、そこには「継承」という二文字がしっかりと宿っている。中村貴子がラブコールを送った理由がなんとなくわかったような気がした。体験の積み重ねの向こうに「継承」は生まれる。つまり継続こそが継承なのだ。そういう意味では「ミュージックスクエア」も「貴ちゃんナイト」として続いていくことで、「音楽が好き」熱は、新しいかたちで継承されている。それはGREAT3のあり方にも似ている。

貴ちゃんナイトvol.8

アンコールはGREAT3に、菅原卓郎とThe Cheseraseraの宍戸翼が加わってセッションを行った。普段、GREAT3はこういったかたちのセッションはやらないそうだ。自分たちのライブにゲスト・ミュージシャンが入ることはあっても、イベントの出演者でセッションをやることはないという。ましてや、自分たちの曲を他のミュージシャンがうたうというのは異例中の異例。しかも演奏された曲は(番組でよくオンエアしていた)「GLASS ROOTS」と(番組のテーマ曲だった)「DISCOMAN」だ。いずれもおよそ20年前の楽曲。2016年型のGREAT3がイベントのセッションで20年前の曲をやる。どこを切ってもあり得ないことだらけだ。片寄も白根も「最初で最後」といっていた。これは「貴ちゃんナイト」だからこそ実現できたミラクル。GREAT3だけを目当てに来たファンもこのミラクルを喜んだに違いない。というわけで何が起こるかわからない「貴ちゃんナイト」は今回もあっという間に終了。「貴ちゃんナイト」はラジオと向き合ったときにリスナーが感じる濃密な関係を再現した数少ないイベント。いつも筆者に「またラジオ番組を作りたいなあ」と思わせてくれるイベント。イベントの最後に中村貴子は観客に向かって「音楽が好きでよかったねえ」と語りかけた。本当にそう思う。(森内淳/DONUT)

セットリスト

The Cheserasera

M1.賛美歌
M2.butterfly ( in my stomach )
M3.カゲロウ
M4.ファンファーレ
M5.ギブ・ミー・チョコレート
M6.ラストワルツ
M7.東京タワー
M8.月と太陽の日々

菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet)

M1.The Revolutionary
M2.SO YOUNG ( THE YELLOW MONKEY cover )
M3.氷の世界 ( 井上陽水 cover )
M4.ストレンジカメレオン ( the pillows cover )
M5.Black Market Blues

GREAT3

M1.TAXI
M2.睫毛
M3.ONO
M4.綱渡り
M5.マイ・ウェイ
M6.穴と月
M7.レイディ
M8.ポカホンタス

アンコールセッション

En1.GLASS ROOTS
En2.DISCOMAN