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2017/6/9

日本のロック・シーンに影響を与えた66枚のレコード 〜松村雄策・著『僕を作った66枚のレコード』書評

 『僕を作った66枚のレコード』

松村雄策さんは音楽評論家であり作家でありミュージシャンだ。『ロッキング・オン』の創刊メンバーとしても有名だ。そしてぼくがリスペクトする先輩でもある。著書も多数。小説もあればエッセイもある。そのなかで一番多いのがザ・ビートルズに関する著作だ。1951年生まれの松村さんは1964年にビートルズの音楽に出会い、1966年に日本武道館でビートルズのライブを観ている。80年代にはポール・マッカートニーにインタビューをし、その模様がポールのミュージック・ビデオに採用されている。そもそもジョン・レノンが好きで、オノ・ヨーコに何度も取材をしている。この本のなかにもオノ・ヨーコの発言がちょこちょこ引用されているが、ファンが知りたいと思うことを、松村さんは上手く引き出している。

 『僕を作った66枚のレコード』

松村さんのビートルズに関するテキストが面白いのは、ひとりのファンとして、真摯なビートルズ・リスナーとして接してきたからだ。当時、ビートルズが少年の心をどうとらえたのか。また若者がビートルズをどういうふうにとらえられていたのか。あの名盤の数々を最初に聴いたとき、どう思ったのか。ファンの息遣いが文章から聞こえてくる。それはどんな評論家が書くビートルズ論よりも臨場感がある。ビートルズの功績をロックの歴史のなかで位置づけることも大切だが、当時、ビートルズがどのようにファンに受け入れられていたのかはリアルタイムのファンにしか書けない。今、現在のビートルズの評価は、そういうファンの熱が少しずつ蓄積され、それが世代を超えて波及した上に成り立っている。松村雄策という書き手がいなければ日本でのビートルズの評価は確実に遅れをとっていたと思う。

 『僕を作った66枚のレコード』

松村雄策さんの新しい本が小学館からリリースされた。『僕を作った66枚のレコード』。ロックの名盤を集めたバイヤーズ・ガイドだ。この本は他のバイヤーズ・ガイドと少々異なる。一番大きな違いは、選ばれているレコードのラインナップだ。ロックの名盤への評価が毎年ころころ変わるわけもなく、だいたいどの本を読んでも同じようなラインナップになるのだが、この本は違う。この手のバイヤーズ・ガイドは洋楽のみで構成されることが多いのだが、この本には、ザ・スパイダースや寺内タケシとザ・バニーズやザ・フォーク・クルセダーズなどのアルバムもラインナップされている。しかも扱い方はビートルズやドアーズと同じだ。原稿の熱量も、世界的名盤と変わらない。バイヤーズ・ガイドの体をなしているが、「僕=松村雄策」というロック・リスナーを形作った66枚のレコードについて書かれた本なのだ。それではバイヤーズ・ガイドとしての機能は果たせていないのか。そうではない。

松村さんはビートルズと出会うずっと前から音楽ファンだった。この本にも出てくるが、すでに小学生の頃から日劇にウェスタン・カーニバルを見に行っていた。その頃はポップ・ミュージックの主流はカントリーやフォークで、まだその頃、日本にはロック・バンドという概念は存在していなかった。ロック・バンドが日本にやって来たのは1964年にビートルズのレコードが発売されてからだ。64年初頭、ビートルズの国内発売の前に、いち早く輸入盤屋でビートルズを発見したムッシュかまやつがスパイダースをロックンロール・バンドへと方向転換した。それが日本で最初にロックンロールが鳴った瞬間だった。そういった経緯も、全部、松村さんはその目で、耳で見てきた。もちろんビートルズのレコードが最初に店頭に並んだのもリスナーとして体験した。スパイダースもドアーズもジャックスもアニマルズもジミ・ヘンドリックスも全部リアルタイムに吸収していった。つまり松村さんの音楽体験は、日本でロックが大衆音楽として定着していく過程そのものなのだ。どうやってロックが日本に浸透していったのか。そのなかでどんなアーティストのどんなアルバムが重要な役割を果たしたのか。この本を読むとだいたい理解できる。だから他のバイヤーズ・ガイドには登場しないアルバムやアーティストも「日本においてロックやポピュラー・ミュージックを語る上では重要な作品」として登場する。したがって、この本は「日本のロック・シーンを作った66枚のレコード」と言い換えられる。(森内淳/DONUT)

 『僕を作った66枚のレコード』

著者:松村雄策
発行:小学館
品番:ISBN978-4-09-388516-4
価格:2,000円+税

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