2018年4月29日(日)
2018年4月29日(日)。ARABAKI 2日目も快晴。今日はTHE BOHEMIANS、村越”HARRY”弘明 with THE STREET SLIDERS 35TH ANNIVERSARY BAND、the pillowsを中心に見ていくつもり。ボヘミアンズは2015年以来のARABAKI登場。ピロウズはメインステージとほぼ同じ時間に演奏する。ハリーがバンドをしたがえて演奏するのを見るのは20年ぶりくらいかもしれない。全部、荒吐ステージだ。花笠ステージのGLIM SPANKYと仲井戸麗市と髭のライブは移動の関係から見るのをあきらめた。せめて仲井戸麗市~ハリーは余裕を持って見られるように組んでほしかったが、そういうわがままな声にいちいちこたえていくと、フェスは成立しなくなる。ARABAKIでは8ステージが同時に稼働しているのだ。したがって出てきたタイムテーブルのなかで、無理なく計画を練るしかない。それもまたフェスの楽しみだ。
今、面白いロックンロール・バンドがライブハウスではたくさん出てきている。そのロックンロール・シーンを、ここ数年に渡って、牽引している期待のホープがTHE BOHEMIANSだ。とくにここ1年くらいのバンドの成長ぶりには目を見張る。彼らは常に会場と観客にアジャストしたステージをやる。たとえば対バンがロックンロール・バンドばかりだったら初期衝動でおす。広い会場で比較的長い時間演奏できるときにはポップな楽曲からロックンロールまで織り交ぜたエンタテインメントショウを作っていく。それは器用さやサービス精神のあらわれではない。彼らはいつだって「勝ち」に行っているのだ。たまには対バンに負かされることもあるけれど、結果はどうでもいい。「勝ちに行く姿勢」がいいのだ。それが一番大事だ。そこを高く評価したい。この日、演奏されたのは「THE ROBELETS」「太陽ロールバンド」「GIRLS(ボーイズ)」「male bee,on a sunny day. well well well well!」「I ride genius band story」「ダーティーでリバティーなベイビー、お願いだから」「That Is Rock And Roll」の7曲。いろんなタイプのミュージシャンやバンドが混在するフェスのなかで、ボヘミンズはど真ん中のロックンロールを鳴らした。青空の下で繰り広げられるパフォーマンスを見ていると、日比谷野音でボヘミアンズを見たくなった。晴天の野音、雨の野音、どちらも似合いそうだ。
村越”HARRY”弘明まで時間があったので、一旦、メインゲートを出て、シャトルバスの乗り場へつづく道を歩いて磐越ステージ近くのゲートを目指す。会場内も楽しいが、場外の道は広くて空いている。しかも木陰が涼しい。ゆっくり歩いていると遠くからGLIM SPANKYの松尾レミの歌声が風に乗って聴こえてきた。どこにいても音楽が隣にある環境は贅沢だ。しかもこんな素晴らしい自然のなかで。雨のARABAKIは寒くてかなわないが、晴天のARABAKIは天国だ。再入場し、磐越ステージを抜けると、いろんなショップが立ち並んでいる。メインゲートの方は食事のブースがメインだが、こちらは雑貨ショップやワークショップをやっているブースなど、様々だ。もちろん食事を出すブースもある。そのエリアでしばらくぼんやりしながら過ごす。
と、そのときだ。仲井戸麗市のオフィシャル・ツイッターがTOSHI-LOWのステージに飛び入りするとアナウンス。TOSHI-LOWの出番は14時5分。時計を見るとすでに14時20分。間に合わないと思いつつ、とりあえず東北ライブハウス大作戦のステージ(HASEKURA Revolution)へ急ぐ。ブース1個分しかない小さなステージの前は大勢のお客さんでひしめき合っていた。人垣の合間からステージを覗くようにして見ると、ちょうどTOSHI-LOWが仲井戸麗市を呼び込むところだった。ふたりが披露したのはRCサクセションのアルバム『COVERS』から「明日なき世界」。TOSHI-LOWはまず忌野清志郎の「地震のあとには戦争がやってくる」という詩を朗読する。それを読み終えると「明日なき世界」の演奏をはじめる。この曲はP.F.スローンが核戦争の恐怖を憂いで1965年に書いた。最初に和訳したのは高石ともや。それにさらに手を加えたのが忌野清志郎だ(RCバージョンの作詞クレジットは「P.F.スローン/高石ともや/忌野清志郎」)。その歌を今、TOSHI-LOWが歌い継ぐ。この曲は1965年のリアルを映した歌であるのと同時に、2018年のリアルを映した歌でもある。忌野清志郎が書いた詩を曲の前に加えることによって、さらに現実味を増す。「世界が破滅するなんて嘘だろう」というメッセージがより切実なものとして響く。「忌野清志郎の友だち」とTOSHI-LOWに紹介された仲井戸麗市がアコースティックギターをかき鳴らし、コーラスを歌う。東北ライブハウス大作戦のステージの正面には忌野清志郎のシンボル、ヒトハタウサギが揺れている。まるでふたりのパフォーマンスを忌野清志郎が見守っているかのようだ。たった5分程度の演奏だったが、とても心に残るステージだった。
