武道館に元少年たちのブルーズが鳴ったとき、フラカンの楽曲たちが次のステージに立った
2015年12月19日(土)フラワーカンパニーズの日本武道館公演の日。ステージでグレートマエカワは「この逆のシミュレーションはしていたんだけど」といった。逆のシミュレーションとは客席がガラガラなシミュレーションだ。果たして、誰もが「やめろ」と止めた日本武道館公演はオーディエンスでいっぱいになった。用意していた当日券もすべて売り切れ。武道館は1万人近くの人で埋まった。物販の列も開演1時間前の時点で武道館を長蛇の列が取り囲んでいた。「Tシャツのサイズがないものがある」とこぼしているファンもいた。ポール・マッカートニーのときのような熱狂が武道館周辺に横たわっていた。
九州から参加したファンは「いつもは小さなライブハウスでしかフラカンを観たことがない。たくさんのお客さんの前にフラカンが立つだけで泣くかもしれない」といった。多くの人が、そんな光景を誰もが期待して集まってきたと思う。いつものフラカンがふらっとステージに現れて、いつものように演奏する。しかしそこはライブハウスではない。日本武道館だ。その光景はとても美しく見えるだろう。地道にライブハウスで活動をつづけてきたバンドへの、ロックンロールの神様からのご褒美のように映るかもしれない。直前取材で鈴木圭介とミスター小西は「フラカンが武道館でやれるというのはいろんなバンドに勇気を与えることになる」と話していた。愚直にロックンロールをやっていれば、その先に予想以上のことが待っている。夢物語はいつの日か現実になる。頑張れば自分だってなんとかなるんじゃないかという「投影」も可能だ。フラカンが武道館に立つ姿は、リスナーの日常に勇気の火を灯すことにもなる。
その期待に応えるかのように、フラワーカンパニーズは「いつものフラカン」を3時間にわたって披露した。「消えぞこない」からスタートしたライブは3度目のアンコール「サヨナラBABY 」まで全27曲。満員のお客さんは終始熱狂に包まれた。しかしながら、ステージ上には、90年代のローリング・ストーンズのライブのような派手なセットや特別な演出はなかった。U2のようにステージ後方を巨大なビジョンで飾るわけでもない。そこにステージがあって、マイクがあって、アンプが並んでいて、ドラムがあって、モニターがあって、後方にはニワトリの絵が描かれたフラカンのバックドロップ(幕)が垂れ下がっていた。基本的にはライブハウスと変わらない。そこで「いつものロックンロール」が演奏された。特別なことといえば、グレートマエカワのキラキラの衣装(アンコール時にはクリスマスツリー仕様となる)と鈴木圭介の(2万3千円の)ジャケット、竹安堅一のベストくらいか。


ところが、ライブが進むにつれ、心のなかに、このライブは何かが決定的にちがうという思いが湧き上がってきた。「武道館のフラカン」は「いつものフラカン」とはちがうんじゃないか。そう思い始めた。「この胸の中だけ」のとき、その正体ははっきりした。「この胸の中だけ」は「大人の自分(現在の自分)」が「少年時代の自分」と対話する歌だ。日常のなかで迷い続ける大人の自分が、少年時代の自分の目を通して、答えを探そうとする歌。その背景には「これでよかったのか」あるいは「これでいいのか」という問いが渦巻いている。フラカンが自分たちの歌に取り上げるテーマのひとつでもある。
この自問自答は、自分はすごく共感できるけど、決して万人が共感するものではないだろうな、という気持ちがどこかにあった。ところが、武道館でこの曲が鳴らされたとき、その歌を1万人が同時に共有したとき、今までとはちがう光景が広がった。フラカンの歌は決してミニマムなものではない。金持ちだろうが貧乏だろうが成功してようがしていまいが、みんなが抱える心の光景なのだ、ということがはっきりとわかった。その瞬間、フラカンのロックンロールが普遍性を獲得したような気がした。いや、確実に普遍性を獲得したのだ。
次の瞬間、フラカンが演奏するすべてのロックンロールが、よりダイナミックに、より大きな音楽として心に響いてきた。すでに演奏し終えた曲も、脳内再生したときに、もはやちがう次元にいるような気がした。フラカン自身は最初からそういうつもりでロックンロールを鳴らしていたと思う。何を今更という感じだろう。その視座に沿うと、やってきた音楽が決してマニアックでもミニマムなものでもなかったということを証明するための武道館だった、ということになる。フラカンは「元少年のブルーズ」が誰の心をも揺らす力をもっているということを武道館で証明してみせたのだ。「苦労したバンドが武道館でやる」とか、それはどうでもよくないことだけど、どうでもいいことのように思えた。
この手応えと確信は、フラカンの2016年をすごいものにしていくように思う。何がどうすごくなるのか、わからないけれど、絶対にすごいことになると思う。そういう意味では武道館は到達点ではなく、出発点だった。メンバーは「もう一度やりたい」とブログに書いていたが、やれると思う。
【公演データ】フラカンの日本武道館~生きててよかった、そんな夜はココだ!~
2015年12月19日(土)17時開演 日本武道館
セットリスト:1. 消えぞこない/2. 恋をしましょう/3. 星に見離された男/4. 永遠の田舎者/5. はぐれ者讃歌/6. 脳内百景/7. トラッシュ/8. ビューティフルドリーマー/9. 元少年の歌/10. この胸の中だけ/11. 夢の列車/12. 発熱の男/13. 吐きたくなるほど愛されたい/14. 深夜高速/15. 春色の道/16. チェスト/17. 俺たちハタチ族/18. 終わらないツアー/19. 真冬の盆踊り/(En.1)20. 夜明け/21. ロックンロール/22. 孤高の英雄/(En.2)23. 白眼充血絶叫楽団/24. NUDE CORE ROCK’N’ROLL/25. 三十三年寝太郎BOP/(En.3)26. 東京タワー/27. サヨナラBABY 全27曲
関連リンク
ぜひこちらの、フラワーカンパニーズの日本武道館公演前のコメントも一緒にご覧ください。