2018年4月29日(日・祝)
ARABAKI2日目。この日も仙台駅からわりとすんなりバスに乗れた。車内では毎年出演者の音源が流れていて、最高のドライブミュージックのおかげで徐々に気分が高まっていく。会場に到着するとめちゃくちゃ快晴で一安心。しかしアウターをホテルへ忘れたことに気づいた……ので、かねてより狙っていたエレカシの30周年記念パーカーを購入することに。合わせて、こちらも買えずにいたDYGLのカセットテープもゲット。フェスに来るとこうやって財布が軽くなっていくんだよなあ。ARABAKIのオフィシャルグッズは来年買いますすみません(笑)。
ひとまずあたりを散策しながら、「RESPECT FOR 忌野清志郎」をテーマとした東北ライブハウス大作戦ステージのラインナップも気になるなあと思いつつ、HANAGASAのDYGLから観ることに。ザ・ストロークスのアルバート・ハモンドJr.とプロデューサーのガス・オバーグが彼らの1stアルバムを手がけるなど、ロックンロール・リバイバル期の影響をもろに感じさせながらも、そこにとどまらない深みを持つDYGL。「I’m Waiting For You」に始まり、ロンドンパンクの焦燥燃える最新シングル「Bad Kicks」、切ないメランコリーに舞う「I’ve Got to Say It’s True」。人生の喜怒哀楽を鳴らし、最後は衝動をガツーンと叩きつけて締め。この1年でバンドの破壊力も表現力もグッと増大したことがよくわかるアクトだった。
続いてBAN-ETSUのMy Hair is Badへ。スタートには間に合わず、「ドラマみたいだ」からだったが、武道館公演を経た彼らは、ただただステージ上で素っ裸になり持てるすべてを曝け出して叫んで掻き鳴らしてアツい熱量をぶちかますだけでなく、1万人規模の会場を端から端まで抱きしめるために、言葉とメロディと3人の音をよりギュッとひとつにしている。その濃密さがハンパないからこそ、椎木知仁(G・Vo)の生々しい勢いがさらに生きてくる、という好循環の中にいることが、ひしひしと伝わる大熱演だった。今のマイヘア、ライブハウスでもホールでもアリーナでも野外フェスでも、どこでやっても無敵なんじゃないだろうか。
GLIM SPANKYのためにHANAGASAへ戻ろうと思ったのだが、ちょうどお昼時ということもあり、フードエリア周辺の動線がお客さんで溢れかえっている。『天空の城ラピュタ』のムスカに言わせれば「見ろ! 人がゴミのようだ!」か。いや失敬。グリムは昨年まさかの機材トラブルで悔しさを噛み締めたが、リベンジに燃える今年は圧巻のパフォーマンスだった。フィードバックノイズから入った「愚か者たち」は、日本語ライクなメロディを、フォークではなくあくまでロックとして爆発させる独自の手法に乗せて、自由奔放に弾きまくる亀本寛貴(G)が鬼気迫る表情を見せる。「褒めろよ」で睨みを効かせる松尾レミ(Vo・G)の声も絶好調。4つ打ちをうまく転がす「END ROLL」はやはりフェスでものすごい威力を発揮するし、ファルセットコーラスとスライドギターの美しい「The Flowers」は、野外で聴くとものすごく気持ちがいい。ロックとは怒りや反抗なんかじゃなく、あくまで自由な精神だ。他人や社会の物差しを鵜呑みにせず、自由に自分の可能性に挑戦していったら、結果的に覆したり、刷新したりしていたってだけのこと。ロックを軸としながらも、ジャンルに縛られず、歌詞のメッセージも限定せず、それでいてどんどん規模を拡大していく彼らのアクトは、まるでそう宣言しているようだった。
BAN-ETSUにてTHE BACK HORN。ARABAKI皆勤賞の彼らは、ただでさえこの舞台にいつも以上の気持ちをぶつけるだろうけれど、今回は『20th SPECIAL』と題された周年アクトということで、まるでツアーファイナルのような重厚な雰囲気だった。1stシングル「サニー」で幕を開け、「声」を突き刺し、「グローリア」で20年分の誇りを撃ち鳴らす。野外、しかも収容人数1万人のステージというのは、ロックバンドにとってかなり厳しい条件である。音作りがしっかりしていないとあっけなく風に負け、後方まで響かないからだ。しかしTHE BACK HORNは、バランスのいいドラム、力強いベースに対して、音源ではできるだけレンジを広くするギターが、逆にライブで中音域にフォーカスすることで抜けをよくし、まさに共鳴しやすくしているところがものすごい。