再び場外へ出て、外周を歩いて荒吐ステージへ。村越“HARRY”弘明 with THE STREET SLIDERS 35th ANNIVERSARY BANDがいよいよ登場する。リハーサルに立ち会った方がいうには「すごいことになっている」らしい。いやが応にも期待は高まる。今回のメンバーは村越”HARRY”弘明(vo>)、フジイケンジ(gt)、高野勲(key)、ウエノコウジ(ba)、中村達也(dr)、田中邦和(sax)、ダブゾンビ(tp)。ハリーのソロライブは一昨年のフジロックで見た。そのときはアコースティックギター1本のソロライブだったが、今回はバンドセットでの登場だ。今年、ストリート・スライダーズは結成35周年を迎える。バンドはとっくに解散しているわけだが、各メンバーは音楽活動をつづけている。今年、ハリーはスライダーズのギタリストだった盟友・土屋公平(蘭丸)とのユニット、JOY-POPSをリユニオン。全国ツアーを行なっている。ARABAKIではスケジュールの都合で、ハリーの後輩たちによるスライダーズ・セッションになった。蘭丸がいないのは残念だが、JOY-POPSもアコースティック・スタイルなので、バンド・サウンドでスライダーズのナンバーを聴けるのも、また一興だ。
まずメンバーが出てきてセッションを始める。中村達也のドラムはすごい。深く重く鳴り響くだけではなく、どこかパンク・テイストに彩られていて、スライダーズ・ナンバーに新風を巻き起こしそうな予感だ。すると、そこへハリーが登場。澄み渡った空の下へあらわれたハリーはとにかくかっこよかった。スライダーズのことをよく知らない人は青空よりも暗いライブハウスの方が似合うように思うかもしれない。それは誤った認識だ。スライダーズは常に日本のロックのメインストリートを歩いてきた。ハリーの美しい歌メロは誰の心をもふるわせる。ひたすらかっこいいギターのリフは、イントロだけで大会場をうねらせてしまう。ARABAKIのような大きなフェスの大きなステージでうたわれてこそ、スライダーズの楽曲は真価を発揮する。突き抜けた青空の下、大舞台に堂々と立つハリーこそ、ぼくらのハリーなのだ。
1曲目は「TOKYO JUNK」。2曲目が「So Heavy」。3曲目に早くも代表曲「のら犬にさえなれない」を投下。4曲目はアコースティックギターに持ち替えて「風が強い日」。ヒットナンバーの連投だ。なんとここでハリーがメンバーを紹介。スライダーズのときもソロのときもほとんどMCはやらなかった。「じゃまだまだ踊れる曲をやるから楽しんでってくれ」とハリーがいうと「Special Woman」がスタートした。こんなことをいうハリーを見たことがない。どうやら最近のソロライブではステージで喋っているようだ 。とはいえ、他のアーティストと比べれば極端に言葉数は少ないが、これは大きな変化だ。おまけに表情もすごく晴れやかだ。楽曲とお客さんが創り出した歓喜の輪をハリーは楽しんでいた。それがハリーの表情や言葉を変えたのだろう。しかし、それは誰かがお膳立てしたものではなく、ハリー自身がARABAKIという場を求めたからこそ、生み出された歓喜だ。ハリーには、もっともっとこういう場を求めてほしい。青空の下でロックンロールを鳴らすハリーがもっともっと見たい。6曲目に「Back To Back」を、そして最後に「Boys Jump The Midnight」を決めて、村越”HARRY”弘明 with THE STREET SLIDERS 35TH ANNIVERSARY BANDのステージは終了した。
しかし、昨日のBIG BEAT CARNIVALといい、今日のハリーのライブといい、他のセッションもそうだけれど、日本のロックのヒストリーを継承し現代に繋げるARABAKIを賞賛せずにはいられない。流行りのバンドを集めないとフェスの体裁が整わないのは当然としても、そのなかで、様々な企画を駆使してロックの深いところを突き刺そうという意思や姿勢を評価せずにいられない。
