THE YELLOW MONKEY 17年ぶりの東京ドーム公演をライブレビュー
THE YELLOW MONKEYが12月9日と10日に東京ドーム公演を開催。活動休止から17年、復活のイエモンが見せた大舞台でのライブとは?
12月10日 日曜日。ザ・イエロー・モンキーの東京ドーム公演「THE YELLOW MONKEY SUPER BIG EGG 2017」の2日目。17時開演だったが、会場のまわりの人の多さに圧倒され、早めに会場に入った。東京ドーム2デイズはソールドアウト。17年前は1日公演だったので、活動休止中にファンになった人がたくさんいるということか。会場に入って最初に目についたのがステージから楕円形に作られた花道だ。その花道の途中に設えられた巨大な風船型の卵がゆらゆらと揺れていた。新しくバンドが生まれ変わることを象徴したようなオブジェだ。スクリーンでは開演時間までのカウントダウンが始まっていた。着席したときには2000秒くらいあったと思う。それが0になったとき、客電が落ちてライブがスタートした。1曲目は「WELCOME TO MY DOGHOUSE」。ステージにメンバーが登場し、演奏し始めたと思ったら、それはスクリーンに映された映像だった。実際には、巨大な卵のなかでスタンバっていて、卵が割れると花道に設えられたステージで演奏を始めるという演出だった。2曲目の「パール」も同じ場所で演奏。ライブの途中でメリハリをつけるために別のステージで演奏というパターンはあるが彼らの場合は違っていた。ライブハウスのような位置取りのステージは0からのスタートを意味しているようで、とてもいい演出だった。2017年において「BIG EGG」は死語同然だが(昔、東京ドームはBIG EGGと呼ばれていた)、あえて「BIG EGG」をコンサート・タイトルに使った理由もここにあったのかもしれない。
「パール」の演奏が終わると、スクリーンにはドーム公演のオープニングを告げる映像が流れた。その間、メインステージへ移動。3曲目の「ロザーナ」が始まった。イエローモンキーの楽曲の良さはロックの疾走感と共に人の暗黒面やドロドロした感情をも内包しているところにある。自己への批判があり、世の中の物事に対する批評がある。そもそもロックとはそういうもので、彼らは、そういったロックのあらゆる要素を昇華させ、イエローモンキーの作品へと落とし込んできた。5曲目の「TVのシンガー」のヘビーなリフや6曲目の「サイキックNo.9」のハードロックな感触。MMAのギターが鳴り、HEESEYのベースがうなり、ANNIEのドラムが重たいビートを刻み、吉井和哉が歌う。彼らが表現する様々な光景は当然打ち込みを多用したアレンジでは表現できない。退廃的な空気を内包した曲も退廃的なところにはとどまらず、それを突破していくのがロックであり、まさにイエローモンキーの音楽はそれを体現したものだ。それは彼らがデヴィッド・ボウイをはじめ、いろんなアーティストやバンドから継承してきた文化でもある。このステージはイエローモンキー自身の復活であり、逆襲の咆哮だったわけだが、それはロックの咆哮にも思えた。その上で、イエローモンキーが2017年に東京ドームで(2日合わせて)10万人と「ロック」を共有した事実を考えると、これはとても意味のあることだと思った。ロックンロール・キャン・ネヴァー・ダイだ。
ただ17年前と違うのは、そういうことをも全部ひっくるめて、メンバーが楽しんでいたところだ。とにかく彼らは音楽に対して生真面目なので、活動休止前はロックをやることの使命感を背負い込んでしまったところがあった。いい意味での気負いと悪い意味での気負いが混在していたように思う。あくまで個人的な意見だけれど、17年前の東京ドームでの活動休止に至ったのは「ロックに対する真剣さから生じた気負い」もひとつの要因だったのではないだろうか。ところが復活の東京ドーム公演は、そういった気負いを微塵も感じさせなかった。いい意味で自分たちの楽曲を楽しんでいる4人の姿があった。12曲目の「バラ色の日々」や13曲目の「太陽が燃えている」などに見られた、ストリングスやホーンセクション、コーラスを入れたゴージャスなアレンジ。復活の東京ドームだから4人だけでやるとか、あるいはキーボードを入れて5人でやるとか、そういう気負いを超えて、自分たちの音楽を自分たちで楽しもうという姿勢のあらわれだったように思う。ゴージャスな曲なんだからもっとゴージャスにしちゃえ的な余裕がそこかしこに見て取れた。彼らのフラットに音楽を楽しむ姿勢は東京ドームのライブをひたすら楽しいものに変えていた。誰もが気負いがちなスタジアム・ライブで、こういう楽しい雰囲気が作られるのが今のイエローモンキーの強みだと思う。
