ザ・クロマニヨンズの「BIMBOROLLツアー」を見た
いつものライブのようで何かが違う。そういう感覚に陥った。それはもしかしたら恵比寿リキッドルームという場所のせいかもしれない。クロマニヨンズの東京公演はO-EASTやブリッツや新木場コーストなど、ライブハウスというよりもスタンディングのホールというニュアンスの場所が多い。恵比寿リキッドルームというライブハウス然とした会場でクロマニヨンズのライブを観るのは前々回のツアーを和歌山で観て以来だ。しかしそれだけでは割り切れないような鉄壁のロック・ショウの佇まいが、ステージの上で展開されていた。
例えば、1曲目の「おれ今日バイク」から4曲目の「デトマソパンテーラを見た」までの間、息をつく暇もなく、まるでメドレーのように構成されていた。「毎ツアー、そんな感じでしょ?」と言われれば、たしかにそうだが、歌も演奏もパフォーマンスも強靭さに支えられていたような印象だった。「なんか鉄のメドレーのようだな」と思った。それに圧倒されていると、いつものふにゃふにゃのMCが入り、再び鉄の時間がやって来る。そんな感じだった。
こんな言葉はクロマニヨンズに一番似合わないかもしれないが、それはまるで周到に計算されたエンターテイメントにも映った。そもそもライブの1曲目がアルバムの1曲目ではないところも近年では珍しい。コンサートの始まりは「おれ今日バイク」。本来1曲目に演奏されるべき(べきっていうのも変だけど)「ペテン師ロック」は終盤の「最後までぶっ飛ばしていく」ゾーンの発火点として配置されていた。それに続いたのが前作のシングルナンバー「エルビス(仮)」(この曲もロックンロールの名曲だ)。会場は狂ったように盛り上がった。
「ペテン師ロック」「エルビス(仮)」「突撃ロック」「エイトビート」「雷雨決行」「ギリギリガガンガン」……リリースを重ねていくうちに、どんどん名曲が増えていく。それが鉄のエンターテイメント感を引き起こしているのか。それとも10年間、バンドをやって来た自信なのか。10年やって来たことの経験なのか。10年経ってもまだまだ行けるという手応えなのか。やりたいようにロックンロールをする感覚を保ちながら、また違うレベル、違うフィールドへ向かおうとしていることが、こちらに伝わってくる。ロックンロールとは既存のスタイルを超えていく過程で鳴る。まだまだ足りない、という感覚。まだまだ何か新しいことがやれる、という感覚。クロマニヨンズは常にそれを実践しているようにも思う。
例えば、ポール・マッカートニーやローリング・ストーンズといった70オーバーの偉大な先人たちが今もあんなにすごいステージをやっている『NEW』も『BLUE&LONESOME』も最高のアルバムだった。それと比べれば、50そこらのミュージシャンの伸びしろなど無限大だ。うちにあるCDデッキは複数枚セットすることができて『BLUE&LONESOME』の次に『BIMBOROLL』が出てくるのだが、この流れはなかなかすごいよ。その無限大の伸びしろをこのツアーでは証明している。まだ50、まだデビューして30年、まだクロマニヨンズで10年。そう言わんばかりのステージだ。
ヒロトもマーシーも、普段からたらふく音楽を食らう。音楽ばっかりを聴いていると言っても過言ではない。もしかしたらどの音楽ファンよりもレコード屋さんに通っているのではないだろうか。筆者は、彼らのことを日本で一番のロックンロール・リスナーだと思っている。その彼らの音楽体験はライブによって私たちに還元される。僕らが出会えなかった音楽体験に、彼らを通して間接的に出会えている。年を重ねていくのと比例してクロマニヨンズのライブが分厚くなっていく理由のひとつに、それがあるのではないか、と思う。
「ピート」や「デトマソパンテーラを見た」など、リリックを超えたリリック=ロックンロールの衝動を綴った楽曲をどんどん放つクロマニヨンズ。彼らがロックンロールを貪り食って放つロックンロールを、私たちが食らう。「BIMBOROLLツアー」も面白い。ヒロトとマーシーのライブを観始めて31年以上が経つが、全く飽きないのは、彼らが飽きさせないからだ。(森内淳/DONUT)