そのまま荒吐ステージに残って、怒髪天のライブを見た。「酒燃料爆進曲」「オトナノススメ」「セイノワ」を連投。超満員のオーディエンスが一気に爆発。ぼくもハリーのライブで精根尽き果てたはずなのに、怒髪天の音楽にあおられてどんどんテンションが上っていく。一体これは何なのだろう? 理詰めじゃ説明できない何か得体の知れないエネルギーを発散している。新曲「裸武士」が披露されたとき、その秘密の一端にふれられたような気がした。今日、怒髪天は新曲を2曲披露した。7月11日にニューアルバム『夷曲一揆(ひなぶりいっき)』をリリースする。2曲目はロック・バンドが希望をうたわないでどうする、という曲。この曲も十分揺さぶられたが、やはり何と言っても「裸武士」だろう。アルバム紹介の動画でもすでに公開されているが、ひたすら「スッポンポン、スッポンポン」とうたうのだ。この意味のなさにこそ、意味があるというか。ぼくらが抱える鬱屈した感情を解き放つ最高の仕掛けというか。ぼくはこれを「“スッポンポン”のカタルシス」と呼ぶことにした。怒髪天の新たなキラーチューンになりそうな予感だ。その流れで「雪割り桜」をうたわれてしまうと、もはや彼らの思うツボだ。ぼくの隣で見ていた人が「さすがだなぁ」とつぶやいた。
陸奥ステージに移動してBRAHMANのライブの後半を見た。今日は満月で、山の上に浮かぶ月が本当にきれいだった。その月を正面に見ながら「満月の夕」が演奏された。ARABAKIでのブラフマンのステージを見ていると、連帯という文字が浮かんでくる。東北のオーディエンスと、あるいは東北そのものと、ブラフマンの音楽で強固につながっている感じというか、それがARABAKIというフェスの力の一部になっているような気がするのだ。ときとして、音楽は日常を生きるための糧のような役割も果たす。そういう糧を持つということはとても大事なファクターだし、音楽を起点にそういったものが心のなかに生まれているとすれば、とても頼もしいことだと思う。ぼくらは壊れた心を音楽の力でつくりかえることができるのだ。そういうことを「満月の夕」を聴きながら考えていた。
the pillowsを見に荒吐ステージに移動。陸奥ステージでは豪華メンバーによるエレファントカシマシのセッションが行われているにもかかわらず、超満員のオーディエンスで埋まった。ピロウズの集客力というかファンとの絆の深さを感じずにはいられない。1曲目は「アナザーモーニング」。つづけて「About A Rock’n’Roll Band」を披露。「集まってくれてありがとう。俺たちザ・ピロウズです。よろしく。今日は気分がいいです。こんな夜はなんでもできる気がする」といって「I think I can」を演奏。「I know you」とつづく。フェスやイベントのステージは短い。だから「ワンマンこそ真価を発揮する場」といった不文律がある。ところがそういう暗黙の了解を突き抜けていくパフォーマンスにたまに出会うことがある。今日のピロウズはまさにその「不文律破りのステージ」だった。今日のライブに漲る気合いはワンマンのそれと変わらない。「Fool on the planet」をうたい終えたあと「来年、ピロウズは30周年。来年のメインステージは俺たちなんじゃないの? 連れてってやる!」というMCが飛び出す。山中さわおはこういうアピールをステージでやるタイプではないが、この日は相当気合が入っていたのだと思う。そこで演奏されたのが「この世の果てまで」。次の「ハイブリッド レインボウ」でライブは盛り上がりのピークを迎え「Locomotion, more! more!」で本編が終了。アンコールは「みんなの聴きたいあの曲をやってなかった」といって「Funny Bunny」を演奏。最後に「No Surrender」の熱狂で終わった。来年、本当にピロウズは陸奥ステージのメインに登場するのだろうか。それがわかるのは2019年になってからだ。
こうやってぼくのARABAKI ROCK FEST.18は終了した。「Rock isに掲載された菅プロデューサーのインタビューを思い出しながら、自分なりに無理をしないでフェスを楽しむ」というテーマで2日間を楽しんだ。貪り食うように次から次にステージを見るのも一興。同時に、たとえ大きなステージを見なくても充実した2日間を送れるのがフェスだ。究極をいえば、一切ライブを見ないでも楽しめるのがフェスだ。フェスの物語は自分で紡ぐもの。他人が紡いだARABAKIの物語とちがって当然だ。それがフェスの面白さだ。ARABAKI ROCK FEST.19は2019年4月27日(土)・28日(日)に同じく「みちのく公園北地区 エコキャンプみちのく」で開催される。また行こう。
(森内淳/DONUT)