ザ・コレクターズが初期衝動へ回帰した日〜2016年6月26日(日)渋谷クアトロ ライブレポート
ザ・コレクターズから阿部耕作脱退の報せを最初に聞いたときにはさすがに驚いた。とくに今回は来年3月の日本武道館公演へ向けて、一丸となって突き進もうとする矢先の出来事だったからだ。個人的にはバンドの意向を支持する。バンドのことを一番わかっているのはバンドだからだ。そりゃ阿部耕作ラストステージを用意して送り出すのが理想だと思う。武道館まで、ということだったら美しかったのかも。しかしそれをやってしまっては騙し騙し関係性を続行することになる。そこからいい演奏やパフォーマンスが生まれるとは思えない。お互いが新しい環境でのプレイを求めたのだから、袂を分かつのが一番健全。おそらくコレクターズも阿部耕作もそう判断して、このタイミングでの脱退になったのだと思う。それはとてもプロフェッショナルな判断だ。ただ、あまりにもプロフェッショナルに徹したために、ぼくらの予想を超え、驚きも大きかった。そういうことだと思う。
理由がなんであれ、コレクターズからドラムがいなくなったのは事実だ。結成30周年を迎えたコレクターズはイベントにフェスにと引っ張り凧。ほとんどツアーのような日程が組まれている。日本武道館云々というよりも目の前のスケジュールを何とかしないといけない。そういえば小里誠が脱退したときもレコーディング直前というバッドタイミングだった。世の中はうまくいかない。コレクターズのフェスツアー初日は、阿部耕作が脱退を表明して数日後に迫っていた。しかしどんな仕事でもそうだが、緊急事態のときにリカバーできるかどうかがプロかアマかの分かれ道。そこで招集されたのがcozi。彼は加藤ひさし(Vo)のバンド、チェンジエナジーズのドラマーだ。 加藤ひさしとcoziはフジロックのステージにも立っている。実はコレクターズの現ベーシストのJEFFもチェンジエナジーズのメンバー。リズム隊の息が合うことが第一条件だが、そこは難なくクリア。古市コータロー(G)とcoziはというと、浅田信一バンドで一緒にツアーをまわったばかりだ。2人は浅田のニューアルバムのレコーディングも参加しているので、息が合わないわけはない。coziは現時点における最良の選択といっていいだろう。
2016年6月26日(日)渋谷クアトロ。コレクターズ フェスツアー2日め。筆者はこの日、Drop’sのツアーファイナルに行くはずだったが急きょ予定を変更。サポートを入れてのコレクターズのライブがどんなふうになったのか記事を書くために、クアトロへ向かった。フェスツアー初日は大阪公演だったので、今回が東京初お目見え。渋谷クアトロはコレクターズのホームグラウンド。いつもなら歓迎ムードだが、今回はそうはいかない。阿部耕作の脱退を受け、どういう気持ちでライブを観ればいいのかわからないというファン の声も数日前からSNSに上がっていた。当日もそういう会話が聞こえていた。ポジティブな気持ちで受け入れなきゃいけないというのは建前で、本音は不安に決まっている。野球もNBAもサッカーもそうだが、ホームグラウンドだけにお客さんの目はきびしい。しかも今回はトライセラトップスとの2マンライブ。半分はアウェイなお客さん(それでも親和性はある)。コレクターズにしてみれば、ファンの不安を期待に変えながら、演奏で雑音を吹き飛ばしながら、トライセラトップスを目当てに来たお客さんも巻き込んで盛り上げないといけない。課題は山盛り。場内にはそこはかとなく緊張が漂っていた。
