10月9日、東京・日比谷野外大音楽堂で行われた仲井戸麗市率いるCHABO BANDのライブを見た
10月9日、仲井戸麗市が率いるCHABO BANDが日比谷野外大音楽堂で超満員の観客の前でライブを披露。「雨あがりの夜空に」と冠されたライブに仲井戸麗市の決意を見た
10月9日、仲井戸“CHABO”麗市(以下、チャボさん)がバースデイ・ライブを東京・日比谷野外大音楽堂で行った。チャボさんは今年で67歳になる。ギターに向かう情熱と姿勢は、ぼくがチャボさんの音楽を聴くようになってからの35年間、全く変わらない。RC活動休止後、ソロや麗蘭やいろんなミュージシャンとのコラボレーションなど、様々なスタイルで音楽を披露しているチャボさんだが、今回はCHABO BANDでステージに立った。メンバーは早川岳晴(ba)、河村“カースケ”智康(dr)、Dr.kyOn(key)。梅津和時と片山広明のBLUE DAY HORNSがサックス他で参加した。
日比谷野音はチャボさんにとって特別な場所だ。RCサクセションは毎年のように野音でライブをやっていたし、活動休止後、仲井戸麗市と忌野清志郎(以下、清志郎さん)がステージの上で再会したのも日比谷野音だった(GLAD ALL OVER)。チャボさんもステージの上から話していたけど、野音ではそれこそ数知れないほどのライブやイベントが行われてきた。ロック・バンドにとって、日本武道館と並ぶ聖地だ。同じくお客さんにとっても日比谷野音は特別会場だ。
今回は「雨あがりの夜空に2017」というタイトルが冠された。いうまでもなく、RCサクセションの代表曲だ。最初は野外だし、晴れてほしい、という願いが込められているのかな、と考えていた。「雨あがりの夜空に」は野音ライブのタイトルにぴったりだ。
ところがチャボさんはコンサート直前に「雨あがりの夜空に」をセルフカバーすることを発表した。配信と7インチのアナログシングルでリリースすることになった。こうなると「雨あがりの夜空に2017」というコンサート・タイトルの意味はぐっと濃くなる。「RCサクセションの曲を歌い継ぐ」というチャボさんの決意表明にもとれるからだ。活動休止や解散したバンドのメンバーが代表曲を歌い継ぐ例はいくらでもある。だけど、清志郎さんの存在の大きさを始め、ぼくたちには想像できないような多くのことがチャボさんに重くのしかかっていたと思う。その重たい荷物を全部引き受けようとチャボさんは決めたのではないだろうか。考えすぎかもしれないけど、チャボさんなりの「Carry that weight」のような気がするのだ。またしても野音は特別なステージになりそうだ。そういう思いでステージを見つめていた。
それを象徴していたのがアンコールの「雨あがりの夜空に」だ。この曲の前に、清志郎さんの「OK、チャボ!」という掛け声が何度もテープで流れた。それを合図にチャボさんはイントロを弾き始める。思わず泣きそうになったが、我慢した。こういう演出がやれたのも、チャボさんのなかで、何かが吹っ切れたのではないだろうか。腹をくくったというか。「Carry that weight」で行こう、と決めたというか。チャボさんの歌として、(この日はCHABO BANDとして)「雨あがりの夜空に」を歌ったとき、チャボさんと清志郎さん新たな物語が始まったような気がした。この「雨あがりの夜空に」をやる前に、チャボさんはビートルズの「The Long And Winding Road」を演奏した。ポール・マッカートニーがジョン・レノンに向けて作ったといわれている曲だ。この曲に、清志郎さんに捧げる日本語詞をつけて、チャボさんは歌った。そこから清志郎さんとの最後の共作「激しい雨」を演奏し、「雨あがりの夜空に」へと繋げた。この3曲は、ひとつの物語になっていた。
他にもRCの「お墓」や「君が僕を知ってる」、清志郎さんのソロ曲「毎日がブランニューデイ」なども披露。インストからの「よォーこそ」を入れれば、清志郎さんボーカル曲が25曲中6曲あった。しかし「歌い継ぐ」とはRCの楽曲に寄り添うことではない。チャボさん自身のオリジナル曲が対等に存在しないと、そこにリアリティは生まれない。ノスタルジーではロックンロールは鳴らない。この夜の最初のハイライトは最新作『CHABO』からの曲だった。A面4曲目の「QUESTION」、A面7曲目の「雨!」、B面1曲目の「ま、いずれにせよ」、B面2曲目の「歩く」。コンサートの前半の最後に披露されたこの4曲は、ときにアグレッシブで、最近の音楽の流れを汲み取ったものだった。CHABO BANDの本領が発揮された、まさに前半のクライマックスといっていい。
「INTERMISSION」を挟んで、後半は「遥かな手紙(ニジェールから)」、新曲「Aftermath」、本編最後の「My R&R」など、チャボさんからの「私信」が披露された。この辺りの曲も野音で聴くと余計に心を揺らす。同じように洋楽のカバーナンバーもよかった。清志郎さんへ向けて歌った「The Long And Winding Road」。チャック・ベリーのカバー(というよりもビートルズ日本武道館公演の1曲目の)「Rock And Roll Music」、ブルース・スプリングスティーンのカバー「Hungry Heart」。洋楽カバーは時として賑やかしで終わることもある。しかしチャボさんの場合、すべての曲はチャボさんの曲になっている。チャボさんは日本語詞をつけ、独自のアレンジでカバーを歌う。すべてが仲井戸麗市の歌として昇華しているのだ。それはビートルズが演奏する「Rock And Roll Music」が、完全にビートルズのものになったように、チャボさんもカバー曲に新たな魂を吹き込んでいる。オリジナル曲、RCのセルフカバー、洋楽のカバー。この3つの柱は、チャボさんのコンサートに彩りを生み、豊かなものに変えている。
そしてもうひとつチャボさんのコンサートには大きな柱がある。リーディングだ。2回目のアンコールのクライマックスに披露された「ガルシアの風」。中津川 THE SOLAR BUDOKANの大トリで登場したチャボさんはこの曲でフェスをしめた。それくらい大きな曲だ。この日も、「どうにもならぬことなど何ひとつなかったのです」というメッセージが漆黒に包まれた野音を覆った。そのとき、ぼくたちは闇のなかにかすかな希望を見出すことができる。自分も随分歳をとってしまったけれど、まだやれるのかもしれない、という気分になる。チャボさんはステージの上から「ロックンロールがあったから、俺たち、ここにいるんだよな?」といった。ここに集まったお客さん全員の共通した思いだ。仲井戸麗市とここに集まったリスナーのロックンロールの物語はつづいていく。それを確信した夜だった。(森内淳/DONUT)
CHABO BAND「雨上がりの夜空に 2017」
2017年10月9日(月・祝)日比谷野外大音楽堂
セットリスト
- M-1 野音のテーマ
M-2 プリテンダー
M-3 インスト~よォーこそ
M-4 Born in 新宿~
M-5 君が僕を知ってる
M-6 QUESTION
M-7 雨!
M-8 ま、いずれにせよ
M-9 歩く
M-10 INTER MISSION
M-11 遥かな手紙(ニジェールから)
M-12 エピローグ
M-13 Rock&Roll Music
M-14 毎日がブランニューデイ
M-15 Little Wing
M-16 やせっぽちのブルース
M-17 Hungry Heart
M-18 アフターマス
M-19 My R&R - EN
EN-1 When I’m 67
EN-2 お墓
EN-3 The Long And Winding Road
EN-4 激しい雨~雨あがりの夜空に
EN-5 リーディング~ガルシアの風
EN-6 家路