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Rock is(ロックイズ)

ARABAKI ROCK FEST.16のオオトリがBRAHMAN。フェスのプロデューサー曰く「(去年のオオトリの)THE COLLECTORSのカバーに出たTOSHI-LOWくんがBRAHMANでもやってみたいといったので組んだ」。ところがステージでTOSHI-LOWは「セッションなんて、俺だってやりたくてやってんじゃないよ! でも(プロデューサーの)菅さんのインタビュー読んだら、酔っ払ってセッションやらせろって言ったって」と発言。どちらの言い分も正しいのだろう。TOSHI-LOWが酔っていたにせよ、最終的に「やる」と決断したから実現した貴重な場だ。東日本大震災以降、BRAHMANが東北と深く関わってきたからこそ、実現した場でもある。あれから5年が経ったのだ。

BRAHMAN

このセッションに登場したのは、奥田民生、SION、チバユウスケ(The Birthday)、ハナレグミ、NAOKI(SA)、中納良恵&森雅樹(EGO-WRAPPIN’)、中川敬(ソウル・フラワー・ユニオン)、宮本浩次(エレファントカシマシ)、 山口洋(HEATWAVE) 、山田将司&岡峰光舟(THE BACK HORN)、吉野寿(eastern youth)。前年のTHE COLLECTORSセッションは彼らをリスペクトするミュージシャンや盟友を中心に構成されていたが、今回は、それに加えて、宮本浩次やSIONなど、TOSHI-LOWの音楽履歴の中の登場人物がステージに立った。まさに「ここでしか体験できないライブ」だ。

ライブはまず9mm Parabellum BulletとTHE BACK HORNの混成バンドA MAN OF THE MICHINOKUからスタート。これは前年の、the pillows山中さわおを中心に構成されたTHE COLLECTORSカバーバンドを踏襲。菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet)、菅波栄純(THE BACK HORN) 、中村和彦(9mm Parabellum Bullet)、松田晋二(THE BACK HORN)の4人編成のA MAN OFTHE  MICHINOKUがステージに登場。バンド名はBRAHMANのアルバム『A MAN OF THE WORLD』によるもの。彼らは、BRAHMANの「That’s all」「Therer’s no shorter way in this life」「Answer for」をカバー。ステージ狭しと暴れまわるパフォーマンスで1万人のオーディエンスを温めた。

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EGO-WRAPPIN’中納良恵と森雅樹の2人がステージに現れた。披露した楽曲は「Speculation」。ピアノとドラム、そして中納良恵の歌が会場を覆う。途中でBRAHMANが演奏に入っていくという演出。BRAHMAN に近づけるというよりも、EGO-WRAPPIN’らしさを全面に押し出した展開に、このライブが通常のBRAHMANのライブとは違い、特別な場だということを宣言していた。

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2曲目は2010年にBRAHMAN/EGO-WRAPPIN’名義でリリースされたEP『SURE SHOT』より「WE ARE HERE」を披露。次にTHE BACK HORNの山田将司と岡峰光舟が登場し、「BASIS」を演奏。ひたすらBRAHMANへのリスペクトに溢れたステージだった。次にTOSHI-LOWがステージに呼び込んだのは、同級生だったというハナレグミの永積タカシ。「空谷の跫音」を演奏した。ハナレグミとBRAHMANのイメージも決して近くはないが、一体感を感じるステージとなった。

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なんとも多彩なゲスト。なんとも多彩な音楽性。しかしこれで驚いてはいけない。エレファントカシマシの宮本浩次がステージに現れた。ここで誰もが「何をうたうのだろう?」と思ったに違いない。するとTOSHI-LOWは「中学の頃『生活』というアルバムを聴いて衝撃を受けた」と、宮本浩次に逆リクエスト。BRAHMANの楽曲ではなく、エレファントカシマシの「too fine life」(『生活』収録曲)を披露した。BRAHMANのステージで宮本浩次が登場し、エレファントカシマシの曲を共演するという奇跡のような時間だった。

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「変化球」はまだまだつづく。次に登場したのがeastern youthの吉野寿とSAのNAOKI。関西フォークの名曲「君の窓から」(西岡恭蔵・作詞作曲)が演奏された。「君の窓から」は吉野のチョイス。それになぜNAOKIが加わっているのか疑問に思う読者も多いと思う。実は、NAOKIは学生時代にフォークソング部に所属していた。SAのイベントでもアコースティックギターを抱えて、フォークの名曲たちを披露している。次にNAOKIが所属していたラフィンノーズの代表曲であり80年代パンクのアンセム、そしてTOSHI-LOWが愛読していた(80年代の)『宝島』全盛期を象徴する楽曲「GET THE GLORY」を披露。

