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2016/11/9

『ザ・ビートルズ・ライブ・アット・ザ・ハリウッド・ボウル』が呼び覚ましたライブアルバムの魅力と最近よく聴いているライブアルバム3枚

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先日、ザ・ビートルズの映画について、Rock isにトピックスの記事を書いた。その映画と同時にリリースされたのが『ザ・ビートルズ・ライブ・アット・ザ・ハリウッド・ボウル』だ。このアルバムはジャケットが映画と同じなので映画のサントラと勘違いしている方もいるようだが、中身は違う。1964年と1965年、アメリカのハリウッド・ボウルという野外ステージでの演奏をライブ録音したものだ。この作品は1977年にアナログ盤でリリースされた公式ライブアルバム(当時CDはなかった)。80年代の後半、ビートルズのアルバムはCD化されていくのだが、そのときは、なぜかスルーされた。2009年、ビートルズのCDがリミックスされるのだが、そのときもリリースされなかった(理由は不明)。その「幻のライブアルバム」が2016年になってようやくCD化されたのだ(とはいえ、今やCDは廃れ、ストリーミングとアナログレコードが世界的な主流になっているのだが)。

ここ10年くらいライブはDVD、スタジオ録音はCDというふうに棲み分けられ、めっきりライブアルバムがリリースされなくなってしまった。昔はKISSやディープ・パープルやチープ・トリック、ピーター・フランプトン、THE WHO、AC/DC、ローリング・ストーンズなどなど、多くのアーティストがライブの名盤をリリースし、ビッグヒットを記録した。そこに映像がないからこそ、リスナーは音に集中し、ステージ上の緊張感や臨場感を自分の感性でキャッチした。演奏が合ってないとか、コーラスが上手くいってないとか、ドラムが走ってるとか、歌詞を間違えているとか、いろいろいう人もいるが、スタジオアルバムに比べて何かが欠落していたり、粗かったりするところに生まれるロックンロールだってあるのだ(後でスタジオに入ってアフレコするライブアルバムも多いが、それで臨場感のすべてが損なわれるわけではないしね)。ビートルズのライブアルバムは究極のロックンロールだ。飛行機の騒音のような叫び声と歓声のなか、一切ひるまずシンプルなロックンロールを叩きつける4人の姿がサウンドから浮かび上がる。そのとき、リスニングルームはハリウッド・ボウルに変わる。それは決して大げさな言い方ではなく、本当にそうなるのだ。それくらい演奏はスリリングで緊張感がある。当時はモニターの返しも何もなかった。完璧な演奏なんて所詮無理。しかしその危うさのなかにはロックンロールの醍醐味がある。ビートルズは違う意味で「完璧なロックンロール・ライブ」を、このアルバムで表現しているのだ。このアルバムを聴いて「ライブアルバムはなんてカッコいいんだろう」と思った。

日本のアーティストも優れたライブアルバムをリリースしている。サディスティック・ミカ・バンド、村八分、PANTA&HAL……矢沢永吉や甲斐バンドは何種類もライブアルバムをリリースしている。一時期、矢沢永吉はスタジオアルバムとライブアルバムを交互にリリースしていた。それほどライブアルバムのニーズはあった。ビデオが普及したあとも、そのニーズは衰えなかったように思う。やはりDVDの登場が大きかった。CDと同じ大きさで、特典として一緒にパッケージできるとなれば、ライブアルバムの立場が危うくなって当然だ。今あげたアーティストのライブ盤のなかで一番聴いたのが1980年にリリースされたPANTA&HALのライブアルバム『TKO NIGHT LIGHT』だ。ライブアルバムの名盤。PANTAは1970年、頭脳警察でデビューした。バンド解散後の1977年、PANTA&HALを結成。その後、『走れ熱いなら』(1977)『 マラッカ』(1979)『1980X 』(1980)をリリース。都市(東京)の日常と、それを構成する虚構に鋭く切り込み、ロックファンの絶大な支持を集めた。90年代以降は、この手のストレートな熱情は敬遠されたりもしたが、今は一周まわってアリなんじゃないかと思う。ライブアルバム『TKO NIGHT LIGHT』は『マラッカ』と『1980X 』の2枚のアルバムを中心に構成されたライブを録音した作品。録音場所は1980年7月16日の日本青年館。批評性の高い歌(言葉)とめちゃくちゃ上手い演奏がスリリングに展開する。面白いのはこの頃のロックには幼児性がまったく感じられないことだ。少年性すらない。今、ロックはひたすら自らの少年性・少女性をうたっている。果たして若いリスナーはPANTA&HALの歌をどう捉えるのだろうか。ライブアルバムという、スタジオアルバムよりも生々しいシチュエーションでPANTA&HALの批評性に触れるとどうなるのか。「TKO NIGHT LIGHT」「マラッカ」「つれなのふりや」の流れをどうキャッチするのか。物凄く斬新に響く可能性は十二分にある。ロックってすげえ、ということになると面白い。

