ドミコのワンマンライブ 独占ライブリポートを公開!
2019年8月22日(木)、ドミコが渋谷WWWXでワンマンライブを行った。ドミコのライブに対する評価はここ1年でうなぎのぼりだ。イベントに出れば、確実に頭ひとつ抜きん出るし、先日のフジロックでも、前日の台風の影響で疲労感が漂う午前中のレッド・マーキーに、まるでアドレナリンでも注入するかのように、ロックのダイナミズムに満ちた、インパクトのある演奏を聴かせてくれた。ドミコは日に日にロック・バンドとしてタフになっていく。そのバンドの変化を作品に昇華させたのが最新作『Nice Body?』だ。このアルバムはロック・バンドとしてのひとつの到達点であり、次のフェーズへ向けての出発点でもある。その『Nice Body?』につづいて配信リリースされたのが「WHAT’UP SUMMER」だ。この日はそのリリースを記念しての「夏のワンマンライブ」。さかしたひかる(gt,vo)は「なんとなく夏にライブがしたくてやりました。別に熱い思いがあるわけじゃないですけど」といつものように平熱で語っていたが、それとは裏腹にオーディエンスのドミコへの期待感は熱く、この日のWWWXは超満員ソールドアウトになった。このステージと客との温度のちがいはドミコのライブの特徴にもなっている。さかしたひかるも長谷川啓太(dr)も言葉で客を煽ったりはしない。その代わり、演奏はロックのダイナミズムを体現した圧倒的な迫力に満ちている。ふらっとステージにあらわれて、ものすごい演奏をやって、何事もなかったかのように帰っていくその姿は、まるで初期レッド・ツェッペリンのようだ。
この日のライブは、『Nice Body?』冒頭を飾る「ペーパーロールスター」からスタート。2曲めは初期アルバム『深層快感ですか?』から「united panceke」。スピード感のある2曲で満員の会場を盛り上げる。「サンキュー、お待たせ」というMCから3曲めの「深海旅行にて」へ。前作『hey hey,my my?』の収録曲だ。この曲のイントロで、さかしたひかるはAC/DCの「バック・イン・ブラック」のフレーズを披露。一部のマニアックなロックのファンから歓声があがる。ドミコのライブの特徴は、イントロに限らず、間奏の時間をたっぷりととり、そこでギターとドラムの演奏をしっかりと聴かせるところだ。まずもってインストゥルメンタルでライブ会場を盛り上げるバンドなんて、最近じゃめっきりいなくなった。ましてやそれをライブの売りにするロック・バンドは皆無だ。だからかえってドミコのライブは新鮮に映る。さかしたと長谷川のセッションが永久につづけばいいのに、と思う瞬間も多々ある。ドミコが優れているのは、クラシック・ロック・ファンをも唸らせるような見せ場をつくりながら、オルタナ、ローファイと同居させているところだ。インストゥルメンタルのパートがベタな方向へ転ばないのもそのためだ。この日もロックが持つエッセンスの芯を束ねたような音楽が会場中に力強く、ボーダレスに広がっていった。
4曲めは同じく『hey hey,my my?』から「ロースト・ビーチ・ベイベー」を演奏。ヘヴィ・ロックから一転、ポップなタッチの楽曲へ。がらっと会場の雰囲気が変わる。それもまたドミコの特徴だ。だから「ジャンルレス」、「唯一無二の」という言葉で語られる。ドミコが自由に音楽を操れるのは、さかしたひかるが音楽に対して貪欲だからだ。彼は、学生時代から、気になった音楽を片っ端から聴いて血肉化していった。そこにジャンルの壁はなく、それこそオルタナからハードコアからJ-POPまで、自由に音楽を聴き漁った。そのこだわりのなさがドミコの音楽性としてあらわれている。1枚のアルバムのなかで縦横無尽にあらゆるジャンルを行き来するドミコ。考えてみれば、ロック全盛期の頃にはそんなアルバムこそが名盤といわれた。『ホワイト・アルバム』然り、『フィジカル・グラフィティ』然り。その自由さこそがロックだったはずだ。ロックはなんでもやっていいのだ。ドミコは、無意識にロックの何たるかを体現しているのかもしれない。5曲めの「くじらの巣」も広い振れ幅を示す楽曲だ。アンビエントなアプローチに、会場全体が浮遊感に包まれた。
6曲めからは3曲連続で『Nice Body?』の収録曲を披露。シンプルなロック・ナンバー「さらわれたい」、深いビートの「裸の王様」、サイケデリックなグルーブで彩られた「服をかして」。表情がちがう楽曲を連続で投下する。『Nice Body?』の収録曲を演奏すると、会場がやたらと盛り上がる。過去曲を求める声よりも新作を求める声がおおいということは、ドミコの音楽が現在進行形で浸透していっている証拠だ。そういう意味ではこのライブはまだ通過点にしかすぎない。ドミコの伸びしろはまだまだ未知数だ。9曲目は「怪獣たちは」。『hey hey,my my?』に収録されているカントリー調の曲だ。他の曲とタッチがちがっていても「ここでちょっとちがう感じの曲を」なんていうエクスキューズはない。ドミコの場合、「ここでちょっとスローダウンします」とかいうだけ無駄なのだ。ドミコのオーディエンスはそんな彼らの多様な音楽性に戸惑うどころか、どんなタイプの曲でも素直に受け入れる。むしろ振れ幅のないドミコなんてつまらないとさえ思えてしまう。ビートルズの例をあげるまでもなく、そもそもロックとは世界中のあらゆる土着的な音楽のミクスチャーでもある。ドミコが本能的にロックに回帰することで、リスナーもロックのあるべき姿にあらためて気づく。あるいは「ロックの面白さ」を発見する。「今さらロックなんて」とすかしている連中のカッコ悪さをも浮き彫りにしてしまう。そのリスナーとの健全な関係性が、ドミコが創作への自信にもつながっているように思う。ドミコはロックの勝利宣言そのものだ。
