the twentiesタカイリョウの「頭を木刀でやられたのかもしれない」
第14回:「消えたピコサンダル」
いよいよ家賃も払えなくなり、公園のベンチに寝そべってポツポツ空に浮かぶ雲と未来について会話をしていると、少しイキった爺さんに声をかけられた。
住んでたボロアパートの真向かいにある自販機でよくタバコをふかしているその爺さんをおれは何度も目にしていたし、爺さんもおれのことは知っていただろう。
そんな爺さんがおれの隣に座り、初めて言葉を交わしてから数日、金も貯金も未来もオールゼロの暗闇から脱却すべく、若者は頭上の拡声器から一定のリズムで町の隅々まで放たれる軽トラに乗り込み、大分県内をノロノロと徘徊する日々を送ることになった。
「いらなくなった、テレビ、バイク、冷蔵庫、その他、何でも無料で回収致します」
粗大ゴミ回収の仕事は完全歩合制で回収したゴミの内容や数で給料が支払われる。
しかしたかいは給料を数千円貰えただけで、結局一週間ちょっとで辞めた。
全くゴミを回収できなかった。無料と謳っているが大体は金を徴収する。
軽トラの排気音と拡声器から響き渡る声を耳にした町の住人は、“タダ”で粗大ゴミを回収してもらおうとノロノロと進む軽トラ目掛け、手を振り足を振り呼び止めてくる。
すかさず、無料と謳うエサに掛かった獲物の品を確認し「このゴミは金がかかりますね。」と針ごと引き上げようとするが、「金取るんか!」とバタバタ抵抗し、罵声を浴びせてくる。
分かります。無料と聞いて外に出て来たのに金を取られるなんてそれは怒りますよね。数十メートル後ろから走って呼び止めに来る方もいらっしゃいましたから。
そんなやり取りを十数回する内に色々と面倒くさくなっていた。まじで「金金金金」うるさい。魚なのに。
軽トラのハンドルを握った3日目には朝9時からガストやジョイフルでダラダラとランチを過ごし、昼過ぎからは運転席の窓を全開にして缶コーヒーを飲みながらのんびりと大分県内をドライブするようになっていた。(ガソリン代はメモリ半分まで会社が出してくれる)
これが思いのほか楽しくて、海沿いを走ったり全く知らない場所へ当ても無く軽トラを走らせては、窓から片肘を出し沈みゆく太陽をぼんやりと眺めていた。
それにしても軽トラであちこちドライブする18歳なんてそうそういないだろう。
そんな日々を楽しんでいたが、こんな金にもならんことをしていてはヤバい……と我に帰り、軽トラのハンドルから渋々と手を離した。世の中やはり金だ。
後日、回収の仕事を紹介してくれたイキッた爺さんに会った際に辞めた事を伝えると、爺さんはその日の夜焼肉に連れて行ってくれた。
何故かは良く分からない。「肉は好きか?」と、大分の光吉にあるスタミナ太郎へ連れて行ってくれたのだが、特にその時話した内容は覚えていないしやっぱりなんかイキッていた。
白いタンクトップにゴールドのメッキっぽいチェーンを首に巻き、裾をぼろぼろに引きずり回したブカブカのジーパンにPIKOのサンダルを履いて、顔を斜めに傾けながら周りに睨みを利かせて肉を食っていたからやっぱりなんかイキッている。
そんなイキッた爺さんをある日ばったり見かけなくなった。そもそも爺さんだったのかも分からないが、結局その爺さんのことはよく分からないまま、突然姿を消した。
焼肉を食べた日以降も、自販機の前でタバコをふかしてるのは何度も見かけたし、缶コーヒーを奢ってくれて会話をしたりもした。しかし本当に突然、急に姿を見せなくなった。
そして爺さんがいなくなった事さえ当時は深く考える事もなく、しまいには存在すら忘れていった。
それなのに、たまに軽トラを見かけると脳裏に蘇るあの少しイキッた爺さん。
良く分からないけど、見た目よりなんだか優しい人だ。公園のベンチで寝そべっていたおれに声を掛け仕事を紹介してくれて、すぐ辞めたにもかかわらず焼肉に連れて行ってくれた爺さんにもっとちゃんとお礼をしとけばよかった。と少し後悔している。
もう一生会えることは無いと思うと少しだけ寂しくもなってくる。出来ることならまた焼肉を食わせてほしい。
そもそもこのコラムをやっていなければここまで思い出すことも無かっただろう、爺さん。ありがとう。元気にPIKOのサンダルを履いて生きててほしい。
LIVE INFO
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6月15日(土)兵庫・MUSIC ZOO KOBE 太陽と虎
「松原 40th BIRTHDAY ALL NIGHT PARTY!!」~BARAAZEvol.1~松原40祭~
OPEN 24:00/START 24:00
出演:the twenties/MUNA SEA/and more…
DJ:TEAM BRAAZE/and more…
前売 2,500円/当日 3,000円(1ドリンク別)6月17日(月)大阪・十三FANDANGO
「トップスPresents GIG at 十三FANDANGO submen「There is no end」リリースツアー」
OPEN 18:00/START 18:30
出演:submen/the twenties/TOY BEATS(GUEST)/and more…
前売 2,500円 - 6月23日(日)東京・LIVE HOUSE FEVER
「New Generation Country -5-」
OPEN 17:30/START 17:50
出演:うみのて/the twenties/potekomuzin
OA:魚住英里奈
前売 2,800/当日 3,300円(1ドリンク別) -
6月28日(金)宮城・仙台enn 3rd
LAID BACK OCEAN LIVE TOUR 2019 「Will Gravity Win Tonight?」
OPEN 17:30/START 18:00
出演:LAID BACK OCEAN/the twenties
前売 3,500円(1ドリンク別) - 7月5日(金)大阪・シアターセブン
「頭を金属バットでやられたのかもしれない」
OPEN 19:00/START 19:30
出演:タカイリョウ/金属バット
前売 2,500/当日 3,000円(1ドリンク別) -
7月6日(土)大阪・心斎橋アメリカ村周辺の20会場
「見放題2019」
OPEN 12:30/START 13:00
前売 4,000円(1ドリンク別)
オフィシャルHP:http://www.mihoudai.jp/7月24日(水)東京・新代田Live bar crossing
「FeelFree vol.22」~Bassist Night「HENTAI NO ENKAI」~
OPEN 18:30/START 19:00
前売 2,400円/当日 未定(1ドリンク別)
出演:木原潤(memento森/SMOOTHIES)/漱石(モハメド)/グローバル徹(鳴ル銅鑼)/野菜くん(the twenties)
※野菜くんのみ出演となります