the pillows 新旧オルタナ曲を次々に投入!ツアーファイナル公演をリポート
the pillowsの「NOOK IN THE BRAIN TOUR」ファイナル公演が2017年7月22日、Zepp Tokyoで行われた。3月8日にアルバム「NOOK IN THE BRAIN」をリリースし、5月5日からスタート。全27公演の行程だ。アルバム「NOOK IN THE BRAIN」は久しぶりのオルタナティブ・ロック・アルバム。バンドが不調だった頃、一度はオルタナティブ・ロックを封印したthe pillows。しかし、ここ数年、バンドはいろんな意味で好調を取り戻した。「今のバンドの状態なら、どんな音楽をやろうと大丈夫」という自信が自然とオルタナティブ・ロックを呼び込んだという。そう言えば「NOOK IN THE BRAIN」のテーマは「沈む夕陽も昇る朝陽もアイデンティティーはキミ次第。終わりなのかい? 始まるのかい?」。つまり今回のツアーはthe pillowsの新たな始まりのツアーでもあるのだ。もっと言うと、オルタナティブ・ロックだろうと、ロックンロールだろうと、バラッドだろうと、なんでも自由に表現できるthe pillowsが帰ってきた記念碑的なツアーということになる。もちろんファンは、そんなことは百も承知だ。1曲目の「Envy」は英語詞で洋楽要素120% の楽曲にもかかわらず、会場は一気に盛り上がり、オルタナティブを取り戻したthe pillowsを歓迎した。
ライブは18時ぴったりにスタート。「Envy」につづきこれも新作からの楽曲「Hang a vulture!」を演奏。つづく「I think I can」は、the pillows最初のオルタナ・アルバム「RUNNERS HIGH」の次にリリースしたシングル。MCを挟んで「MY FOOT」「New Animal」「Last Holiday」「POISON ROCK’N’ROLL」を披露。2006年リリースの「MY FOOT」、そして2008年リリースの「PIED PIPER」からの選曲だ。彼らがオルタナ・バンドとして充実期にあった頃の作品だ。新旧オルタナ作品の連投にオーディエンスは最初から最高潮に達した。このオーディエンスの盛り上がりがさらにバンドを加速させていった。「オルタナティブ・ミュージックを楽しんでくれ!」というMCを合図に「インスタント ミュージック」が演奏される。「RUNNERS HIGH」からの楽曲だ。その後、「王様になれ」を挟んで「Ride on shooting star」「Blues Drive Monster」とオルタナ初期の楽曲が演奏される。「王様になれ」は「NOOK IN THE BRAIN」のリード曲。外的要因に惑わされず自分の中の叡智で物事を進めれば突破口は見つかるというメッセージは、SNSの罵詈雑言によって個が押しつぶされ、絶賛疲弊中の世界を救う曲でもある。
しかしながら特筆すべきはthe pillowsのリリックだ。彼らのリリックの中にある物語は日常を写す鏡の役割を果たしている。それがより普遍性の獲得を促している。それはサウンドのフォーマットを超えたところに存在する普遍性だ。世界中を俯瞰したようなオルタナ・サウンドにのせて語られるのは憂鬱な世界と絶望の中で生きる僕たちの物語だ。とても切実で、かつ勇敢な物語。いつの時代にも何歳になっても、それは半径1メートルに存在している。そこにthe pillowsはスポットを当てる。彼らが語る物語の本質は今も昔も変わらない。主人公はいつだって憂鬱な世界の住人だ。その部分と対峙しないと希望はやってこない。実は、サウンドのフォーマットがどう変わろうと、この部分がブレなければthe pillowsはthe pillowsでありつづけるのだ。こうやって新旧オルタナ楽曲を並べて聴いていても、その本質は少しもブレてはいない。これがこのバンドのアイデンティティーであり、存在しつづけなければならない理由だ。
「次に新曲をやります」と言って演奏したのが「どこにもない世界」。ライブ会場限定シングルの表題曲だ。つまりは最新作だ。「常に新作が最高傑作」というのはロックンロールの常套句だが、それを証明したような大きな曲だ。「どこにもない世界」の次が「GOOD DREAMS」。2004年リリースのアルバムの表題曲。この2曲がこの日のハイライトだったように思う。サウンドのフォーマットはもとより、リリック云々も飛び越えて、歌そのものの力にスポットが当たっていた。山中さわおの歌、真鍋吉明のギター、佐藤シンイチロウのドラムス、有江嘉典のベース。そのアンサンブルのスケール感と高揚感は感動的ですらあった。その2曲を受け止めるように「ジェラニ」が演奏されたのもよかった。山中さわおは「希望というものを上手く捉えられた、愛情のこもった曲」と紹介した。思いやりと優しさに溢れた曲だ。ここには山中さわおがいつも自虐的に言う「マニアックなバンド」を遥かに飛び越えるタフな楽曲が何曲もある。こういうブロックを構成できるのもthe pillowsの強みでもある。