「怪獣たちは」のアウトロからすぐさまドラムのカウントが入って10曲めの「旅行ごっこ」へ。『深層快感ですか?』に収録されている疾走感のあるロックンロール・ナンバーだ。11曲めの「バニラクリームベリーサワー」は『hey hey,my my?』の曲でライブでは定番の1曲だ。ドミコは終盤へ向けてギアをどんどん上げていく。次に最新アルバムから「My Body is Dead」を演奏。キャッチーなサビが印象的な楽曲だ。ここで唐突に「えー、ラスト3曲です。ドミコでした」というMCが。ここまで60分。今日も、ただひたすら演奏だけを見せる潔いライブだった。最近のバンドのライブはMCも含め、過剰なライブがおおい。必要以上の言葉で客を煽る。それは本当の熱さなのかと思う瞬間が何度もある。というか、これがロックなのか? ロックってこんなもんなのか? と思ってしまう。ドミコのライブはそんな潮流とまったく正反対だ。作品を歌と演奏で表現することに膨大なエネルギーを費やす。他のバンドのライブと比べると、時間は短いかもしれないが、密度は濃い。
その「ラスト3曲」の冒頭を飾ったのが、このライブのタイトルにも冠された「WHAT’S UP SUMMER」。夏の気だるさを表現したようなサウンドだが、歌メロはひたすらポップだ。ドミコの音楽は、楽曲全体を覆う洋楽テイストに耳を奪われがちだが、J-POP感もしっかり注入されている。そういえば、以前、さかしたひかるはインタビューで奥田民生がお気に入りだといっていた。奥田民生好きがなんでこんな音楽性に着地するのかまったくの謎だが、J-POPへのリスペクトはメロディの核を形成している。これもまたドミコの独自性だ。にもかかわらず楽曲のタイトルが「WHAT’S UP SUMMER」というシンプルでクールなたたずまいなので、J-POPからは遥か遠くに存在しているように思えるのだが。14曲めに、最新作から切れ味鋭い「わからない」を演奏。会場を熱狂させたあと、「ありがとう、ラストです」というMCとともに『hey hey,my my?』収録の「こんなのおかしくない?」でフィニッシュ。余韻を残すとか、オーディエンスに愛想を振りまくとか、そういう余計な演出もなく、まるでフォックス・サーチの映画のエンディングのようにスパッと終わって、さかしたと長谷川は後ろ髪を引かれることもなく、ステージを去っていく。本編は70分。本当にシンプルで潔いライブだった。
アンコールで再びさかしたひかると長谷川啓太がステージに登場。「めちゃめちゃサマー・チューンをやります」といって気だるさ満載の「ベッドルーム・シェイク・サマー」を披露。アンビエントとサイケデリックが融合した楽曲だが、サウンドの奥底に危うさと艶やかさが潜んでいる。この曲を聴くと、いつもデヴィッド・リンチ監督の『ツイン・ピークス』の続編のエンディング、ロードハウス(BANG BANG BAR)でのライブ演奏を思い出す。。「ベッドルーム・シェイク・サマー」のアウトロで「ありがとうございました。ドミコでした」というのと同時に、『soo coo?』収録曲「まどろまない」へ。「まどろまない」は今やドミコのライブの一番の見せ場になっている。長いイントロが始まるこのライブ・バージョンの「まどろまない」は、ギターとドラムがバチバチに絡み合い、それに比例して客席がどんどんヒートアップしていく。オーディエンスの熱狂がピークに達したときに、「まどろまない」本来のイントロが始まる。ところが歌に入ろうとしたときに機材トラブルが発生。足元のエフェクターかルーパーが寿命を迎えたらしい。フェスやツアーを繰り返していると、この手のトラブルは毎回のように起こるという。そのトラブルをリカバーするために間奏を長くしていたら、それがライブの見せ場として定着した曲もあるそうだ。怪我の功名というわけだ。この日は何度かイントロ部分を繰り返すことで、トラブルをやりすごした。すべての演奏が終わったあと、何度も「ありがとう」といって、ステージを去っていった。この日はアンコール込み90分のライブだった。余計な演出を削ぎ落とし、演奏パートには尋常ならざる力を注ぎ込む。ストイックに演奏を聴かせながら、圧倒的な存在感を見せつける、ドミコならではのライブ・スタイルがここに確立したように思う。ドミコはライブ・バンドとしても「唯一無二の存在」になりつつあるのかもしれない。(森内淳/DONUT)
セットリスト
<WHAT’S UP SUMMER?>
2019年8月22日(木)渋谷WWW X
1.ペーパーロールスター
2.united pancake
3.深海旅行にて
4.ロースト・ビーチ・ベイベー
5.くじらの巣
6.さらわれたい
7.裸の王様
8.服をかして
9.怪獣たちは
10.旅行ごっこ
11.バニラクリームベリーサワー
12.My Body is Dead
13.WHAT’S UP SUMMER
14.わからない
15.こんなのおかしくない?
EN
16.ベッドルーム・シェイク・サマー
17.まどろまない