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Theピーズ日本武道館

Theピーズ日本武道館

Theピーズ日本武道館によせて

30周年を迎えた2017年6月9日、Theピーズが初の日本武道館公演を開催した。当日までの直近数日間は完売→キャンセル分発売→完売を繰り返し、ステージの設営を待ってギリギリまで当日券を発売したがそれも完売。見事満場のなか行われたステージは会場全体に祝福モードがあふれまくり、ファンはもちろん何よりもメンバー3人が体じゅうで喜びを表している姿が印象的だった。Rock isでは武道館加担企画として、ミュージシャンがお気に入りのTheピーズナンバーを紹介する「Theピーズ、この1曲」というコーナーを展開してきたが、ここでは、当企画にも参加してくれた狩野省吾(hotspring)による武道館公演の感想を掲載。総括とあわせてお届けします。

Theピーズ日本武道館

 Theピーズ日本武道館によせて__狩野省吾(hotspring)より

これを読んでいる皆様に訪れたであろうロックに衝撃を喰らわされた瞬間の、それぞれのロックのめざめ。Rock is上では『ロックンロールが降ってきた日』が適当でしょうか。そのあたりでは自分の中でTheピーズというバンド、勿論好きなバンドではありました。が、それほど特別なバンドという訳ではなかったはずなんです。しかし年齢を重ねて人生のシワが増えてくというか、色んなことがわかってきたりわからなくなってきたりして。そうしていくにつれてTheピーズはどんどん特別なバンドになっていきました。僕の場合は、ですが。ひたすらに繰り返しピーズだけを聴く日の割合、どんどん増えていって気づけばライブ衣装に“たまぶくロカビリー倶楽部”の缶バッジ付けちゃったり。自分ら仕切りのツアーのBGMで“脱線”流しちゃったり。なんすかね。ビール飲めるようになったら居酒屋では必ずビール飲んじゃうような感覚に近いかも。どうしてもビールが飲みたい時に飲むがごとく、どうしてもピーズが聴きたい時に聴いて。

そんな日を重ねて気づけば時は2016年の12月。ツアー中のバンドワゴンで知らせを知りました。「2017年6月9日 Theピーズ 日本武道館公演 決定」。この事件性は、音楽に関するニュースでなかなか近年味わえなかったものだと強く記憶しています。ピーズの歌を武道館で聴けるのは、なんというか痛快だなって。先日、ピーズ大好きっ子の元・最終少女ひかさのシュンキ(山田駿旗)くんとお好み焼きつつきながらピーズの話をひたすらしていると、彼がポロっと口にした「はるさんって、みんな思えるけどみんな思いつかないことを歌にしてるよね」って言葉。なるほど。そうか、そこがすごいところなのか。ピーズじゃなければならなかったところだったのか。と気づきました。知らぬ間にピーズを鑑にしていたから痛快なんだな。ここ最近ピーズが好きな色んな方々と話していて思ったことは、決して表には出さないけれど皆どこかピーズを私物化といいますか。それぞれの思うピーズ観といいますか。そういうのが、確実にあるんですよね。やっぱりそれは皆、それぞれが鑑にしているからなのかもって思います。ここまで人によって思うところが違うバンド、なかなかいないなーっていうのはシュンキくんが言ってたようなことの通りなんだろうな。

そんなTheピーズ武道館を迎えた当日は、昼過ぎに連絡もらった友達のミュージシャンたちと神保町の居酒屋で前打ちを始めました。1曲目はなんだろうか、それぞれの好きな曲は今日演奏するのかなどをアテにビールや焼酎を飲んでいました。ここでも皆、やはり思うところは違うからとても楽しかったです。すると、あっという間にもうすぐ開演って時間に。

暑かった。けれど出来る限りの急ぎ足で到着すると、武道館の入場口の前やコンコース、10歩歩けば知り合いに会うような、まさにお祭り騒ぎでした。みんな片手にはアルコール飲料。誰が一番はじめにダメになろうかと競っている感じもあった気もしました。この日は「だってピーズ武道館に来てるんだから」っていう大義名分があるし。けれど僕は会場では一滴もアルコールは飲まずに我慢を選択しました。ミュージシャンの端くれとして本番中一音も聴き逃さないようにと思い、体に残るビールを少しでも多くオシッコに変えて急いで会場の中へ。

