甲本ヒロト・内田勘太郎のバンド、ブギ連のライブをリポート
甲本ヒロト・内田勘太郎のバンド、ブギ連が始動。2019年7月4日・渋谷クラブクアトロでのブギ連のお披露目ライブをリポート
2019年7月4日(木)、ブギ連のライブを渋谷クラブクアトロへ見に行った。ブギ連はザ・クロマニヨンズの甲本ヒロト(vo&harp)と憂歌団の内田勘太郎(vo>)のブルース・バンド。 彼らは6月に『ブギ連』というアルバムをリリースした。7月4日はそのお披露目ライブだった。
甲本のブルース・マニアっぷりはクロマニヨンズのファンの間では有名。インタビューでもブルースの話が飛び出すことも珍しくはない。これまでもブルース・ミュージシャンと予告なしにセッションをやることもあった。甲本と内田のセッションも今回が初めてではない。内田曰く「5年前に横浜のライブハウスで2時間のライブをやった」とのこと。5年越しの再集結がブギ連だったわけだ。
甲本が今回のように、ブルース・バンドを組んで、作品をリリースし、ライブを行ったのは初めてのことだ。クロマニヨンズも彼らなりのブルースだということを考えると、ここに来て、ストレートなブルース表現をやりたいと思った理由は何なのだろうか。それがいまいちつかめなかった。たぶんたいした理由はなく、気分と流れだとは思うのだけど。それとも2016年にリリースされたローリング・ストーンズのブルース・カバー・アルバム『ブルー&ロンサム』も少しは影響しているのだろうか。ストーンズがやっていいっていうんだから、いいだろう、みたいな。それはわからない。どうであれ、アルバム『ブギ連』に対する評価は高い。限定生産のアナログ盤もすぐに入手困難になったようだ。
19時30分、満員の場内が暗転。Baccataの「Yes Sir,I Can Boogie」が流れ、ふたりが登場。会場からは大きな声援が。舞台上手に内田勘太郎が、下手に甲本ヒロトが着席。1曲目が演奏される。クロマニヨンズ・ファンのなかには甲本を至近距離で見られるファン心理でチケットをとった人もいたかもしれない。その気持もわかる。しかし、内田勘太郎のギターの最初の1音が鳴り響いた瞬間、そんなことはどうでもよくなった。余計な感情は全部、クアトロの一番奥の壁まで吹き飛んでいってしまった。内田がたった1本のギターでつくりだす深くて強烈なサウンドはすさまじいものだった。そこに甲本のハープ、そして歌が乗った瞬間、ブルースは爆発した。その爆風はあっという間に会場全体を覆ってしまった。
世の中の流れを見ると、ブルースがおしゃれな感じで取り上げられているような雰囲気がどこかにある。ブルースに精通しているわけではないが(というかほとんど無知だが)そういう捉えられ方に居心地の悪さを感じることがある。そんなぼくでも、ビッグ・ママ・ソーントンのレコードやマディ・ウォーターズのライブアルバムはよく聴く。ココ・テイラーのニューヨークのライブで「Wang Dang Doodle」を生で聴いてぶっ飛んだこともある。これはぼくの自慢話のひとつだ。
ぼくにとって、ブルースとは「胸ぐらを掴まれる快感」だ。凶暴なサウンドと歌声がストレートに胸を撃ち抜く感じ。ブルースはとてもシンプルなのに、ビッグ・ママ・ソーントンの「Hound Dog」には、毎回、ぼっこぼこにされるし、ジョン・リー・フッカーの「Mustang Sally and GTO」には簡単に轢き殺されてしまう。どんな分厚い音のヘヴィメタルよりも、爆音のハードコア・パンクよりも、その威力は絶大だ。ブルースを聴くと、身体中がぐつぐつと煮えたぎる。
ブギ連のライブはまさにそういったものだった。ふたりのサウンドにからみつかれ、叩きのめされる。むき出しの感情がブルースというフォーマットにのって心を震わせる。いうまでもなく、内田のギター・プレイと甲本の歌は、それぞれとんでもないポテンシャルをひめている。そのふたつが真正面からぶつかれば、その衝撃度は計り知れない。それに加え、「譜面どおりにはいかない」演奏がすさまじい緊張感を生んでいた。今回のライブはアルバム収録曲や、そうでない曲をふくめた15曲+アンコール3曲で構成されていた。全部で18曲だが、演奏時間は90分。つまり、アルバム収録曲もアルバム通りに演奏されたわけではないということだ。
例えば、チャック・ベリー。彼のライブ映像を見ると、チャック・ベリー以外のメンバーは彼の一挙手一投足を追いかけながら演奏しているのがわかる。曲をいつどのように展開させるかは、すべてチャック・ベリーが演奏をしながら決めるからだ。その緊張感たるや、テレビ越しに眺めていても、なかなかすさまじいものがある。それと同じような駆け引きが内田と甲本の間で行われていた。基本、甲本はニコニコしているのだが(たぶん楽しかったんだと思う)、視線は内田を捉えて離さなかった。そして内田のギターの見せ場が終わった瞬間、歌いだすのだ。その緊張感というか一触即発感がたまらなかった。それもまた、この日の「ブルースの爆発」を形成する要素になっていた。ブギ連は、何もかもマディーに訊いてくれ、とうたっているが、マディーに訊くまでもなく、このライブは甲本ヒロトと内田勘太郎のすべてを語り尽くしている。
ブギ連は9月に東名阪でツアーをやるそうだ。一度ライブを見ると、だいたいどんなツアーになるか想像がつくけれど、この感じだと想像通りにはいかないのだろう。彼らのブルースは各地でちがう爆発の仕方をするはずだ。甲本ヒロトと内田勘太郎の部屋に招かれ、リラックスして気を抜いているところに、突然、蓄音器からブルースが爆音で鳴り響き、髪の毛が逆立つような、そんな光景が各地で繰り広げられることだけは確実だけど。(森内淳/DONUT)