「ARABAKIただいま〜」と山田将司(Vo)。さらに松田晋二(D)が挨拶するのだが、いつも思うけれど彼は「よろしくお願いします!」をはっきり言えたことがあるのだろうか(笑)。それはさて置き、次の「がんじがらめ」について。喜怒哀楽の「怒」と「哀」が押し出た菅波栄純(G)の詞曲、フィルターを効かせまくったカオスな音色、暴風雨のように激しく叫ぶ歌。社会や時代に作用するロックでもありながら、本人たちにしてみれば20年間磨き上げ、まだその途上でもある爆音をぶちかましているだけなのだろうが、そのぶっきらぼうな感じがものすごくカッコいいなあと思う。《世界が動き出した 1998》と改めて歌う「その先へ」、日本語ロックとしての切ないメロディがすでに完成している「冬のミルク」を経て、ゲストコーナーへ。
前日も山田将司と共演したホリエアツシ(ストレイテナー)が登場する。
ホリエ「昨日将司の順番間違えてね(笑)」
将司「ははは、ほんといいライブだったよね」
ホリエ「いっぱいいっぱいだったけどね」
栄純「そう見えないのがいいよ」
と、一気にまったり楽屋モード。しかし曲に入ると、「空、星、海の夜」であっという間に魅了してしまうのだから、この人たちはほんとにずるい。何よりどこかで大木伸夫(ACIDMAN)が嫉妬に狂っていそうである(笑)。でもそんな感情など吹っ飛ばすほど、ホリエと将司の真逆なのに絶妙なハーモニーは鮮やかな景色を描いていた。
あとは一気にラストスパート。最新作『情景泥棒』のリード曲「Running Away」、そのどデカイ大合唱の気持ちよさはこの舞台ならではだった。ダウンチューニングのヘヴィネスもより迫力を増して押し寄せる。「コバルトブルー」ではまさに風となり、「シンフォニア」は息切れするほど全身全霊で疾走していく。ラストは菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet)を迎えての「刃」。2サビの直前、卓郎と岡峰光舟(B)が向かい合って両手を突き上げると、観客たちも凄まじい盛り上がりに。終盤はノーMCでぶわあっとやって去っていったけれど、言葉なんてなくても、ロックに、バンドに、フェスに対する想いが骨の髄まで伝わる最高のステージだった。
続いてTSUGARUまで大移動。でもライブを観っ放し&陽射しを浴びっ放しだったので、休憩がてら少し寄り道することにした。HANAGASA付近のみちのく公園に、まだ挨拶していない方がいるからだ。そう、ヤギさんである。今年も来たよと言ってみたけど、彼はただただエサに夢中だった。そしてもうひとり、ヒトハタウサギさんにも顔見せを。今年はキャンプファイヤー周辺にいた。しかし夜見るとなんかエロい感じがしませんか。
ようやくTSUGARUに到着、FLOWER FLOWERのライブが始まる。オープニングは「踊り」だったのだけど、入りをミスっていて、どうやらyui(Vo・G)が急遽セットリストを変えたのでPAと呼吸が合わなかったみたい。でも気分や状況に合わせて曲を変更するところは、今の自由な彼女のあり方を象徴しているようで好感が持てる。全員が一流ミュージシャンのメンバーたちもノリノリでやっていてすごくいい。符割でフックを作りながら、サビで開ける「パワフル」の解放感も野外にぴったりだ。それにしてもyuiの声というのは、1/f揺らぎ的な何かがあるのか、倍音の出方といい、ビブラートの響き方といい、改めて稀代のボーカリストだと思う。かつ、ギターで轟音を出す場面もあったりと、バンドマンとしてものすごくゾクゾクさせてくれる。そしてFLOWER FLOWERというバンドには、音楽のケミストリーが確かに存在する。次はもっと大きなステージで観たい、心底そう思う最高のアクトだった。
間髪入れずにARAHABAKIへ。さすがにお腹ぺこぺこだけど、村越“HARRY”弘明 with THE STREET SLIDERS 35th ANNIVERSARY BANDを観ないなんてどうかしてる。HARRYさんはもとより、29歳の自分からすれば、藤井謙二、ウエノコウジ、中村達也、高野勲が同じ舞台に立つというだけでぶっ倒れそうだし、ホーン隊のタブゾンビと田中邦和もめちゃくちゃ楽しみだ。
