「ザ・クロマニヨンズ・ツアー JUNGLE 9 2015-2016」Zepp DiverCityのライブを観た!
ザ・クロマニヨンズが最新作『JUNGLE 9』を引っさげて、70本の全国ツアーを爆走中!
2016年1月16日土曜日、Zepp DiverCity。ザ・クロマニヨンズの「ジャングル9ツアー」が始まって2ヶ月、ツアー33本目のライブの日だ。DiverCityの前には巨大な(実物大の)ガンダムが立っている。某カップ麺のCMでこの実物大ガンダムが立ち上がるシーンが流れていたことがある。BGMはクロマニヨンズの「ナンバーワン野郎!」。ガンダムを見上げていると、早くもクロマニヨンズの曲が脳内再生される。DiverCityはクロマニヨンズのライブをやるには最高のシチュエーションだ。
今回のツアーは全部で70本。前回のツアーは、ほぼ同じ期間を費やして60本。つまり10本増しだ。まだツアーが始まって、2ヶ月しか経っていないのに、もう33本目というのはそういうことだ。2日に一度はライブをやっている計算になる。とても50オーバーとは思えないスケジュールだ。ツアーも中盤ともなれば、そろそろ疲れが見えてきてもおかしくはない。ところがクロマニヨンズの場合、ツアー序盤からどんどん上向きになる。エンジンはくたびれるどころか、確実に馬力を上げている。そして今日もステージ上には密度の濃い熱狂と気迫と情熱と感情がエネルギーのカタマリとなって転がっていた。
ぼくは甲本ヒロトと真島昌利のライブを30年以上、観続けている。初めて彼らのライブを観たのが1985年の初夏のことだ。その頃に比べると、本人たちはさすがに歳をとってしまったが、ステージで発せられるもの、表現されるものは、むしろ30年前よりも熱を帯びているように思う。より濃密だし、より力強い。そしてより揺るぎない。この日、ステージでヒロトは「この歳までは確実に楽しいです」といった。ステージを観る限り、まさしく楽しさのピークは今日のこのステージにあり、だ。その言葉に嘘偽りはない。果たして何が彼らを突き動かしているというのか?
2012年の4月にDONUTチームで編集した単行本『ロックンロールが降ってきた日』のなかで、ヒロトは「いくら満たされても物足りなさを感じる部分にロックンロールは生まれる」といった。簡単にいうと、心のなかの欠落感と向き合ったときに、ロックンロールは鳴るということだ。これはとても言い得て妙だ。ロックンロールのいろんな側面のひとつを端的に語っている。
例えば、成功したミュージシャンやバンドを揶揄するように、ハングリー精神を失った連中にロックンロールやパンクがうたえるわけはない、と声高にいう人が、たまにいる。昔のパンク・バンドのライブを観に行くとMCでそんな声を聞くこともある。言わずもがな、そんな戯れ言が通用するほど、ロックンロールはヤワじゃない。その論理でいくと、ポール・マッカートニーもジョン・レノンもミック・ジャガーもジョー・ストラマーもデヴィッド・ボウイにもロックンロールは鳴らせないということになる。しかし彼らはロックンロールを鳴らし続けている。あるいは死ぬ間際までロックンロールを鳴らし続けた。
成功したかどうかなんてロックンロールには関係ない。ハングリーとかハングリーじゃないとかどうでもいい。「たらふく食ったのにまだ足りないと思ったところにロックンロールは生まれる」とヒロトは語る。どんな状況や環境に置かれても「心の穴」を捉えられるかどうか、それを対象化できるかどうかが問題なのだ。ハングリーでもロックンロールを鳴らせない者はゴマンといる。満腹でもロックンロールを鳴らせる者はいる。
昨年の2月、ローリング・ストーンズのオフィシャルカメラマン有賀幹夫さんに取材した。そのときにとても興味深い話を聞いた。「最近のストーンズは巨大なセットのショウではなく、4人が絡む、本来のロックンロール・バンドの有り様をそのまま観せるショウになった」と話していた。有賀さんは「だから今のストーンズは凄いんだ」と語った。ローリング・ストーンズは89年のツアーから、セットを巨大化させた。どんどんエスカレートしていって「ビガー・バン・ツアー」のときにはとうとうステージ脇に「建物」を建ててしまった。ところがストーンズはそれでも満たされなかった。そして彼らが行き着いたのは、それとは正反対の、ほとんど何もないステージで、4人で鳴らすロックンロールだった。しかしながら、それとてゴールではない。それにも満たされず、またステージを巨大化させるかもしれない。あるいは、もっとちがう発想でライブを始めるかもしれない。そもそもロックンロールに着地点などありゃしないのだ。約束の地には到達しない。それがわかっていても約束の地に向かわずにはいられない。だからストーンズのロックンロールは鳴り続けるのだ。
