音楽・ロックンロールのWEBマガジン
Rock is(ロックイズ)

4月30日 19:30頃

2日間数え切れない熱狂を生み出してきたアラバキも、残すは大トリのみ。「THE GREAT PEACE SESSION COVERS 2017 -MESSAGE FROM MICHINOKU-」である。僕は『カバーズ』がリリースされた1988年に生まれた。だからこの作品に特別な思い入れがある。その企画が、初めて訪れることができたアラバキの締めくくりになるというのが、何か不思議な巡り合わせを感じていた。急いでMICHINOKUへ到着した時には、THE GREAT PEACE SESSION BANDの仲井戸麗市(Gt, Vo)、三宅伸治(Gt)、湯川トーベン(Ba)、河村吉宏(Dr/河村“カースケ”智康の息子さん)、Dr.kyOn(Key)と、最初のゲストであるTOSHI-LOW(BRAHMAN)が「明日なき世界」のパフォーマンスを終わらせていた。続くゲスト斉藤和義を迎えると、「風に吹かれて」が始まる。東日本大震災が起きてしまってから、いけないことかもしれないけれど、「忌野清志郎が生きていたら何をしただろう?」とよく考えるようになった。そんな自分は、2011年に斉藤和義が「ずっと好きだった」の替え歌を披露したとき、胸がすく思いがした。それは原発に異を唱えたから、政府に噛み付いたからではなく、なぜか自然と涙が溢れるような体験だった。この「風に吹かれて」も、そういう体験だった。というか単純にカッコいい。楽しい。最高。それだけで十分だと思わせてくれたのが次の「バラバラ」、ゲストは甲本ヒロト(ザ・クロマニヨンズ)である。選曲とゲストがいちいちぴったり。颯爽と歌いハープを吹き荒らしツイスト風に踊り、最後はチャボに抱きつき去っていった。

THE GREAT PEACE SESSION COVERS 2017 -MESSAGE FROM MICHINOKU-

コーラスも担当していたLeyonaがソウルフルに歌い上げた「シークレット・エージェント・マン」。個人的にはデューゼンバーグを生き生きと弾く三宅伸治のプレイに痺れた。奥田民生がしっとり聴かせたのは「ラヴ・ミー・テンダー」。いつものパワーボーカルでない分、歌詞がスッと心の奥底に染み渡るような感覚。演奏が止み、チャボが原曲のエルヴィス・プレスリーをキング・オブ・ロックンロールと紹介したことにちなみ「キング・オブ・ロックンロール、奥田民生!」と彼を送り出すと、恥ずかしそうにステージを降りた。代わりに登場したのは「すげえぞ! こいつが歌ってくれるぞ!」と吉川晃司だ。いつでもどこでも吉川晃司。寝ても覚めても吉川晃司。そんな完全無欠のロックボーカリストぶりで「黒くぬれ!」を吉川節にぬりつぶしてしまった。

「ブルースと言えばこいつだ、三宅伸治!」と紹介された彼と、箭内道彦のツインボーカルが轟いたのは「悪い星の下に」。図太く粘っこいアルバート・キングとも『カバーズ』で弾いた狂おしい山口冨士夫とも違い、三宅伸治なりの洗練された熱いサウンドを聴かせてくれた。ここでチャボは「余計なことかもしれないけど」と前置きしつつこの企画に対する思いを語る。「菅くんに頼まれて、2017年にこの作品を演る意味合いを俺も感じてんだけど、実は1988年、RCサクセションとしては混沌の時期でありました。数年後にRCは活動停止に入ります。だけど不思議だね、バンドやってるやつはわかると思うけど、そんなバンドのムードとは別に、クリエイティブな作品というのは生まれちゃうんだよ。忌野くんが今いなくて、この作品を2017年にやるとは思ってなかったんだ。ずいぶん迷ったけど、リハーサル、それから今夜、こんなすげえシンガーが歌ってくれることで、音楽のマジック、感じてます! アラバキありがとう!」。

演奏に戻る。「マネー」はゲストなし、チャボと三宅伸治がボーカル&ギターを絶妙に絡ませ合う万感の名演。さらにDr.kyOnも一節歌い、トーベンがベースソロを聴かせる。「サン・トワ・マ・ミー」は中納良恵(EGO-WRAPPIN’)による歌唱。彼女にかかれば楽曲の壮大さと力強さが強調され、バンドサウンドも相まって一気にロックアンセムへと早変わりだ。再びTOSHI-LOW、斉藤和義が登場したのは「サマータイム・ブルース」だ。エディ・コクランが発表、ザ・フーなどの世界中のアーティスト、日本では憂歌団や子供ばんどもカバーした名曲。チャボによる往年のグリスプレイも飛び出した。最後の1曲は、奥田民生と吉川晃司が歌う「イマジン」である。地球を、アラバキを、この場にいるひとりひとりを抱きしめるように、終盤にはゲスト全員がステージに上がり、オーディエンスとの合唱をもって有終の美を飾った。

終演後、歌詞の映像とともに響き渡ったのは、「君はLOVE ME TENDERを聴いたか?」だった。『カバーズ』発売後、日比谷野外音楽堂にて行われた公演の模様を収めたライブアルバム『コブラの悩み』に収録されたナンバーである。これを含めてTHE GREAT PEACE SESSION COVERS 2017の完遂ということだ。曲が終わると、モニターに清志郎のピースサインをアップで撮った写真と、「LOVE & PEACE」のメッセージが映し出されていた。

 

  • セットリスト
  • 01. 明日なき世界
    02. 風に吹かれて
    03. バラバラ
    04. シークレット・エージェント・マン
    05. ラヴ・ミー・テンダー
    06. 黒くぬれ!
    07. 悪い星の下に
    08. マネー
    09. サン・トワ・マ・ミー
    10. サマータイム・ブルース
    11. イマジン

 

2日間にわたり約110組が出演、過去最大動員となる約5万4000人が駆けつけたARABAKI ROCK FEST.17。初体験だったけれど何も不都合なことはなく、とても快適にライブを楽しむことができた。そして何度も書くように、本当にここでしか観られないもの、感じられないものがたくさんあった。すでに来年の開催日程は2018年4月28日(土)29日(日)と発表されている。まだ来たことがない人、今年は諦めた人、毎年楽しんでいる人、すべての人にぜひ足を運んでほしいと思う、最高のフェスティバルだった。(秋摩竜太郎)

 

ARABAKI ROCK FEST、関連ページ