ザ・クロマニヨンズ ツアー レイボーサンダー2018-2019 リキッドルーム公演をライブレポート
50本におよぶ「ザ・クロマニヨンズ ツアー レイボーサンダー2018-2019」がスタート その5本目、恵比寿リキッドルームのライブをレポート
11月14日水曜日 ザ・クロマニヨンズの恵比寿リキッドルーム公演を見た。クロマニヨンズは最新アルバム『レインボーサンダー』をリリース。50本に及ぶツアー「レインボーサンダー2018-2019」に旅立ったばかり。筆者が見たライブは5本目だ。前回のツアーの東京公演のキックオフは赤坂BLITZだった。ライブハウスのなかでもホールに近い会場だ。それに比べ、今回の恵比寿リキッドルームはライブハウス然とした会場。キャパシティの差は僅かだが、天井も低く、ステージとお客さんの距離も近い。会場は言うまでもなく超満員。立錐の余地もない。
19時ちょうどに前説がスタート。諸注意に続いてクロマニヨンズを呼び込む。それに合わせて会場が暗転。その時点で会場はヒートアップ。狭い空間でクロマニヨンズのワンマンを見られる至福を東京のお客さんが味わうのは久しぶりだ。とはいえ、この熱気は、クロマニヨンズのライブに対する飢餓感から発せられたものではない。毎年、クロマニヨンズのツアーは半年間に及ぶ。残りの半年もレコーディング期間を除いては何らかのかたちでフェスやイベントに出演している。傍から見ると1年中ライブをやっている印象がある。この恵比寿リキッドルームでも夏にキング・オールスターズと2マンライブをやったばかりだ。ではこの熱気の根幹には何があるのか? イベントになくてツアーのステージにあるものとは? 言うまでもなく新曲だ。この熱気の正体は、クロマニヨンズの新しい楽曲を聴きたいという欲求なのではないか。クロマニヨンズのライブツアーが毎回新鮮なのは、そういったリスナーとバンドの健全な関係性のおかげだ。そして今日もクロマニヨンズは新作『レインボーサンダー』の曲を全部演奏した。
最新作『レインボーサンダー』はリスナーが求めるクロマニヨンズ像のど真ん中を具現化したアルバムだ。あらゆるポップ・スタイルにアプローチした前作とは違い、ひたすらまっすぐにエイトビートのロックンロールを表現した作品だ。今日も冒頭から『レインボーサンダー』の楽曲が次々と投下され、リキッドルームはエイトビートで満たされた。作品の冒頭を飾る曲「おやつ」の歌詞の「自分の果てまで楽しむ」というメッセージをオーディエンス全員が実践しているかのような光景が繰り広げられる。その熱気のなかで甲本ヒロト(vo)、真島昌利(gt)、小林勝(ba)、桐田勝治(dr)も加速。無駄なMCや言い訳や御託は一切なし。ひたすらロックンロールだけを叩き込む。それを受けて会場の熱はさらに上昇。これまたコール&レスポンスなんじゃないかと思った。熱狂と熱狂のやりとりが「宇宙で一番スゲエ夜」を作るのだ。
最新作から5曲をやり終えて「ペース配分などなさらずに楽しんでください」とヒロトが言う。23曲演奏したとしても1曲3分以内なのであっという間にライブは終わってしまう。ペース配分などやっている暇はない。「クロマニヨンズは結成50年で100枚アルバムを出しています」というMC(たぶんそれだけ長くクロマニヨンズをやっているという自覚があるのだと思う)から過去曲のコーナーへ。クロマニヨンズはヒロトとマーシーのバンドとしては3バンド目。そのなかで最長のキャリア12年を記録。過去曲からの選曲の幅も自ずと広がる。ツアー中なので楽曲名は割愛するが、前半の3曲はユニークな選曲だった。こういうテーマでこういうチョイスができるくらいキャリアを積んだのだなあ、とこちらが実感したくらいだ。
再び『レインボーサンダー』へ。アルバム・タイトルを知ったときに今回のアルバムはとびきりいい作品の予感がした。何の意味も持たない子供でもわかる単語の羅列。このシンプルさはクロマニヨンズそのものをあらわしているように思えたからだ。前作『ラッキー&ヘブン』もわかりやすい単語の羅列だが、間に「&」が入るだけで意味を持つ。それすらもないタイトル。こういうわかりやすさやシンプルさに帰結したときロックンロールは爆発する。なんでも『レインボーサンダー』のタイトルの発想の源は小林と桐田だという。12年目のクロマニヨンズは面白いことになっている。このパートでは、アルバムの最後を飾る「GIGS(宇宙で一番スゲエ夜)」を残し、アルバムから6曲を披露。ハイライトは「恋のハイパーメタモルフォーゼ」だろう。取材したときにヒロトは冒頭のコーラスをバンド全員でうたったことを楽しそうに話してくれた。4人のメンバーにオーディエンスが加わったとき、ライブハウスに無敵の光景が現出する。
「クロマニヨンズがまだまだやりたがってるぞ」というMCで終盤のパートがスタート。シングル曲を中心に構成されたこのコーナーは自動的に年々中身が濃くなる。12年も経つと、ベスト選曲だったのがベスト・オブ・ベストくらいの域まで達している。ここでオーディエンスの盛り上がりはピークを迎える。ライブが始まる前は新作を渇望していても、シングル曲の連打は至福の時間をもたらす。「スゲエ夜」をも上回る勢いだ。ところが、これがライブの回を重ねるごとに、新曲が過去のシングル曲と同じような輝きと熱を帯びる。この時点ではたしかに今夜の「スゲエ夜」のピークは終盤だったかもしれない。ところが最終公演辺りではすべての瞬間がピークになる。最終公演近くの東京公演で「なんだ、もうツアー終わりかよ」っていう気分になるのはそのせいだ。たぶん他のバンドも本当はこうやって新曲が変化していくのだろうが、クロマニヨンズほど本数をやらないので(しかも新作を全部演奏するバンドはほとんどいない)、その変化が見えにくい。クロマニヨンズのライブはその変化を楽しむことができる。だからクロマニヨンズのライブはリピートしたくなる。アンコールはヒロトの「一番ええことやろう。ロックンロールやろう」というMCでスタート。シングル曲のB面(「時のまにまに」)につづき2曲を演奏して、90分、23曲のライブは雷光のように過ぎていった。(森内淳/DONUT)