アリーナの後方で拝見したのですが、普段なかなか見ないくらいに高い天井の下に約8000人。ぐるぐるスタンドを見渡すと、ダメになってる人もちょこちょこ見受けられたけれど、みんな元気に全編観られたんだろうか。ステージには今まで見たことないくらい大きいロゴマーク。「あ、ピーズの武道館に来た。ピーズが武道館に来た」って、ようやく思いました。アリーナはやけに暑かったのに、鳥肌が止まらなかったです。感慨に浸るのもつかの間、あっという間に客電落ちてスクリーンには今日までの、順風満帆とは言えないバイオグラフィーの映像が。その時点で、視界に入る“昔の女の子”たちがボロボロ泣いている。勿論僕も。そして華麗なるヒゲダンスでの入場からの1曲目「ノロマが走っていく」。これ、誰が予想できたでしょうか。感動と共に、興奮が走ったことを覚えています。この感じ、「やっぱ武道館でもピーズはピーズだ!」って。決して武道館に不釣り合いなバンドではないと思うんです。むしろふさわしいと思うんです。けれどなんか肩透かし喰らうのは、何度も言う通りやはり痛快だからなんすよね。お笑い芸人だったはずのビートたけしが文化人・北野武として世界で支持されていたり。ROLLYさんが“いいとも”でレギュラーやってたりしてる、それに似た感じをひしひしと。友達数人と飲み屋で予想した1曲目は、当然皆外れました。ちなみに僕の予想は「赤羽ドリーミン(まだ目は醒めた)」でした。はるさんのコラムで6/6新宿紅布のセットリストに入ってたのをチェックしていたので(武道館のセットリストとほぼ被りナシらしく)、絶対やらないだろうなと思っていたのですが、わずかな可能性にかけて。旧・浦和市出身としては、近所なんです赤羽。この曲を含む赤羽にまつわる物事にはシンパシーを感じてしまうんでってローカルな理由もありますが、一番は「あの出だしでトップギヤで始めたらめちゃくちゃかっこいいだろう」って。いやしかし、まだまだ俺は音楽的にも人間的にも若かったみたいです。今になって思うと、武道館の1曲目は「ノロマが走っていく」以外になかったっすね。ポール・マッカートニーのOUT THEREツアーを東京ドームに観に行った時に聴いた「Eight Days A Week」が、特別な曲になったことを思い出しました。そこまで特別な曲じゃなかったのに、観に行ったあと数日間狂ったように聴いてました。勿論「ノロマが走っていく」もそうなりました。流石っすよね。

んで続く2曲目は…… と続けたいところなんですが、今回は“感想”をお願いされていた事をいま思い出しました。なのでレポート的なのはある程度割愛します。まだまだ興奮入り交じって文もめちゃくちゃだし。何より俺ギター弾きだし。あ、ギター弾きとしてひとつ言わねば。やはりアビさん大好きです。勿論です。昨今の日本にこんなかっこいい人いるのか、とライブ中ずっと思って観てました。そして今もまだ思ってます。『音楽と人』のアビさんの単独インタビューとか、たまロカブログに書かれたアビさんの言葉を読んだからかもしれないんですが。ブルースの巨人たちのように、表情ひとつ感情ひとつがギターのピッチやフィードバックやすべてに関わってくるような。勿論お手製のオリジナルギターアンプと武道館の天井から下がる吊りスピーカーによるサウンドのパワーもあるんだろうけど、想いの力がヒリヒリと伝わってほんとに凄まじかった。そしてMCとかで、興奮や感動でアビさん、キマらない瞬間も多々あったと記憶しているのですが(無礼は承知です)、俺が思うかっこいい人ってそういうとこ含めて、というか、そういうとこがちゃんと見えるからかっこいいんすよね。アビさん、かっこよかったです。最後の方なんてアビさんの一喜一憂感じる度にぼろぼろ泣けてしまった。

文字通り“脱線”しましたが、その前にやった「ブラボー」(セットリストの話です)。縁あってこの曲のMVに出演させていただいて。その時初めてはるさんと関わりを持たせていただいたんですが、この武道館の一連の流れがなければそんな機会あったかわからなかったな。なんてことを思い、またジーンと来てました。撮影当日の、これぞ大木温之というような思い出深い出来事が多々あったのですが、その事を思い出しつつ観ていました。というか、この調子でいくとまだまだ長くなりそうなんで俺しかRock isでしか書けないってこと、やはり書いとかないと。

