ザ・クロマニヨンズ「BIMBOROLL 2016-2017」ツアーのファイナル公演をリポート
ザ・クロマニヨンズのメンバーがステージに登場。1曲目は「おれ今日バイク」。1曲目から会場はヒートアップする。「光線銃」「マキシマム」「デトマソパンテーラを見た」と次から次に曲を繰り出す。今回も最新アルバム『BIMBOROLL』からの曲をどんどん演奏していく。普段からいろんなライブを観ているが、新作を掴みにするアーティストも珍しい。掴みはお馴染みの曲というのがほとんどだ。それどころかクロマニヨンズは最新アルバムの曲を全曲披露する。それがものすごく盛り上がる。もしかしたらオーディエンスも「今のクロマニヨンズ」を求めているのかもしれない。「今が最高」「最新作が最高傑作」といいつづけてきただけに、バンドもファンもいつしかそれが前提になっている。このツアーの途中で甲本ヒロト(vo)がある雑誌で力士と対談をしていた。そのなかで「すごいバンドにいたと言われるよりすごいバンドをやっていますね、と言われたい」と言っていた。そのマインドがすべてだと思った。
2017年4月22日、筆者はクロマニヨンズのツアー「BIMBOROLL 2016-2017」のファイナル公演を観に久留米へ向かった。クロマニヨンズはいつも地方都市でツアー最終を迎える(理由はわからない)。だから今までツアーファイナルを観たことがなかった。たいがいその直前に行われる東京のファイナル公演を観て終わりだ。いつかはファイナル公演を、と思っていたが、きっかけがない限り、重い腰は上がらない。今回はたまたま東京公演を観られなかっただので、思い切ってファイナルの地へ飛ぶことにした。朝、羽田を発って、お昼には福岡へ。そこから在来線に1時間ほど揺られると久留米に着いた。駅のロッカーに荷物を預け、バスに15分ほど乗ると、会場の石橋文化ホールに到着。敷地内にはきれいな庭園や美術館が並んでいる。そこを黒いTシャツを着た人たちがうろついていた。その違和感を楽しみながら、ベンチに腰掛けて開場を待った。
開場時間が近づくに連れ、ぞくぞくとお客さんが集まってくる。その客層の広さにあらためて驚いてしまう。小学生くらいの子供から中高生、中高年まで入り乱れている。なかには親子連れもいる。石橋文化ホールのキャパシティは1000人強。この日のチケットはソールドアウトだ。甲本ヒロトと真島昌利(gt)は随分長い間、ロックンロールを鳴らし続けてきた。ただ鳴らすだけではなく、常に最前線に立っていた。彼らと同年代で音楽誌や一般誌の表紙を飾れるアーティストは数えるほどしかいなくなった。それだけ時間が経ち、それだけ最前線に立ちつづけていたということだ。日本のロックンロール文化は、彼らに寄り添って歩んできた面も多々ある。僕らが、活字や電波を使って、日本のロックンロールのヒストリーを力説するよりも、遥かに手っ取り早く、遥かに臨場感のあるかたちで、彼らはそれをステージ上で語り継いでいる。そのなかで、オーディエンスも世代を超えていく。
コンサートはほぼ予定通り18時にスタート。前説が終わり、客電が落ちると「El Bimbo」に合わせマジシャンに扮したスタッフが登場。銀色のジャケットにハットという凝った衣装で客席を沸かせるが、披露したマジックは意外にシンプル。こういう馬鹿馬鹿しい演出はクロマニヨンズの世界観とフィットしていてとても楽しい。クロマニヨンズのイメージのベースのひとつにガレージ・バンドの未完成感がある。ヒロトとマーシーはカリスマだが、クロマニヨンズという枠組みになると途端に馬鹿馬鹿しい演出が繰り出される。今回、ライブの中盤から登場した巨大な渦巻きのオブジェも然り。近所の高校の学園祭に登場しそうな手作り感だ。あれが立派なオブジェだと逆にブーイングだ。観客だってそんなものは求めていない。しかし、このセンス、意外に難しい。やりすぎると「狙い」になるからだ。「狙い」はガレージ感と相反する。そこの温度は大事だ。かと思えば、ジャケット・アートはとてもセンスがいい。ここにガレージ感は微塵も感じない。とくに『BIMBOROLL』のジャケット・アート。こんなに洒落たジャケットにはなかなかお目にかかれない。この辺りはクロマニヨンズのポップ・センスが出ている。ガレージ感とポップ。このバランスがクロマニヨンズのイメージを作っている。
