新しい風景を見せたザ・クロマニヨンズ「ラッキー&ヘブン 2017-2018」ツアーをレポート
ザ・クロマニヨンズがアルバム『ラッキー&ヘブン』を引っさげてロング・ツアーを開始。
クロマニヨンズの底力をあらためて示すステージに。
ザ・クロマニヨンズはニューアルバムの曲をたくさん演奏する。ここ数年は全曲演奏している。だからアルバムさえチェックしていれば、どんな雰囲気のライブになるかはだいたいわかる。ところが今回のライブはそうはいかなかった。なぜならニューアルバム『ラッキー&ヘブン』がエイトビート満載の作品ではないからだ。クロマニヨンズはロックンロールをひたすら食らい、それでも満足できないからさらに食らうことを繰り返してきた。その連鎖がリスナーを熱狂させた。『ラッキー&ヘブン』においてはそれすらも突き抜けてしまい、「クロマニヨンズがやりゃなんでもロックンロールなんじゃないの?」的な境地まで到達した。DONUT FREE VOL.9のインタビューでも真島昌利(gt)は「ロックンロールじゃない」とかいわれても別に気にならなくなった、という発言をしている。クロマニヨンズはここに来て新しいフェーズを迎えたようだ。
そのクロマニヨンズのアルバム・リリース・ツアーが始まった。来年の春までつづくロング・ツアーだ。「ラッキー&ヘブン 2017-2018」。11月29日水曜日、東京公演の2日目をマイナビBLITZ赤坂に見に行った。もちろんチケットは完売。1曲目は「デカしていこう」。『ラッキー&ヘブン』の冒頭を飾る曲だ。2曲目は「流れ弾」。『ラッキー&ヘブン』の2番目に入っている曲だ。3曲目は「どん底」。『ラッキー&ヘブン』の3番目に入っている曲だ。4曲目にシングルB面の「ぼー」が入ったものの、「足のはやい無口な女の子」「ハッセンハッピャク」とライブはアルバムの曲順通りにつづく。『ラッキー&ヘブン』はライブで曲順をいじりようがないくらい、その世界観が完成しているということだろう。
甲本ヒロト(vo)と真島昌利の2人揃って、エイトビートではない曲をたくさん作ってきたとなると、アルバムのテーマを決めて示し合わせたのではないか、と思う人もいるだろう。ところがこれは偶然の産物だという。2人ともそういう気分だったそうだ。クロマニヨンズの特徴は、そのときの気分をレコードに記録(レコード)するところだ。バランスも少しは考えるのだろうけど、多くは考えない。一度はバランスを考え、シングルのB面のビート・ナンバー「ぼー」をアルバムの「ユウマヅメ」と入れ替えたそうだ。しかしそれではどうしてもしっくり来なくて、結局は元に戻したという。おかげで『ラッキー&ヘブン』はとても多彩な作品になった。2人のソングライティングの才能が解き放たれている。そしてBLITZのステージの上では、今まで以上に自由になったクロマニヨンズの楽曲が暴れていた。
「嗚呼! もう夏は!」でA面が終了。つづいてB面1曲目の「盆踊り」の演奏が始まった。「盆踊り」は『ラッキー&ヘブン』の多彩さを象徴した曲だ。どんな曲かというと盆踊りだ。盆踊り以外の何モノでもない。「盆踊り」がB面の1曲目に陣取っているのが『ラッキー&ヘブン』というアルバムだ。そしてこの「盆踊り」でライブの熱狂が寸断されるどころか、会場は熱狂の渦になった。オーディエンスのセンスの良さに驚くと共に、「盆踊り」だろうと、エイトビート・ナンバーと同じレベルのエネルギーを宿していることに気づいた。これには小林勝(ba)と桐田勝治(dr)のリズム隊が一役買っている。小林と桐田のビートが鳴っている限り、多彩な楽曲も一本の線で結ばれるのだ。真島は「どんな曲を書いても2人が何とかしてくれる」というようなことをいっていた。「それがバンドだ」と。今回のツアーを体感することで、真島の発言がどういうことか、その意味がわかった気がした。
過去のアルバムの曲を挟んで「ユウマヅメ」で再び『ラッキー&ヘブン』へ。「ワンゴー」「ジャッカル」とつづき、再び過去のアルバムの曲へ。ひとしきり盛り上がった後、本編の最後に「散歩」が演奏された。「散歩」もメロウな曲だ。もし今までのツアーだったら「散歩」はアンコールの1曲目あたりに位置していたと思う。そして、本編最後は速い曲で盛り上げて終わったと思う。しかし今回はそうはしなかった。彼らは今の気分を貫きたかったのだ。むしろ「散歩」で締めたことで、クロマニヨンズのロック・バンドとしての底力を見た。ブルーハーツ時代にも甲本と真島は『DUG OUT』というアルバムでメロウな曲ばかりを書いたことがある。しかしあのときはあらかじめそういうコンセプトがあって作品が制作された。今回は自然な流れでこうなった。そこにコンセプトが云々といったエクスキューズはない。これもまたクロマニヨンズなのだ、という自信と確信があるのみ。彼らは最後に「散歩」を演奏することで『ラッキー&ヘブン』の世界観を貫くことを選んだ。この潔さがとてもかっこよく映った。
ブルーハーツ時代から彼らのライブを見続けている人がSNSで「一番いいツアー」と太鼓判を押していたが、ぼくもそういう気分だ。最初はガレージ・バンドのようなスタイルで始まったクロマニヨンズがこんなところまで来るとは。予定調和をどんどん壊し、新しい風景を見せられる興奮がこのステージにはある。いうまでもなく、ロックンロールとは既成概念を乗り越えていくこと。それを体現したのが「ラッキー&ヘブン 2017-2018」だ。そして、そういうクロマニヨンズを心底楽しむオーディエンスの姿にも、ロックンロールを見た。ロックンロールは底なしだ。クロマニヨンズはもっともっと面白くなる。(森内淳/DONUT)