そんななか、2時間半のステージで一度だけ気負いを感じたシーンがあった。それは19曲目「JAM」の前で吉井和哉が「ニューアルバムを作ります」といったときだ。ここだけは明らかにモードが違った。セットリストを見てもらうとわかるのだが、とにかく2時間半、名曲の連打だ。そのなかで10曲目の「Stars」18曲目の「ALRIGHT」21曲目の「砂の塔」など新曲が披露された。これからのイエローモンキーに課せられた使命は「名曲越え」ということになる。間違いなくリスナーもそれを期待するだろうし、バンドもそれはわかっていると思う。このMCはいい意味での気負いだったと思う。いや、もしかしたら、それは吉井和哉の決意をこちらが勝手に重く受け止めただけで、そういうことすら、今回のステージのように、軽やかに超えていくのかもしれない。スタジアム・ライブは読み切りの漫画や1話完結のドラマのような側面を持っている。しかしイエローモンキーの東京ドーム公演はそうではなかった。むしろ「物語の序章」のようなライブだった。これからも楽しいことが続いていく予感に溢れていた。このライブの延長線上に新作が着地すれば、ぼくたちは新しいイエローモンキーに出会えることになる。吉井和哉はMCを「日本にいないようなバンドになっていきます」と締めた。
イエローモンキーは解散を表明したイベントで「JAM」を1曲だけ披露した。そのときも会場は東京ドームだった。今日、「JAM」を演奏する前に、吉井和哉は「この曲は東京ドームで歌いたい曲」といった。果たして東京ドームでの「JAM」は終わりと始まりを象徴する曲となった。「JAM」終了後、最新曲「Horizon」のアニメーション映像が流れる。これからのバンドを示唆するような曲だ。その映像につづき「SO YOUNG」の演奏が始まる。バンドが復活するということは楽曲が復活するということでもある。その喜びは計り知れない。個人的な話をすると、復活した曲たちは、NHK-FMでミュージック・スクエアというラジオ番組を作っていた頃に巻き戻してくれる。90年代の熱狂が心のなかで蘇る。その熱狂の再燃は、確実に今の自分の心に火をつける。それはファンも同じだと思う。「あの日、ぼくらが信じたものは幻じゃない」という思いが今の自分の背中を押す。それがロックという音楽だ。その思いを今につなげるように、復活後の曲「砂の塔」が演奏され、「BURRN」へ。最後に「悲しきAISIAN BOY」で大団円となった。THE YELLOW MONKEYという文字がスクリーンいっぱいにあらわれ、特効が鳴り、紙吹雪が舞った。とても楽しい2時間半だった。演奏を終えたメンバーはゆっくりと時間をかけて楕円形の花道を歩き、オーディエンスに挨拶をした。そしてステージを降りた。こうやって、ザ・イエロー・モンキーの「終わりの地」は「始まりの地」へとアップデートされた。これから新しい物語が始まるのだ。(森内淳/DONUT)
- <セットリスト>
- 01.WELCOME TO MY DOGHOUSE
02.パール
03.ロザーナ
04.嘆くなり我が夜のFantasy
05.TVのシンガー
06.サイキック No.9
07.SPARK
08.天国旅行
09.真珠色の革命時代 (Pearl Light Of Revolution)
10.Stars
11.SUCK OF LIFE
12.バラ色の日々
13.太陽が燃えている
14.ROCK STAR
15.MY WINDING ROAD
16.LOVE LOVE SHOW
17.プライマル。
18.ALRIGHT
19.JAM
EN
20.SO YOUNG
21.砂の塔
22.BURN
23 悲しきASIAN BOY