その『BIMBOROLL』のジャケットが描かれた幕が吊るされたステージで、クロマニヨンズはシングル「ペテン師ロック」のB面「ハードロック」「もれている」「モーリー・モーリー」と新しい楽曲をどんどん繰り出す。新しいツアーが始まると半分の曲は入れ替わってしまうので一期一会の楽曲も多々ある。聴いているこちらも必死で楽しむ。「グリセリン・クイーン」と「ダイナマイト・ブルース」を挟み、再び『BIMBOROLL』へ。「ナイアガラ」「焼芋」「誰がために」「ピート」とつづく。ライティング含め演出力が格段にアップしている。このツアーのキーワードは、前回の記事でも書いたが「エンタテインメント」。クロマニヨンズの魅力はただひたすらロックンロールを鳴らすところにある。観客はそのゴツゴツとした肉体をまとった音にオーディエンスは打ちのめされる。その音のベースを作っているのが小林勝(b)と桐田勝治(dr)だ。この二人の演奏の加速度がクロマニヨンズのサウンドの物質感(存在感)をより高める。今日も絶好調だ。これだけで満足度は相当なものだが、今回のツアーはプラスαの何かがある。その何かがエンタテインメント性ということになる。今ツアーでのクロマニヨンズはお客さんを引っ張り、お客さんを煽る。この日のライブでも、ヒロトがマーシーのギターソロの前に「マーシー!」と叫ぶ場面があった。それだけでも会場は盛り上がってしまう。今回のツアーでは、ヒロトがメンバー紹介をするという一幕も。それどころかこの日は最後にマーシーが「そしてこの男、甲本ヒロト!」と言った瞬間に会場は興奮のるつぼと化した。こんなシーンをもう何年も観ていない。コール&レスポンスや大仰なMCをやるわけではないが、彼らのライブに対する意識は変化し続けている。彼らが今も先人たちのライブを観て、音楽をむさぼり食っているからだろう。その影響は無意識のうちにあらわれる。影響され刺激され、それを吐き出す。サウンドのフォーマットは不変だが、立ち振る舞いに、その変化が見て取れる。その変化しつづけることもまた彼らの現役感を支えている一因だ。
「ペテン師ロック」「エルビス(仮)」「突撃ロック」「エイトビート」「雷雨決行」「ギリギリガガンガン」とシングル曲でクライマックスを彩る。そして本編最後が『BIMBOROLL』の最後の曲「大体そう」。今日もあっという間に終了。アンコールは「笹塚夜定食」「紙飛行機」。このツアーのラストナンバー「ナンバーワン野郎!」。最後の最後まで矢継ぎ早に曲が繰り出される。全23曲。1時間半のライブ。3分間のロックンロールが凝縮されたステージは、どんなインタビューよりも雄弁にクロマニヨンズや作品のことを語っている。ヒロトはこの日「ツアーファイナルが特別ではなく、毎回のライブが特別だ」というMCをしていたが、その日の心情を的確に映し出しているのがクロマニヨンズのライブだとすれば、「毎回特別」なものだ。そう言えば、大昔、ヒロトは「駄目なときは駄目をステージで見せればいい」とも言った。最低のステージと最高のステージは紙一重。オーディエンスの受け取り方によって評価はわかれるかもしれないが、少なくとも、ライブは、バンドの心情と心の奥底にある本当の気持ちに直接出会える場所だ。それはオーディエンスにとって、そしてバンドにとっても特別な空間だ。そして久留米のライブも、変わりゆくエンタテインメントへの考え方や決して変わらないスタイルなどなど、様々な光景がめいっぱい詰め込まれていた。(森内淳/DONUT)
セットリスト
福岡県久留米市・石橋文化ホール
2017年04月22日(土)
- 1.おれ今日バイク
2.光線銃
3.マキシマム
4.デトマソパンテーラを見た
5.ハードロック
6.もれている
7.モーリー・モーリー
8.グリセリン・クイーン
9.ダイナマイト・ブルース
10.ナイアガラ
11.焼芋
12.誰がために
13.ピート
14.ペテン師ロック
15.エルビス(仮)
16.突撃ロック
17.エイトビート
18.雷雨決行
19.ギリギリガガンガン
20.大体そう - ENC
- 1.笹塚夜定食
2.紙飛行機
3.ナンバーワン野郎!