「踊ろうよBaby」——中村達也がそう叫ぶと、オープニングジャムの最中、村越“HARRY”弘明が姿を現わす。で、「TOKYO JUNK」。昨年、市川“James”洋二らとともにツアーを回っていたことは知っていたけど、にしてもものすごく脂が乗っている。そして演奏は、正直THE STREET SLIDERSを生で観たことはないのだけど、それでも音源で聴いていたのとはまったく別の、シャープでフレッシュなサウンドが飛び跳ねている。そりゃそうか、メンバー全員が目を輝かせているのだから。「風が強い日」が空へ駆けていく時間は宝物になったし、暴れ馬ベースが唸りを上げる「Special Women」はいい意味で爆笑した。「Boys Jump The Midnight」なんて、人生のしんどさを忘れてバカ騒ぎしてしまった。これからもTHE STREET SLIDERSは、ロックンロール少年たちの心の中で永遠に生き続けるのだ。
心も体もすっからかんになってしまったので、そろそろ昼食、というか夕食をいただくことにする。選んだのは地元川崎けんちんうどん。まいうーでございます。近くにいたチョコえもん(川崎町観光PRキャラクター)も大人気だった。
で、MICHINOKUにてBRAHMAN。石巻のとある漁師さんをきっかけに生まれたという「ナミノウタゲ」を、この地で歌うこと自体、このフェスの1曲目に持ってくること自体、BRAHMANにしか伝えられないメッセージだと思う。でも同時に、聴き手がそれぞれの想いを重ね、それぞれの情景を思い浮かべることができるほど、楽曲としての強度が凄まじく、メロディの煌めきってすげえんだなと再認識させられた。次の「FOR ONE’S LIFE」からは、やっぱこれぞBRAHMAN!という衝動と欲望の狂騒空間に。中でも「BEYOND THE MOUNTAIN」がめちゃくちゃ映えていたし、「AFTER-SENSATION」は力強く響き渡っていた。何かを振り払うようにとにかく体を動かしながら、己と向き合い、己を知り、世界と向き合わされ、世界を知らされていく。それはMCも含めて、BRAHMAN道とでも呼びたくなるような、人生の修行なんだと思う。「不倶戴天」、「鼎の問」などを経て「満月の夕」をカバー、さらに次のエレファントカシマシへ捧げるように「月の夜」を披露。そして「真善美」にて圧巻の締め。ARABAKIにBRAHMANあり。今年もそう言えることが何よりもうれしかった。
濃厚すぎる2日間も残すは大トリのみ。それまでコミュニケーションフィールドをぶらぶらしていると、お馴染みの場所でピーズのカラーゲ屋を発見した。今年もアガっていきま〜す!とのことなんで、美味しくもぐもぐいたしました。
さあさあお待ちかねのエレファントカシマシ。メンバー登場前、ZAO View Villageにてジョン・ルーカスが開催していたゴスペルワークショップが行われる。課題曲は「四月の風」だったが、その場で歌うにはちょっと難易度が高かった(笑)。で、ジョンと入れ替わる形でメンバーが登場。ヒラマミキオ(G)と奥野真哉(K)も加えた盤石の布陣である。良くも悪くもエレファントカシマシのライブは、宮本浩次(Vo・G)次第のところがある。で、この日の宮本は「イェーイ!」の咆哮一閃、目ん玉をひん剥き、トップギアで「RAINBOW」をブチ込む。畳み掛けられる前のめりなロックメロディに、会場を丸ごと抱きしめるやさしい旋律。こりゃあ伝説の一夜になるかも。オープニングにしてそう予感する、壮絶な絶好調ぶりだ。
「いい顔してるぜエブリバディ! よく見えないけど(笑)」(宮本)とMCも絶口調。からの「奴隷天国」、「星の砂」ってもうやばいでしょ。そこのけそこのけミヤジが通る、といったぶっ飛び具合は、メロディも歌詞も崩しまくりの「Easy Go」で最高潮を迎えた。一転、「風と共に」のフォーキーなメロディが会場全体を抱きしめる。「あしたはどっちだ」と寺山修司は言ったけれど、それと同じくらい《行き先は自由》という歌詞からも、悲しみの裏側でそれでも自分は生きていくんだという明確な意志が聴こえてくる。「桜の花、舞い上がる道を」、「四月の風」と歌い上げ、「俺たちの明日」をドーーーンと大合唱して前半終了。ゲストコーナーへ移る。