 

1980年というと日本のロックをひっくり返したRCサクセションの名盤『RHAPSODY』がレコーディングされ、リリースされた年でもある。RCはライブハウスから日本武道館までのサクセス・ストーリーをわかりやすく見せてくれた最初のロックバンドだ。RCサクセションは「ぼくらのロックバンド」第1号だった。快進撃のきっかけとなったのがアルバム『RHAPSODY』。久保講堂のステージを録音して作られた傑作だ。その25年後の2005年にリリースされたのが『RHAPSODY NAKED』。『RHAPSODY』は1枚の完成したアルバムにまとめるために編集されたものだが、こちらは久保講堂で演奏されたライブを最初のMCからインターバルから何からまるごと収録した作品。『RHAPSODY』のように整理整頓されてない分、作品としては粗削りで乱暴でゴツゴツしているが、それが最高にカッコいい。このアルバムのRCサクセションはとにかくブルージーでソウルでロックンロールで、何よりもゴージャスだ。そのサウンドが2005年のテクノロジーを使って、強力な音の圧で迫ってくる。その音の圧はRCサクセションの演奏の臨場感をさらに高め、その臨場感の高まりがそのままリスナーの興奮へと変換される。日本のロックンロール・アルバムのトップ5に入る作品だ。もしかしたらナンバーワンかもしれない。このアルバムを超えるのは至難の業だ。2005年といえば、世界中で盛り上がっていたロックンロール・リバイバルがだんだん終焉に向かっていた頃だ。その流れを嘲り笑うように、東洋の島国から強力なロックンロール・アルバムが登場したということになる。狙ったわけではないだろうが、このカウンターのようなタイミングがいかにもRCサクセションっぽい。『RHAPSODY』ももちろん最高だが、欠落をもカッコよさへと昇華させるのがロックンロールとすれば、『RHAPSODY NAKED』は最高を超えた傑作だ。この作品を若いロックリスナーが聴いたらどうなるのだろうか。確実にぶっ飛ぶね。間違いない。

2013年、ザ・クロマニヨンズがリリースした『ザ・クロマニヨンズ ツアー 2013 イエティ対クロマニヨン』も大好きなライブアルバムだ。この作品は同名ツアーのライブの模様をレコーディングしたもの。筆者が所有しているアナログ盤にはどの会場で収録されたか明記されていないが、67本行われたなかのどこかということになる。クロマニヨンズのセットリストは同じツアーでもライブごとに微妙に変わるので、「このライブアルバムには、ほぼセットリスト通りに最初から最後まで収録してある」と書いておく。1枚のCDに24曲(+オープニング)も入っているというのがクロマニヨンズっぽい。CDの長さを基準にしてスタジオアルバムを作ると、毎回、24曲作らなくてはいけない計算になる。そんなことになったら作る方も聴く方も大変だ。しかしそんなことにはならない。なぜなら彼らの基準はアナログレコードだからだ。そういう意味でいくと、24曲も入っているこのライブ盤はスペシャル感満載だ。もうひとつ、この作品は、他のアーティストのライブ盤にはない特徴を有している。それは直近のスタジオアルバム『YETI vs CROMAGNON』の全曲を聴けることだ。これはクロマニヨンズが新譜の全曲を披露することによる。したがって2枚のアルバムを持っていると、スタジオ録音とライブ録音、それぞれの良さを容易に比較できる。このライブアルバムの良さをあげるとすれば、小さなライブハウスに放り込まれた気分になることだろう。メンバーの息遣い、お客さんのリアクション、すべてが近くて濃密だ。もしかしたら本当に比較的小さなライブハウスでの録音なのかもしれない。ただクロマニヨンズの場合、中野サンプラザのようなホールコンサートでもお客さんとの距離はあってないようなものだ。どんなに後ろの席で観ていようと、椅子があろうとなかろうと、胸ぐらをグイと掴まれ、ステージにずるずる引き込まれるような気分になる。その感覚をこのライブアルバムはきちんと収録している。レコード盤から熱風が吹き荒れている。このライブアルバムを聴いたら、クロマニヨンズのライブに行きたくなる。ライブDVDを観るよりも、居ても立ってもいられない気分になる。それがライブアルバムのマジックだ。ビートルズもPANTA&HALもRCサクセションも、もう観ることはできないが、クロマニヨンズは観ることができる。しかし、ライブアルバムのなかでは、ビートルズもPANTA&HALもRCサクセションも、バリバリの現役バンドだ。それもまたライブアルバムのマジックだ。明日はハリウッド・ボウルに行こうか、久保講堂にしようか、それとも日本青年館か。(森内淳/DONUT)

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