果たしてブルーハーツは完成形だったのか? ハイロウズはどうか? クロマニヨンズは? 甲本ヒロトも真島昌利も一度も満たされたことはないと思う。まだまだやり足りない。まだまだやれる。その繰り返しだったのではないか。2012年のアルバム『ACE ROCKER』の「雷雨決行」「ナンバーワン野郎!」。2013年のアルバム『YETI vs CROMAGNON』の「突撃ロック」「炎」。2014年のアルバム『GUMBO INFERNO』の「孤独の化身」。何十年経っても「約束の地」を目指し、しかしその地は遠く、そこには届かない。届かないからこそ船を漕ぎだす。その船に後戻りは許されない。心のなかの欠落感との闘い。葛藤。それと向き合うがゆえの紆余曲折。最新作『ジャングル9』になると、ロックンロールの原点ともいうべき「エルビス(仮)」の「ゆがんだ唇」に答えを求め、「夜行性ヒトリ」では「命果てても飛び込む価値のある炎とは?」と問いかけ、それに呼応するように「今夜ロックンロールに殺されたい」とうたう。しかし、彼らはきっと殺されたくても殺されないのだ。
ヒロトとマーシーは30年間、歌をうたい、ギターを掻き鳴らしつづけてきた。ぼくはブルーハーツのライブだけでも何十回何百回と観た。たしかにあの4人でなければ成し得なかった音、曲、歌があった。しかしながら、30年間の紆余曲折を呑み込んで、その上で鳴らされるロックンロールはもっともっと凄まじいものだ。ぼくはクロマニヨンズのライブを観ていて、毎回、そう思う。ブルーハーツやハイロウズのライブを観られなくて悔しがることはないよ。最高のロックンロールは今、目の前にあるのだから。ヒロトがいう「最新作が常に最高傑作」とはそういうことだ。それが今日、DiverCityに現出しているクロマニヨンズのライブなのだ。


ヒロトが「謹賀!」と叫びオーディエンスが「新年!」と叫ぶ「人生初のコール&レスポンス」を交えながらも、いつものようにほとんどMCもなく、ライブは高速で進んでいく。セットリストはまだツアーが終わっていないのであかすことはできないが、毎度のことだが、新作からは全部の曲を披露するとだけはいっておく。アンコールではシングルのB面も演奏するので、「新曲」はすべてライブで体感できる。近年、新作から全曲ライブでやるバンドも珍しい。クロマニヨンズは毎回これを繰り返している。だからクロマニヨンズのツアーのセットリストは、毎回、ガラリとその様相を変える。
今日のライブはアンコール込みほぼ90分。短いように思うかもしれないが、演奏する曲数は他のバンドよりも多い。一曲の時間が短いので90分で終わるのだ。最初から最後までクライマックスのようなライブをやっているから、体力的にもこれが限界。このタイトさ、シンプルさは、むしろ気持ちいい。それに、年を追うごとに「代表曲」や「シングル曲」が増えていくので(今回は9作目のオリジナル・アルバムのツアー)「新曲」以外の部分は、ほぼベスト盤を聴いているような感じになる。年々、この部分が贅沢になっていく。オーディエンスの方も身体を休める時間は、ほぼない。
そういうわけで、33本目のライブも、甲本ヒロトの歌とハープ、真島昌利のギター、小林勝のベース、桐田勝治のドラム、全部が爆発していた。もちろんDiverCityに集まったオーディエンスも。ツアーはあと37本残っている。4月19日(火)20日(水)の中野サンプラザでの東京ファイナル、そして22日(金)の大阪ファイナルを経て、30日(土)の沖縄でのツアー・ファイナルまで、まだまだ続く(東京ファイナルを観た感想を、今度はセットリストも交えてお伝えしようと思う)。まだ折り返し地点ですらない。満たされないクロマニヨンズは、さらにいろんなレコードを、ブルースを、日常の出来事を、たらふく食らい、呑み込みながら、ツアー・ロードを進み続ける。そして各地のステージでロックンロールを吐き出す。