えーと、2回目のアンコールで「じゃますんなボケ(何様ランド)」からの客電全開で「グライダー」。あの場にいた人たちみんな、とんでもなく感動したかと思います。夢かと思うくらいの素晴らしい光景でした。そして、そのあと会場でSEとして流れた「好きなコはできた」。本編でやらなかったんすよね。以前このRock is上で自分もコメントした企画“ミュージシャンが選ぶ Theピーズおすすめの1曲”で、この曲を紹介させていただいたんです。やはり公にすすめてしまったくらいに好きな曲なので、開演前の飲み会、何の曲やってほしいかって話では勿論挙げましたこの曲。3時間を超えるとんでもない想いとエネルギーを持ったライブが、とてつもないドラマチックな演出で終わって「好きなコはできた」のイントロが流れた時は幻聴かと思いました。あんな気持ちまた味わえるだろうか。予想しなかった曲ではじまり、期待していたけどやらなかった曲で大団円なんて、俺にとってはまるで映画みたいな武道館でした。

余韻に浸るのもつかの間。お誘いいただき、友達と軽く飲んだあとにアフターパーティーにお邪魔しました。はるさんに「好きなコはできた」を流した理由を伺ったのですが、それを聞いて「やはりこの人なんてすごいんだ、まだまだ敵わないな」と思うばかりでした(申し訳ありませんが、その理由は俺の言葉では語り尽くせる自信がありません)。元来僕はTheピーズのファンなので、インタビューやコラムなど媒体は色々チェックしていて。その他にもはるさんとライブや撮影でご一緒させていただいた際にお話した時。そして関わりを持つ方にアビさん、シンイチロウさんのお話を伺った時などで強く思ったことは、この人たちがやってるから余計にTheピーズが大好きなんだなってことでした。

僕がギターを弾いているhotspringは6月9日のちょっと前に僕の相棒で親友で悪友の、ボーカル・イノクチタカヒロが大怪我を負ってツアーの中止とシングルのリリース延期が決まりました。その件では、各所から心配のご連絡をいただきました。そんなこともあって、僕がhotspringでギターを弾く前から個人的に懇意にしてくださっている今回の武道館の立役者・マネージャーの俊平さんに「バンドは色々と大変なことになりましたが、いちファンとして、ずっと楽しみにしていたので予定通り武道館は絶対に行きます」と連絡したところ、「色々切り換えられると思うので、是非遊びに来てください」と返信を頂戴しました。案の定。切り換えられるどころか、より一層やる気になりました。紆余曲折あったけど決して短くない30年って節目に、こんないいとこまでたどり着いてしまった光景を観たら、本当にくよくよしてらんねーぞ。とか。ピーズを一番近くで観ている方は、どんだけパワーがあるかをちゃんと知ってました。こんな駄文にここまで付き合ってもらっといて申し訳ないんすけど、アフターパーティーで俊平さんにそのお礼と共に直感的に伝えた「やっぱ音楽って人間なんすね」って言葉が一番、自分のTheピーズ武道館にふさわしいんだろうと思いました。我ながら。曲が好き、サウンドが好き、歌声が好きとか色々あるけど、Theピーズをこの人たちがやってるからこんなにたくさんの心に響いたんだな。ということに尽きます。どんなロックバンドにも言えることなんすけど、なんか忘れちゃってたなーと。

僕のTheピーズ武道館はそんな感じでした。書きたかったこと書けたような気も、いい感じにまとまったような気もするのでこの続きはどこかの居酒屋で誰かと語り合うことにします(できれば赤羽の)。この駄文のシメに、その時の乾杯の音頭にするであろうこの一言を。

「あらためまして、Theピーズの30周年に乾杯!」

(狩野省吾/gt・hotspring)