先陣を切ったのは菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet)、曲は「風に吹かれて」だ。言うなれば反逆のロックデカダンス、ダークな耽美を纏う菅原らしい熱く美しい声を響かせ、田島貴男(ORIGINAL LOVE)へバトンタッチ。こんなにタメの効いたリズム&ダンディーな「今宵の月のように」は聴いたことがない(笑)。白シャツ姿で爆笑をかっさらったのはTOSHI-LOW。「誰かのささやき」をやったのだけど、「理由も言っていい? ミヤジ、言っていい?」と語り出す(以下覚え書きですが)。「2011年、震災がありました。東北だけじゃなく、俺の地元・茨城にも影響がありました。ちょっと時間が経った時、ライブハウスの店長が電話をしてきました。『大変なことになった。自粛、節電で、半年先のスケジュールまで全部消えた』と。そんな中、唯一ライブを断らなかったバンドがあります——エレファントカシマシ。そしてアルバム『東京の空』は、レコード会社の契約を打ち切られる一番どん底の中で作られ、それでも誰かの背中を押していよう、そんな曲だと思いましたので選ばせていただきました」。今、彼らが歌うこの曲は、2018年の宮城ならではの意味合いを帯びて心を震わせてくれた。
硬派なゲスト陣の中で紅一点、恐ろしい魅力を放ったのはyui(FLOWER FLOWER)だった。登場するなり「肩を組んで歌ってるのが印象的で……あれやってもらえませんか?」とおねだり。ただのシャイボーイと化した宮本浩次。結局yuiのほうから肩を組むと、「やばいですね……」と宮本浩次。その雰囲気が「月夜の散歩」のロマンチックなムードを確かに後押ししていた。そしてここからレジェンドたちが招かれていく。「本当に現役では唯一尊敬してやまないロック歌手、村越弘明。あえて呼ばせていただきます、HARRYですエブリバディ!」(宮本)。ナンバーはTHE STREET SLIDERSの「のら犬にさえなれない」だ。喜びの歌でもないのに、宮本の声からはわくわくどきどきが溢れ返っている。続いて「最高のロックギタリスト、仲井戸麗市さんです。CHABOさん!」。まずはRCサクセションの「君が僕を知ってる」を、CHABOと宮本が背中合わせとなりながら絶唱する。さらに「悲しみの果て」。しかも思い出作りなんかではまったくなく、ハモりやコーラスを加えた音楽的にも最高の名演だった。
という流れの中でまだひとり、山田将司(THE BACK HORN)が残っていた。おいおいこんな歴史的セッションのあとに将司大丈夫かなあ、もはやかわいそう……(笑)。なんて思っていたのだけど、曲が始まった瞬間に納得した。「ガストロンジャー」だからだ。すべてをぶっ壊すような魂の解放、カオス渦巻くタナトスへの反抗。ロックの爆発が尋常でない共鳴を生み、タガの外れたエネルギーが夜空へと散っていく。宮本も「ここまで心を込めてOH!って言ってくれる人は将司しかいねえぜエブリバディ!」と感激したところで、本編の幕が降りる。アンコールは再びHARRYを迎え、「日本のロックアンセムだぜ」(HARRY)と、「ファイティングマン」にて万感の締め。最後に出演者全員が一堂に会する。ということは、CHABOとHARRYが横一列に……ってか握手した!(笑) まさにピースセッション。「君たちはすごい現場にいるんだぜ!」と宮本も大興奮である。改めてすべてのゲスト、サポートメンバーに感謝を述べ、「またARABAKIで会おう!」の言葉を残し、颯爽と姿を消した。
2日間に渡り、東北の歴史と文化、そしてロックとの融合の中から、数え切れない奇跡の熱狂を生み落とした『ARABAKI ROCK FEST.18』。少なくとも自分にとっては、いつまでも胸にしまっておきたいかけがえのない2日間だったし、次の日からの歩み方さえ変えられたような気がする。早くも来年の開催が発表されているが、再びこのフェスに帰ってくるまで、次の開催概要の一文を心に刻んでいたいと思う。
「荒吐族」のロックなスタンスと、ロックから生まれる「ARABAKI」のエネルギーと共に。
(秋摩竜太郎)