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つづいてSIONが登場。うたうことを迷っていたTOSHI-LOWの背中を押したSIONの楽曲「俺の声」を披露した。「too fine life」「君の窓から」「GET THE GLORY」「俺の声」。この流れはARABAKIだからこそ体験できるパフォーマンス。もしかしたらBRAHMANもカバーしている楽曲「俺の声」を除いてはBRAHMANらしくないのかもしれない。TOSHI-LOWはライブ終盤、「似合うとか似合わないとか、そういうプライドは捨てた」といった意味のMCをした。それは震災がもたらした心の変化でもあった。自らのイメージ以上に繋がることに意味を見出したのかもしれない。それを、この一連のパフォーマンスは象徴していたように思う。
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さらにゲストはつづく。「カミソリみたいな声に憧れた」という紹介で登場したのはThe Birthdayのチバユウスケだ。The BirthdayとBRAHMAN。同じロックンロール・バンドでありながら、音楽性や表現は異なる。しかしロックンロールという共通語が、そこに存在している。つづく奥田民生も然り。パフォーマンスのスタイルが違う。客層も違う。しかし永積タカシのときのように、2組とも妙に溶け込んでいた。チバユウスケを迎えての「露命」、奥田民生を迎えての「其限」。ばっちり噛み合った異種格闘技の試合を観たようなカタルシスがあった。そして、本編最後に登場したのはソウル・フラワー・ユニオンの中川敬、HEATWAVEの山口洋、そしてうつみようこが登場。演奏された楽曲は言うまでもなく中川敬と山口洋の合作「満月の夕」。1995年1月17日に起こった阪神・淡路大震災を受けてできた「満月の夕」には、被災地からの思いを綴ったソウル・フラワー・ユニオン・バージョンと被災地への思いを綴ったHEATWAVEバージョンの2つの歌(歌詞/アレンジ)が存在する。TOSHI-LOWは東北の震災以降、その2つの歌をミックスしたバージョンをうたい続けてきた。震災から5年経ったARABAKI ROCK FEST.の本編最後を飾るにはふさわしい曲だったかもしれない。もちろんその思いは、フェスの直前、大きな震災に見舞われた熊本、大分へも向けられた。

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アンコールはBRAHMANのステージ。「ここからはいつものBRAHMANをやろう」という宣言。「賽の河原」「BEYOND THE MOUNTAIN」「警醒」「PLACEBO」「鼎の問」「The only way」を披露。途中、「PLACEBO」では盟友・細美武士がゲストで登場し、会場を盛り上げた。途中のTOSHI-LOWのMCでもあったように、BRAHMANの曲とパフォーマンスだけで成立したステージを求めるファンもいたと思う。それだけでもBRAHMANの思いは十分に伝えられるからだ。しかし長年にわたって音楽を繋げてきたこと、その間、芽生えた他者へのリスペクト、さらには被災地への思いなど、「時間」のなかに封じ込められたひとつひとつの事象を丁寧に開示していくことも、また、BRAHMANにとってやらずにいられないことだったと思う。それを受け入れる者、受け入れられない者、様々だと思う。誰しもがパブリックイメージを持ち(持たされ)、それが許容できる範囲は限られている。しかしそれを理解した上で、あえてBRAHMANは「時間」をひも解き、自分たちを解体した。音楽がいろんな糸で、いろんな気持ちで繋がっていることを示した。それによって得られるカタルシスもある、ということを示してくれた。それはイメージという枠組みを超えようとしたときに、初めて踏み込める新しい領域でもある。それによってBRAHMANの音楽性が変わるわけではない。しかし音楽に向かう気持ちは、より熱くて激しいものになるだろう。二度と観られないかもしれない貴重な時間に立ち会えたことを嬉しく思う。(森内淳/DONUT)

BRAHMAN「THE COVER」セットリスト

  • A MAN OF THE MICHINOKU
  • Vo:菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet)
  • Gt:菅波栄純(THE BACK HORN)
  • Ba:中村和彦(9mm Parabellum Bullet)
  • Dr:松田晋二(THE BACK HORN)
  • 1.That’s all
  • 2.Therer’s no shorter way in this life
  • 3.Answer for

THE COVER(ゲスト)

  • 1.Speculation(EGO-WRAPPIN’)
  • 2.WE ARE HERE(EGO-WRAPPIN’)
  • 3.BASIS(山田将司,岡峰光舟 from THE BACK HORN)
  • 4.空谷の跫音(ハナレグミ)
  • 5.too fine life(宮本浩次 from エレファントカシマシ)
  • 6.君の窓から(吉野寿 from eastern youth/NAOKI from SA)
  • 7.GET THE GLORY(吉野寿 from eastern youth/NAOKI from SA)
  • 8.俺の声(SION)
  • 9.露命(チバユウスケ from The Birthday)
  • 10.其限(奥田民生)
  • 11.満月の夕(中川敬 from SOUL FLOWER UNION/山口洋 from HEATWAVE/うつみようこ)

 BRAHMAN

  • 1.賽の河原
  • 2.BEYOND THE MOUNTAIN
  • 3.警醒
  • 4.PLACEBO(細美武士 from the HIATUS/MONOEYES)
  • 5.鼎の問
  • 6.THE ONLY WAY

 BRAHMAN Photo

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Photo by ARABAKI ROCK FEST.16 OFFICIAL

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