「次の曲は別に愛情がこもっているわけじゃありません」と紹介されたのが「Coming Sooon」。そして「パーフェクト・アイディア」へ。普段はギターを抱えて歌う山中さわおだが、この2曲ではハンドマイクを持ってパフォーマンスをする。それまでのシリアスな雰囲気から一転、ミラーボールと派手な照明と変なパフォーマンスにオーディエンスはおおいに沸いた。こういう緩急は数年前のthe pillowsでは考えられなかったことだ。ここにも自信の一端が伺える。演奏を終えたあと、「こんな48歳になるとは思っていなかった。“ストレンジ カメレオン”を作ったのは僕です」とおどけてみせた。これがまさに今のthe pillowsのリアリティなのだ。コンサートは「BE WILD」「Sleepy Head」「Where do I go?」と新旧オルタナティブ・ロック・ナンバーを叩き込み、最後は1999年の作品「HAPPY BIVOUAC」収録曲「Advice」で終了した。
「素晴らしい時間を過ごさせてくれた君たちにプロポーズしてやる」と叫び、「プロポーズ」をアンコールの1曲目に演奏。会場の盛り上がりはメンバーを高揚させ、それがさらに客席を盛り上げる。そういう相乗効果の中で演奏されたアンコール2曲目「Funny Bunny」のシンガロングはすごかった。今まで何度も「Funny Bunny」のシンガロングを目の当たりにしているが、the pillowsがthe pillowsを取り戻した祝祭にふさわしい特別な瞬間だった。山中さわおはこう言った。「こうやって熱い気持ちをやりとりしていると不思議な気分になるんだ。みんなとは友達ではないけど何かが確実につながっている。この熱い時間が君たちにとっても自分にとってもかけがえのない時間になっていると信じます。よくぞ五感を使ってthe pillowsを見つけて理解してくれたと思います。何が言いたいかというと、ありがとう!」。
2回目のアンコールは「Locomotion,more!more!」。いつものようにビールを飲みながらダラダラとお喋りをしてから演奏。そして、セットリストになかった3回目のアンコールが「ハイブリッド レインボウ」。こうやってツアーは終了した。オルタナティブ・ロックを再び獲得することで、より自由になったthe pillowsを象徴するようなコンサートだった。the pillowsは何をやってもいいし、何でもできるのだ。そこに立てたバンドは強い。しかしながら、それは憂鬱な世界の住人の僕らにだって可能性があることを示唆している。そのヒントは脳ミソの隅っこ(NOOK IN THE BRAIN)のどこかの引き出しに隠されているのだ。11月8日から始まる冬のツアー「RETURN TO THIRD MOVEMENT! Vol.1」で90年代の名盤「Please Mr.Lostman」と「LITTLE BUSTERS」を再現するのも、the pillowsの自信のあらわれだろう。「フリクリの続編が決まったから前作のサントラに使われた曲をやる」というようなエクスキューズなんか、もはや彼らには必要ない。つまり何が言いたいかというと、今のthe pillowsのライブを見た方がいいということだ。山中さわお曰く「ツアーを27公演もやれば肉体も疲れるしリハーサルも疲れる。だけど開演時間が来て1曲目が始まったら何もかもリセットされて、4人の巨大な生き物になったような感覚に陥いる。それを何というか知っているかい? それがロックンロールだ!」。(森内淳/DONUT)
NOOK IN THE BRAIN TOUR
2017年7月22日 (土) 東京 Zepp Tokyo
セットリスト
- 01. Envy
02. Hang a vulture!
03. I think I can
04. MY FOOT
05. New Animal
06. Last Holiday
07. POISON ROCK’N’ROLL
08. インスタント ミュージック
09. Ride on shooting star
10. 王様になれ
11. Blues Drive Monster
12. どこにもない世界
13. GOOD DREAMS
14. ジェラニエ
15. Coooming Sooon
16. パーフェクト・アイディア
17. BE WILD
18. Sleepy Head
19. Where do I go?
20. Advice
En.1
1. プロポーズ
2. Funny Bunny
En.2
1. Locomotion, more!more!
En.3
1. ハイブリッド レインボウ