AOMORI ROCK FESのホストユニット「夏の魔物」がファーストアルバム『夏の魔物』をリリース
成田大致との付き合いは長い。長いが彼が何を表現したいかを把握したことは一度もない。今でも一体どこへ向かいたいのか今イチわからない。ここ数年での彼を取り巻く激動を目にすると、それも致し方ない。最初のバンドは解散、ユニットを立ち上げたものの1枚のアルバムで消滅。再びユニットを立ち上げるものの、メンバーは定着せず(この間のゴタゴタが実に長かった)。ようやく夏の魔物というユニットに落ち着いたのがつい最近のことだ。彼のなかでのストーリーはちゃんとあるのだろうが、リスナーにとっては、相当細かくかつ根気よくつきあっていない限り物語にはついていけてない。
ロック・ミュージシャンを作詞作曲やプレイヤーとして起用はするものの、CDジャケットはアニメ風だし、ミュージックビデオもなんだかいろんな要素を詰め込みすぎでワチャワチャしてる。ロックというわりにはライブはアイドルと同じくカラオケで歌っているし(リキッドルームのライブでようやく魔物バンドという生演奏のバンドが登場する)、その様相は、まるでカオスだ。成田大致は「自分が表現したいロックンロールが今ひとつ一般に伝わらない」と嘆くが、それはしょうがない。カオスなのだから。
しかしながら、このカオスこそが成田大致の表現の着地点と考えれば、すべてがスッキリする。成田大致は巨大ロックフェスがアイドルを招聘するずっと前から、自らが主催するフェス夏の魔物にアイドルをブックしていた。当時ロックファンから大ブーイングだったが、今やフジロックにベビーメタルが出て称賛を浴びる時代になってしまった。一時期、ロック・イン・ジャパンのDJブースにもアイドルが次々に登場していた。ここに来て、世間はようやく「成田大致はこういうことがやりたかったのか」と納得するという具合。先見の明というか、彼がやらんとしていることは理解されるまで多少の時間を要する。
成田大致はアンダーグラウンドもメジャーもひっくるめて、あらゆるサブカルチャーを愛している。成田大致のロックンロールのあり方はサブカルチャーへの愛といっても過言ではない。夏の魔物フェスにおける漫画家、文化人、映画監督、ロックバンド、アイドル、プロレスが一緒になって爆発する文化祭的な感覚。それこそが音楽ユニット夏の魔物のすべてといっていい。好きなものを全肯定する。夏の魔物の出発点はそこなのだ。好きなものを全肯定したい気持ちは、誰のなかにもあるよ、という意見もあるだろう。しかし好きなもののすべてを自分の表現・作品にブチ込む無謀さを持ち合わせている人はどこにでもいるわけではない。それを実践しているのが夏の魔物であり、成田大致なのだ。
今回のアルバム『夏の魔物』には作詞作曲や演奏で様々なミュージシャンが参加している(抜粋)。後藤まりこ、HISASHI、ヒャダイン、ROLLY、奥野真哉、只野菜摘、tatsuo、曽我部恵一、BIKKE、大槻ケンヂ、YO-KING、越川和磨、ウエノコウジ、クハラカズユキ、ハジメタル、Sundayカミデ、大森靖子、TOKIE……などなど。このラインナップだけでも、カオスこそ着地点、全肯定が伝わってくる。「こんなに詰め込むなんて、なんて馬鹿げてるんだ?」とリスナーが思ったとしたら、成田大致の勝ちだ。アントニオ猪木は「馬鹿になれ」といったが、成田大致は猪木のいうところの「馬鹿」になったのだ。それが夏の魔物の、成田大致のロックンロールなのだ。だから一介の編集者に具体的に何を表現していきたいのかを掌握されたら、それは夏の魔物としても成田大致としても失敗なのかもしれない。成田大致がファーストアルバム『夏の魔物』を「1枚でロックフェスのようなアルバム」というのは、そういうことだ。(森内淳/DONUT)