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カセットテープ・イズ・ノット・ダイ!カセットストアデイのプレイベントとカセットテープの現在地
10月6日に行われたカセットストアデイのプレイベントを通して、カセットテープの現在地をレビュー
10月6日、渋谷Milkywayにてカセットストアデイのプレイベントが行われた。出演はSCOOBIE DO、佐藤タイジ、TRI4TH、Omoinotakeの4組。カセットDJとしてNONA REEVESの西寺郷太が幕間を盛り上げた。
カセットストアデイはイギリス発のイベント。レコードストアデイにインスパイアされたイギリスのインディーレーベルが始めたオーディオテープの祭典だ。アメリカではカセットブームの中心、バーガー・レコーズが代表をつとめ、今や世界的に盛り上がっている。日本では2016年にカセットストアデイ ジャパンが設立され、イベントが行われるようになった。
ただ日本の場合、まだまだノスタルジックなイメージが先行している。高価なレコードを簡単に買えなかった中高生はラジオを録音したり、友人から借りたレコードを録音したりして楽しんでいた。そういう文化を懐かしむ、リバイバルという位置づけだ。それはそれでいいのだが、現代の世界的なカセットテープのブームはノスタルジーとはほぼ無縁なところから生まれた。
カセットテープ復活は音楽ファンのアナログ回帰から始まる。音楽メディアはSP盤〜LP盤〜CD〜ダウンロード〜ストリーミングとテクノロジーが進化していくにつれ、音は劣化の一途を辿った。いよいよダウンロードや配信が主流になった時、多くの音楽ファンやミュージシャンがアナログ盤の音の良さに気づいた。それが現在のアナログ盤復活につながった(ちなみにCDが売れているのは日本とドイツくらいだ)。
しかしながら、とくに金銭的な支援を受けていないインディーズのアーティストにとってアナログ盤を作るにはお金も時間もかかりすぎる。そこで浮上したのがカセットテープだ。カセットテープは単価が安い上に、制作期間が短くて済む。少ないロットから作ることができる。手軽なアナログ・メディアだ。それがまず復活のきかっけだ。友人のCDを録音しようとかラジオのエアチェックとは違う発想からブームは生まれた。
それが加速したのは、カセットテープがクリエイティビティの表現の場としてひとり歩きを始めたからだ。カセットテープは小さなガジェットだ。扱いも簡単なので、想像力を駆使すれば、いろんなことができる。以前もカセットテープと本を合体させたカセットブックなるメディアが存在した。
例えば、RIGHT ONというバンドは、カセットのケースにラベルテープで作ったタイトルを貼り付けた。ジャケットを四角くくり抜き、その下に写真を装着した。Termolo Ghostsは、一枚の写真を大きく引き伸ばし、それをカセットサイズに切り抜き、インデックスとして使用した。つまり同じ作品で、ジャケットが微妙に違うわけだ。曽我部恵一のカセットテープは『スプリング・コレクション』が春を思わせるグリーンのカセットに、『サマー・コレクション』が夏の太陽を表したオレンジのカセットに収録している。ANDという現代音楽のカセットテープには塗り絵とクレヨンがセットされている。他にもカセットのケースをテーブルやピアノに見立てた雑貨のような作品まで登場している。
つまり、カセットテープは全く新しいアートフォームとして生まれ変わり、それがシーンを牽引しているのだ。そしてそれを生み出したり、楽しんだりしているのはカセットテープを初めて手にした世代だ。彼らにとってカセットテープはまったく新しいメディアなのだ。すでにノスタルジックな風景のなかにカセットテープは存在していない。
だからこそ今年のカセットストアデイのアンバサダーは初音ミクなのだろう。初音ミクという最先端のテクノロジーでつくられた今時の歌が新しいメディアとしてのカセットテープでリリースされる。これはカセットテープの啓蒙とかいうよりも、ごくごく普通の流れだと見た方がいい。10月6日のイベントも、西寺郷太による開会の挨拶につづき、初音ミクの開催宣言(掛け声)でスタートした。これが2017年のカセットテープ・シーンなのだ。