 Theピーズ日本武道館公演を見た

2017年6月9日(金)、Theピーズのライブが日本武道館で行われた。怒髪天から始まったベテラン・バンドの日本武道館単独公演のバトンは、最初にフラワー・カンパニーズへ渡り、ザ・コレクターズへ渡った。そしてピーズにそのバトンがまわってきた。次はスクービー・ドゥーかSAか? ベテラン・バンドの武道館チャレンジはさらに新たなフェーズへ突き抜けるチャンスだ。とはいえ、武道館は広い。簡単に動員できるものではない。怒髪天、フラカン、コレクターズはおよそ1年の準備を経て挑んだ。それに比べ、Theピーズは発表から半年の時間しかなかった。武道館は2019年には改装のため使えなくなる。日程をおさえるのだけでも至難の業。やれる時にやらないとやれないのが武道館。贅沢は言っていられなかった。となるとチケットの売れ行きが気になるところ。スタート・ダッシュはよかったという情報は入っていたのだが、その後、どうなったのかはまったくわからなかった。Rock isサイトでも、チケットの売上に少しでも貢献しようと、またこの機会にピーズを聴いてもらおうと、ピーズの楽曲にスポットを当てた加担企画をスタートした。ところがそんな不安は取り越し苦労に終わった。武道館公演直前の数日間はチケット売り切れ→キャンセル分販売→売り切れを繰り返していた。当日、蓋を開けてみると武道館は超満員のオーディエンスで埋まった。

Theピーズは1987年、大木温之(b,vo) 安孫子義一(gt)後藤升宏(dr)の3人で結成。シンプルなロックンロールにのせ、脱力感と倦怠感を装いながら、人の感情のディープな部分までをえぐり出す。ピーズのロックは高い評価を集め、デビュー・アルバムは『グレイテスト・ヒッツ VOL.1』と『グレイテスト・ヒッツ VOL.2』という2枚の作品が同時にリリースされた。その後、幾度のメンバーチェンジ、そして活動休止などの紆余曲折を経て、2002年に活動を再開した時に、現メンバー大木温之(b,vo) 安孫子義一(gt)佐藤シンイチロウ(dr)の3人になった。日本武道館の客層が意外に広かったのは、そういう節目節目でファンになった人が集結したからだと思う。武道館公演を象徴していたのは大木温之と安孫子義一の満面の笑み。この日のライブは彼らの笑顔に尽きた。たくさんの観客に迎えられたことに対して奇をてらうことなく、喜びを素直に爆発させたピーズの幸福感は武道館公演をひたすらハッピーな空間に変えた。感情の泥沼でうごめくような曲も、ひたすらかっこいいロックンロール・ナンバーへと昇華していた。大木温之が「永ちゃんはここに100回以上も立ったのか、すごいな」と話す場面があったが、それがすべてだと思った。安孫子義一も終始笑顔でギターをかき鳴らしていた。それを半歩下がったところから、ピロウズに続き二度目の武道館という余裕と、途中参加というスタンスの違いを持つ佐藤シンイチロウが見守るという光景がとてもよかった。

日本武道館公演をやる時に、どういうライブにするのか。その考え方はバンドによって大きく違う。例えば、ピーズにバトンを渡したコレクターズは完璧なロック・ショウを目指した。お祭り感もできるだけ排除して、照明をUFO型にし、ターゲット・マークを浮かび上がらせた。スモークとレーザーとミラーボールを駆使。スクリーンに映し出す映像、SEも全部綿密に計算し、演出に取り入れた。加藤ひさしの性格を反映したライブだった。ピーズは「今日の気分」をさらけ出す「いつものピーズ」に徹した。「30周年なので少なくとも30曲、制限時間の午後9時までやり抜く」。それをテーマに掲げて挑んだ。実際には35曲を披露することになった。武道館のサイズ感に合わせても、それはピーズっぽくない。楽曲をひたすら披露するだけピーズのライブとして成立する。そういう確信があったに違いない。そこがとてもピーズらしくてよかった。こちらも演者の性格をとてもよく反映していた。というわけで、1曲目の「ノロマが走っていく」から35曲目の「グライダー」まで、2時間半、ピーズは、ただひたすらピーズであることを見せつづけた。そして最初の話につながるのだが、そこに照れが一切なかった。たくさんの観客の前で堂々とピーズであることを全うした。それが本当に清々しかった。安孫子義一のロックンロール・ギターも佐藤シンイチロウのドラムも大木温之のベースもかっこよかった。そして最後の最後まできっちりと35曲を歌いきった。武道館の直前のインタビューで「武道館の次の日からどうなるんだろう?」と大木温之は語っていたが、たぶん、ピーズのままでありつづけるのだと思う。(森内淳/DONUT)