涙を超え、旅は続く——Drop’sが現編成ラストワンマンで見せた未来の景色
2017年1月8日、Drop’sが札幌cube gardenにてワンマンライブ「SWEET JOURNEY BLUES」を開催した。この日をもって奥山レイカ(Dr)が脱退、さらに在学中の石橋わか乃(Key)を除くメンバーは拠点を東京へ移すことになる。
羽田から新千歳へ向かう飛行機の中で、いつものようにDrop’sを聴いていた。いつもと違ったのは、早くライブを観たいような、観たくないような複雑な心境であったこと。観てしまったらもうこの5人がステージに立つことは二度となくなる。と、眉をひそめている間に無事着陸。北海道の空は、憎らしいほど晴れ渡っていた。
会場は長蛇の列。フロアはすでに熱気で満ちている。オーティス・ラッシュ「So Many Roads, So Many Trains」のSEが流れると奥山レイカ、石橋わか乃、小田満美子(Ba)、荒谷朋美(Gt)、そして中野ミホ(Vo)がオンステージ。始まりの合図は中野のアイコンタクト、「太陽」のスタートである。「ハロー、Drop’sです。初めましてどうぞよろしく!」(中野)と普段通りの挨拶を挟み「ローリン・バンドワゴン」へ。「Hey!」の掛け合いが観客をヒートアップさせ、タメの効いたボーカルが狂騒の坩堝へ導く「STRANGE BIRD」、トリッキーなリズムを軽々刻む「moderato」と畳み掛けてゆく。演奏中、特に小田と石橋がしょっちゅう奥山へ視線を送る。その度に胸が熱くなる。さらにバックビートが楽しい「かもめのBaby」では「札幌のBaby〜!」(中野)と叫ぶなど大興奮の幕開けだ。
特別な一夜だけれど、惜別の情も物哀しい雰囲気もまったく垣間見得ない。この空間を包むのは、格別の歌と音だけだ。「カルーセル・ワルツ」や「どこかへ」の冒頭、ひとりギターを爪弾きながら歌う中野は瞼を閉じている。バンドインの後、凛と前を見据える。その目は10代の頃と違って夜空を睨みつけるようなものではなく、数年前のようにただカッコつけたり楽しんだりしているのでもなく、どこか達観した美しさを帯びていた。そして抑揚をつけながら感情を爆発させる歌、シンプルだからこそ5人の呼吸が鍵となる演奏のすさまじい迫力が「十二月」の風に乗り、世界は今ここを中心に回っていると思わされるほど会場を圧倒してゆく。
奥山は時おり笑顔を見せながらも終始淡々と、前かがみにちょこんと座る見慣れたスタイルで拍を刻む。ここで中盤の盛り上がり。爆音轟く「ハイウェイ・クラブ」、恍惚のギターソロが火を噴く「真夜中の時限爆弾」、キーボードを倒すような勢いでリフを叩きつける「ダンス・ダンス・ブラックホール」と一気に駆け抜ける。お次は「アイスクリーム!」の大唱和が響く「アイスクリーム・シアター」。ブルースハープとギターの掛け合いに沸く間奏、奥山は気持ちよさそうな顔をしている。ほかの曲でもそうだが、自分が目立つフィルインの瞬間より、ソロや掛け合いの裏を支えるほうが楽しそう。そんなところがとても彼女らしい。曲が終わり暗転。「奥山さーん!」の歓声に、応えるべきかキョロキョロしているところも微笑ましい。
「どうもありがとう、楽しいね〜。今日、ね……この5人でのライブは今日が最後で……でもまだ全然Drop’sは続いていく……うん、なんか、喋るとうまく言えないんですけど(笑)、曲で、曲を聴いてもらおうという感じかな」と語る中野に温かい拍手が送られる。静寂を奥山のカウントが破ると、「さらば青春」の旋律が鳴った。7年前、高校の軽音楽部で結成されたDrop’s。見たこともないのに、教室でふざけ合ったり部室で音を合わせたりしている姿が浮かんでくる。《何も言わず さらば青春よ どうか許しておくれ/連れてゆくわ 光と影のブルーズ》。先ほどの《どうしようもなく すべては/過ぎ去ってゆく》(「十二月」)という一節もそうだけれど、大事に紡がれる一言一言が彼女たち自身にぴったりと当てはまる。その普遍性を自ら証明してゆく様に、たまらなくグッときてしまった。
突然フロントの中野、荒谷、小田が背を向け、石橋も横を見た。つまり奥山と向かい合って「星の恋人」が始まる。前奏の間続いたその光景は、東京へ発つ3人がこの曲を彼女に捧げているかのようでもあった。続いて「RAINY DAY」。これは昨年から披露されていた新曲だ。疾走するエイトビート。《きっと新しい風が吹くのさ/それはたぶんロックンロール》という歌。確信に満ちた、迷いのない笑顔。すべてが頼もしく、力強かった。そして今宵もっともエモーショナルだったのは「コール・ミー」。動けるメンバーは前方ギリギリまで身を乗り出し、同じく全員が笑顔で、でも奥山だけは笑っているような泣いているような、くしゃくしゃに崩れた表情でこの瞬間を胸に刻むように叩いている。ついに迎えたラスト、ナンバーは公演タイトルでもある「SWEET JOURNEY BLUES」だ。重く壮大な大曲で見事に本編を締めくくった。
アンコールは懐かしい「コーク・エイジ」と「ウォーキン」を披露。それでも止まない盛大な拍手に応じ、ダブルアンコールの「未来」をもって本当の終幕を飾る。涙でも言葉でもなく、楽曲で想いを伝えるバンドとして理想的なステージだった。最後はメンバー全員が横一列となり、手を繋いで深く頭を下げる。「ありがとう」の震える声と、堪えきれず潤む目をごまかすように笑う奥山。その姿に、ほかのメンバーたちも満面の笑顔を見せた。
終わってしまった。Drop’s奥山レイカの道はここまでとなる。それでもなお、人生は終わらない。バンドの旅も続いてゆく。時の流れは残酷で、時おり牙をむくけれど、その素晴らしい音楽が示す通り、彼女たちは変わってゆくことを恐れていない。だから未来は晴れやかだ。まるでこの日、札幌の大地を覆い尽くした青い空のように。(秋摩竜太郎)
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セットリスト
- 2017年1月8日札幌cube garden
- 1.太陽
- 2.ローリン・バンドワゴン
- 3.STRANGE BIRD
- 4.moderato
- 5.かもめのBaby
- 6.トラッシュ・アウト
- 7.泥んこベイビー
- 8.DIRTY Smoke
- 9.カルーセル・ワルツ
- 10.ドーナツ
- 11.どこかへ
- 12.十二月
- 13.ハイウェイ・クラブ
- 14.真夜中の時限爆弾
- 15.ダンス・ダンス・ブラックホール
- 16.アイスクリーム・シアター
- 17.さらば青春
- 18.星の恋人
- 19.RAINY DAY(新曲)
- 20.コール・ミー
- 21.SWEET JOURNEY BLUES(新曲)
- アンコール
- 22.コーク・エイジ
- 23.ウォーキン
- ダブルアンコール
- 24.未来