そういう意味でいくと、最初にステージに登場したOmoinotake(オモイノタケ)あたりがキーになってくる。彼らはスリーピースのピアノロックバンド。80年代のテイストを現代的な解釈のポップスに仕立て上げている。彼らは、カセットテープを知らない世代だ。つまり新しいメディアとしてカセットテープを捉えることができるのだ。彼らは、今回、このイベントに合わせてカセットテープを作ったという。たぶん、今回はとりあえずカセットテープに録音してみたというレベルだと思う。ここから一歩も二歩も踏み込んで、カセットテープで遊んでくれると、きっとこれからの音楽シーンは面白いことになる。
カセットテープの音をひとりでも多くの人に体感させるためには、西寺郷太によるカセットDJのような体感型のイベントが重要になってくる。なぜならカセットテープの音なんて誰も覚えちゃいないからだ。当時は、レコードの廉価版としてのカセットテープという認識しかなかったから、とくに音の良し悪しまでこだわらなかったと思う。ところがカセットDJを通して、ライブハウスの大きなスピーカーでカセットテープの音を聴くと、予想以上に音がいいことがわかる。この場合の「音がいい」とは音がクリアだとか低音がくるとかそういうことじゃない。アナログの持つ温かさとか、棘のないサウンドが身体の隅々まで浸透していく感じとか、そういうことだ。デジタルで再生するよりも、歌と演奏が心の奥底まで届く感じはアナログレコードに決して負けていない。レコードとは違うカセットテープにしかない良さがある。カセットDJによってそのことを知ることになる。
ただしこのカセットDJは一筋縄ではいかない。なぜなら頭出しが難しいからだ。レコードもCDも頭出しは簡単だ。レコードは盤を目視できるし、CDは表示を見ればすぐわかる。しかしカセットテープの場合、早送りと巻き戻しを繰り返しながら、自分の耳で確かめないと頭出しができない。それからピッチをコントロールできないので曲のつなぎも難しい。上手にフェードアウトしてフィードインするくらいしかできない。その悪条件をクリアしながら、西寺郷太はこの日も果敢にカセットDJに挑戦。見事フロアを沸かすのだった。
次にステージに登場したのがTRI4TH。「踊れるジャズバンド」だ。THE SOLAR BUDOKANではオープニングアクトとして入場者を迎えた。音楽のベースはジャズだが、ライブに関して言えば、ロックのグルーブが満載。会場は次々に放たれるインスト曲で盛り上がった。さすがタワーレコードのジャズチャートで連続して1位を獲得しているツワモノだ。彼らは全員がカセットテープ世代。だからというわけではないだろうが、サウンドに宿るアナログ感がひじょうに気持ちいい。その次に登場した佐藤タイジもそうだが、こういうアナログの良さを知っているアーティストこそがカセットテープにアプローチしていけば、また面白いと思う。なぜなら、当時は、カセットテープのソフトを買うことはあまりなかった。たぶんカセットテープ世代といわれているアーティストも、レコードは買ったけど、カセットテープで新譜を買ってはいなかった。レコードやラジオを録音するツールでしかなかったはずだ。ところが現在のカセットテープのムーブメントの核は、作品をカセットテープでリリースするところだ。生テープに作品を録音するメディアから自立したメディアへと歩を進めている。TRI4THや佐藤タイジがそういう意識で新作をカセットテープでリリースすると、また面白いことになるはずだ。