トライセラトップスがひとしきり会場を盛り上げたあと、ザ・コレクターズが登場。1曲めは「MILLION CROSSROADS ROCK」。最初の音が鳴った瞬間、野音までのコレクターズとはちがうバンドだった……なんて書くと大げさに聞こえるかもしれないが、屋台骨のドラムが変わるとバンドの印象は違って聴こえる。coziのドラムはとにかくパワフルだ。激しく強くビートを刻んでいく。カバー曲が主体のチェンジエナジーズや浅田信一のライブではあまりそれを感じなかったのは比較対象がなかったからだろうか。阿部耕作は味のあるドラムだったが、coziのドラムはとにかく攻撃的だ。それがいいか悪いかはそれぞれの判断によるだろうが、同じく攻撃的なJEFFのベースと絡み合って、重戦車のようなサウンドがガンガン腹に響いた。彼らの容赦ないビートがバンドを荒々しくダイナミックに変えていく。まさしく初期コレクターズの再来だ。いや、それ以上だ。THE WHOに衝撃を受けたその衝動がギミックなしに表現されている。もちろんギミックの良さもある。そんなことはわかっている。しかしコレクターズはギミックよりもロックンロール・バンドへ回帰することを選んだ。ロックンロールのひねくれ者が、心にモッズスーツを着て帰ってきたのだ(加藤ひさしが着ていたのは特注の武道館スーツだったが)。そういえば日本武道館公演のタイトルはMARCH OF THE MODSだ。このタイトルをつけた時点でコレクターズが行く道は決まっていたのかもしれない。たとえ阿部耕作が脱退しなくても、バンドはそういう方向を目指したと思う。
というわけで、このライブで素晴らしかったのは初期ナンバー。「夢見る君と僕」「僕は恐竜」「恋はヒートウェーヴ」。全部カッコよかった。全部がモッズだった。とくに「NICK! NICK! NICK!」は絶品。完全にTHE WHOが宿っていた。洋楽のライブを観に来ているような錯覚に陥った。筆者は30年間、コレクターズのライブを観ているが「NICK! NICK! NICK!」で鳥肌がたったのは昨日が初めてだった。それはお客さんにも伝わった。トライセラトップスのファンを巻き込んで、会場の温度がグングン上がっていくのがわかった。これがシンプルで強いロックンロールの力なのか。30年めのコレクターズが目指そうとした「MARCH OF THE MODS」ということなのか。開演前に漂っていた微妙な空気は熱狂と共に晴れた。アンコールの「恋はヒートウェーヴ」も圧巻。コレクターズはロックンロールのダイナミズムをこれでもかと叩きつける。本当はこの光景を阿部耕作と小里誠がいるバンドで体現したかったのかもしれない。それは叶わなかった。それを今さら嘆いてもしょうがない。バンドは生き物だ。刻一刻と変化していく。加藤ひさし、古市コータロー、JEFF、そしてサポートのcozi。当面は、この4人でロックンロールを表現していくしかない。その4人でできる精一杯のパフォーマンスは今、目の前のオーディエンスを熱狂のるつぼに叩き込んでいる。それがすべてだ。それが事実だ。
「恋はヒートウェーヴ」でライブは終了。しかし客電がついても拍手は鳴り止まなかった。それどころかコレクターズを呼ぶ声はますます大きくなった。これにはいささか驚いてしまった。ワンマンライブでもないのに、このリアクションはなんなのだろう。しばらくしてステージにコレクターズとトライセラトップスのメンバーが登場。「まさかこういうふうになるとは思っていなかったので、何も曲を用意していなかった」と加藤ひさし。結局、全員で挨拶をしてステージ袖に引っ込んだ。満足感と充実感を残し、イベントは終了した。コレクターズの日本武道館への道はまだまだつづく。まさにザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード(長く曲がりくねった道)だ。(森内淳/DONUT)
セットリスト
- 1.MILLION CROSSROADS ROCK
- 2.たよれる男
- 3.Stay Cool! Stay Hip! Stay Young!
- 4.ガリレオ・ガリレイ
- 5.世界を止めて
- 6.夢見る君と僕
- 7.僕は恐竜
- 8.TOUGH
- 9.NICK! NICK! NICK!
- 10.Tシャツレボリューション
- EN.恋はヒートウェーヴ
- (全11曲)
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