<DONUT提携コンテンツ> 突然少年 ニューアルバム『心の中の怪獣たちよ』インタビュー
あきらかにファーストとちがうのは「4人で話して作ったアルバム」なんです。コミュニケーションを4人でとって作ったアルバムだなっていう
―― 戸田源一郎
コロナ禍で一番きびしい状況にあるのはライブ・バンドだ。突然少年のように年中全国で演奏しているようなバンドは、ライブハウスでの体験(演奏やスタッフとのかかわり合い、客席とのコール&レスポンス含め)が少なからず作品の糧となる。ライブが出来なくなる辛さは経済的な問題だけに変換して語られることが多い。が、心の問題やクリエイティブの問題も含んでいるから深刻なのだ。その中で突然少年がドロップした新作が『心の中の怪獣たちよ』。ドラムの岩本斗尉が加入して最初の作品ということもあり、またコロナ禍ということもあり、さらには前回のインタビューの印象から、試行錯誤のあとが鮮明に感じられる作品になるのかと思いきや、まったく正反対の、とても統一感のある、バンドが向かうべき方向を明確に示した作品になった。ネガティブな状況にもかかわらず、今まで見られなかったようなポジティブなワードも随所に散りばめられている。突然少年のあらたな一歩を感じる秀作だ。合宿レコーディングの様子を軸にバンドに対するメンバーの意識の変化を大武茜一郎(vo&gt)と戸田源一郎(ba&cho)に訊いた。
撮影=菊池茂夫/ライブ撮影=岸田哲平
取材・文=秋元美乃/森内淳
―― ニューアルバム『心の中の怪獣たちよ』が完成しました。感想を教えてください。
戸田源一郎 一言でいうと大変だったなあっていう。山中湖に一週間こもりっぱなしで。一人になる時間もなくて、4人とレコーディングエンジニアの人とずっと一緒で。
大武茜一郎 寝る場所もメンバーそれぞれアンプとかが置かれてる部屋だったんですよ。
マネージャー スタジオに布団を敷いてましたね(笑)。
―― まさに合宿ですね(笑)。
大武 だからもう気が狂いそうでした(笑)。とはいえ僕がいたのはブースで個室だったんですけど。だけど、なんか逃げられない感じが(笑)。
―― 山中湖で合宿しながらレコーディングしようというのは誰の発案なんですか?
戸田 エンジニアのKJさんが「楽しいところがあるよ」って。
大武 「バーベキューとかできるよ。鹿もいるよ」って(笑)。
―― じゃもう最初はワクワク気分で(笑)。
大武 そうですね。こんなに長期でレコーディングをやるのも初めてだったんで。
―― 山中湖にこもった成果はありましたか?
戸田 ある意味、無心で音楽に向き合えたというか。KJさんともあっちがいいんじゃないか、こっちがいいんじゃないかとか話し合えましたし。
―― 今までのレコーディングはライブの延長じゃないですけど、瞬発力重視という印象がありましたからね。
大武 そうですね。
―― だけど、ファースト・アルバムのレコーディングも過酷だったんじゃないですか?
大武 ファースト・アルバムは大阪のスタジオで録ったんですけど、自主企画をやった次の日からレコーディングがはじまって、3日間で9曲録ったのかな。1日空いて、大晦日に大阪でライブをやって実家に帰る、みたいな。ライブとライブの合間にレコーディングをやりました。
―― 神戸での監禁ライブも経験したわけで。
大武 あのときは好きなバンドだったり、お客さんもそうだけど、ライブハウスに来てくれる人たちがいたから、毎日、新鮮さを感じていたというか。外からの刺激があったので。
戸田 大阪でレコーディングした時もスタジオを出てコンビニがあったり、店があったり、人が普通にいるのが当たり前だったわけで。今回はスタジオを出ても誰もいなくて、森が広がっていて(笑)。
―― レコーディング以外のことがシャットアウトされるわけですね。
戸田 そうなんですよ。
大武 このコロナの事態もそうですけど、そうなると必然的にバンドに向き合わなきゃいけない、自分に向き合わなきゃいけないっていう時間だったので、神戸の監禁生活とはけっこうちがうベクトルだったかもしれないですね。ただ、「あそこ、ああすりゃよかったなあ」とか夜中にひらめくことがあるんですけど、そういう時もメンバーやエンジニアさんとすぐに共有できる感じがあったから、それはなんか新しい感じがしました。
―― アイディアをすぐに反映できたわけですね。
戸田 ただ、考えれば考えるほどやりたいことが増えていっちゃうタイプだから、けっこうKJさんとかにはいろいろ言ったりしたかもしれないですね。「こっちのほうがいいんじゃないですか?」とか。メンバーにも、前まで言っていたこととはちがうことを急にいろいろ言ってみたりとか。だからもう僕自身がどっちに行ったらいいのかわからなくなったりしましたね。
―― レコーディングに入る前は音の方向性は決めていなかったんですか?
戸田 レコーディングでは12曲録ったんですけど、プリプロもやって(音の方向性は)はっきり決まってはいたんです。だけどやっぱり出てきちゃうんですよね、「ああしたい、こうしたい」っていうのが。とくに今回のスタジオは天井がものすごく高くて、(音の)鳴りが今までのスタジオと全然ちがっていて。そこからまたイメージし直す曲もあったりしたので。
―― 選択肢が増えると選ぶのがむずかしくなる。
戸田 いろいろ試した中で一つを決めるという状態だったから、やっている時はけっこうしんどいなと思ったりしました。今までは選択肢の中から一つを選ぶことがなかったので。だからこそ出来上がった音源には自信がもてるんですけど。いっぱい数がある中から一つを選んでいるわけだから。「これしかないよね」っていうのを選択できたと思います。
―― 過程は辛かったけど結果的には今まで以上に自信がもてる作品になったわけですね。
大武 ミックスの時も、歌もギターのテイクも選択肢が常にあったのでよかったです。
戸田 今まではレコーディングのあとに「ああ、ここはこっちにすればよかったなあ」っていうことがけっこうあったんですけど、今回は試せることを全部試せましたからね。
―― たくさんのテイクの中からどういうふうにベストなテイクを選んだんですか?
戸田 時には喧嘩とかもしながら4人で決めたり、KJさんに決めてもらったり。「こっちのほうがミックスしやすいから、こっちがいいんじゃないか」とか。だからすごい勉強にもなりました。「これをこうすればいいんだ」っていうことをKJさんにいろいろ教えてもらったりしました。
大武 貴重な体験をさせてもらいました。
戸田 最終日に、その場で(収録曲の)9曲を選んで。
―― その場で選んだんですか?
戸田 時間的にその場で選ばないといけないぐらいのタイミングで。本当はレコーディングを4月にやるはずだったんですよ。4月とか5月にやろうという話だったんですけど、それがずれて7月になって。でも発売は10月にしたいねっていうことで、最終日にアルバム・タイトルもその場で決めました。レコーディングに入る時に「何がいいか考えておいてね」という話があったので、最終日に決めました。
―― 濃密な1週間だったわけですね(笑)。
大武 あの場にいた人はみんな大変だったと思います。(マネージャーの)アラヤさんも毎日メシを作ってくれたり(笑)。オーナーの渡辺さんって方もお酒が大好きで。毎晩、音が止むと「終わった?」って言ってワインをもってきて(笑)。とてもチャーミングな方で。
※このコンテンツは、音楽・ロック・ロックンロールの物語をレコードする「DONUT」の提携コンテンツとしてWEBサイト「DONUT」に掲載されているインタビューを掲載しております。