その佐藤タイジのステージだが、今回はソロで登場。ソロとはいえ、ルーパーを多用し、分厚いサウンドを再現する。今年に入って3回、佐藤タイジのソロを見たが、いつもバンド・サウンドのような出音に圧倒される。この日は、トム・ペティが亡くなった直後で、「Free Fallin’」を披露。他にはCHARに提供した楽曲「悪魔との契約満了」や9.11の時につくり3.11の時に歌詞を加筆した「朝を迎えて」を歌った。最後は「ありったけの愛」。「まわりに迷惑をかけるくらい大声で歌ってください」といって、会場を盛り上げた。最後に「我々の子どもたちにも、自分が選曲したカセットテープを友だちとやりとりしてほしい」というメッセージで締めくくった。そこまで到達すれば、本物だろうが、さすがにプレイリストが代用してしまっているので、なかなか難しいかもしれない。
それを実現するためにはまずハードの普及が必要だ。最近ではようやく大手メーカーが新しいCDラジカセをリリースし始めた。昔のヒップホップ・カルチャーを象徴するようなでかいスピーカーのラジカセはないが、そこそこオシャレなルックスのラジカセもちょこちょこ出始めている。カセットテープを扱っているショップに行くと中古のラジカセが売っていたり、中目黒waltzでは修理もやってくれるので、いろんなところを探索してほしい。もちろん限りはあるがamazonなんかでも購入できる。
そんななか、このイベントで、SCOOBIE DOが新作『CRACKLACK』のカセットテープとポータブル・カセットプレイヤーのセットを5千円で販売していた(現在も公式サイトで販売中/これは破格だと思う)。カセットプレイヤーにはSCOOBIE DOと「Funk-a-lismo!」の文字が入っていて、グッズとしても面白いアイテムになっている。ゲームソフトと、それに合わせた特別なカラーのゲーム機を同梱して売ることがあるが、それと同じ発想だ。これもひとつの新しいアートフォームのようなものだ。ちなみに、ポータブルのカセットプレイヤーにはスピーカーがついていないことが多い。スピーカーで聴きたい人は、イヤホンジャックからパソコン用のパワードスピーカーにつなげばいい。十分にオーディオとして楽しめる。
フロアでは西寺郷太のカセットDJが最高潮を迎えていた。十八番の「We Are The World」をプレイ。西寺郷太のソウル、R&Bに関する知識は膨大だ。とくにマイケル・ジャクソンに関しては彼の右に出る者はいない。マイケル・ジャクソンが中心になって多数のアーティストが参加した「We Are The World」も誰がどのタイミングでどう歌うかまで、全部、頭に入っている。この日のDJでは、曲に合わせて登場アーティストの歌真似を披露。さながら「We Are The World feat. NONA REEVES」。フロアは熱狂の渦。ついには、サビの「We Are The World」ではお客さん全員で大合唱が始まり、とてつもない盛り上がりになった。今のところ、西寺郷太は、カセットテープを広めるための日本で最大のキーパーソンだ。カセットDJとして積極的に活躍してほしい。
そんなフロアの熱を受けてSCOOBIE DOが登場。短い時間だったが、最新作『CRACKLACK』から「ensemble」と「Cold Dancer」を演奏したのが印象的だった。とくに「Cold Dancer」は本編の最後という重要なポジションで演奏された。というのも、最新作の『CRACKLACK』の収録曲は今までの熱さで押すSCOOBIE DOの曲とは違い、クールな要素が満載のダンサブルな要素が満載。ホットな面とクールな面がせめぎ合ってできた新境地だ。そういったタイミングでカセットテープという「新しいメディア」で作品をリリースしたのも何か意味があるような気がする。ちなみにSCOOBIE DO は2018年2月11日、ファイナル公演をZepp TOKYOで行う。
この日のイベントで一番印象に残ったのが、場内が終始フレンドリーな雰囲気だったことだ。中津川 THE SOLAR BUDOKANの後夜祭的なノリもあったので、アフターパーティ的な雰囲気が作れたというのもあるし、何といってもカセットテープを盛り上げるイベントという主旨がはっきりしていたのが大きかった。イベント全体の雰囲気を司るのは、そのイベントの中心に存在するものだ。つまり「カセットテープは楽しい」ということだ。(森内淳/DONUT)