梶原有紀子の関西ライブレビュー
2017年5月&6月 カミコベ、GRAPEVINE、ストレイテナー
今回は、筆者が出向いた幾本かのライブを雑記的に紹介していきます。
COMIN’KOBE’17GRAPEVINEストレイテナー<COMIN’KOBE’17>
『COMIN’KOBE’17』
5月7日(日)神戸ワールド記念ホール、神戸国際展示場
少々時間をさかのぼりゴールデンウィーク最終日の5月7日、今年も『COMIN’KOBE』、通称カミコベが神戸ワールド記念ホールと神戸国際展示場の全4会場で開催された。実行委員長である松原裕氏のガンがわかり、開催が本気で危ぶまれた今年は松原氏たっての願いでHi-STANDARDがシークレットで登場。彼らをはじめ今年も100組以上のアーティスト、バンドが出演し4万人もの人が詰めかけたという。SiMやSUPER BEAVER、「やっと出れたぞ!COMIN’KOBE!」と叫んだ10-FEETなど、出演者のほとんどが短時間のステージの中、松原氏への想いやそれぞれが感じるこのフェスの意義などをMCで語っていた。カミコベはあまたある他のフェスとはちょっと違い、阪神・淡路大震災を風化させず、震災時に世界中が神戸に手を差し伸べてくれたことへの感謝と新たな災害の被災地への支援を掲げるチャリティフェス。入場無料で会場のあちこちに募金箱があり、好きな時に手軽に募金という形で、人によってはそっと、人によっては大胆に自分の気持ちを表現できるところも良い。大トリのガガガSPでコザック前田が、震災に遭った時に友人がハイスタのCDを貸してくれて、「あの時からハイスタに救われていたのかもしれない」と。ステージが始まる前のサウンドチェックで一人、中島みゆきの「ファイト!」を歌ったコザックは宣戦布告をしているようにも見えた。今年結成20年。自らを「日本最古の青春パンクバンド」と謳った彼らのステージにはさまざまな壁を越えて崖を這いあがってきた不屈の魂が赤々と燃えていて、ヤワな背筋も伸びるような、それでいてただただ泣きたくなるような、温かく強い大人の本気のパンクを聴かせてくれた。
<GRAPEVINE>
GRAPEVINE「GRAPEVINE presents GRUESOME TWOSOME」
5月28日(日)Zepp Osaka Bayside(w/UNISON SQUARE GARDEN)
GRAPEVINEが『覚醒』でデビューしたのが今からちょうど20年前。彼らのデビュー20周年を記念した対バンツアー「GRUESOME TWOSOME」は、初日の東京はユニコーン、続く札幌はDr.StrangeLove、福岡はクラムボンと、各地どこも唸らずにはいられない顔合わせによる2マンライブを繰り広げ、最終日5月28日の大阪はUNISON SQUARE GARDENが登場。一聴すると糖度高めなUNISON SQUARE GARDENの曲には、音の隙間や歌詞の行間に実に巧妙に中毒成分が仕込まれていて、それが彼らの曲をもっと聴きたいと思わせるのだろう。そうに違いない。きれいに収まるだけじゃ満足しないいびつな3ピースは、スマートに音楽を鳴らしているように見えるけれど実はがっつりと骨太。
その後輩バンドの後に登場したGRAPEVINEは20年間を縦にざっくりと切ったような選曲も見事で初期の大名曲「スロウ」「ふれていたい」もあれば、ロードムービーを観るような近作「吹曝しのシェヴィ」、20年目の祝砲を思わせる最新曲「Arma」も。その最新曲に続いて一気に20年をさかのぼり「覚醒」を鳴らした時のカタルシスたるや。曲が色あせないというよりも、2017年現在の曲でしかない鋭さと強靭さ。アンコールの最後でUNISON SQUARE GARDENから斎藤宏介(vo)を招き入れ「光について」を歌わせるのだけど、1コーラスでバトンタッチするかと思わせて、しれっと全編斎藤に歌わせるあたりのかわし方は本当に憎い。
<ストレイテナー>
ストレイテナー『BROKEN SCENE TOUR 2017』
6月26日(月)梅田クラブクアトロ(w/My Hair is Bad)
ストレイテナーが9年ぶりに対バンライブツアー『BROKEN SCENE』を開催。しかも6月26日の大阪公演のお相手はMy Hair is Bad。「初めてライブを観た時に、こんなにドキドキわくわくする出会いがまだあったんだ!と興奮した」というのが、ホリエアツシとMy Hair is Badとの出会い。対するMy Hair is Badの椎木知仁はストレイテナーの「THE REMAINS」をかつて必死でコピーしていたという。これまで付き合ってきた彼女とのことも、ムカついてしょうがない瞬間も、面と向かって言葉にして伝えるなんて死んでもできないようなこともMy Hair is Badは歌にできるし、音楽として鳴らせる。ライブは一夜限りだけれどその一夜を作る一瞬、一瞬も、今目の前で転がり出しそうな勢いで3人がかき鳴らし、叩きつけ、かすれ切った声を上げるたった今しかない。その今を見逃したくなくて、彼らのライブに足を運びたくなるのかもしれない。
ストレイテナーが昨年リリースした『COLD DISC』とその前年のライブ盤『BEHIND THE TOKYO』、オリジナルアルバム『BEHIND THE SCENE』と、ホリエアツシのソロであるentの『ELEMENT』を今年に入ってからずっと聴いている。安心の、というと語弊があるのかもしれないけれど、時に皮肉も込めた社会性の強いメッセージと血沸き肉躍るエンタテイメント性を当然のように兼ね備えた質の高いロックミュージックは、どんなに静かな曲でもこちらに揺さぶりをかけてくる。激賞する後輩バンドの後に登場したストレイテナーのステージは、昨年観たワンマン以上に熱かった。出し切るってこういうことなんじゃないかと思うぐらい、演奏の一つ一つはもちろん、4人が立っているその位置さえも曲の持っているポテンシャルを最大に引き出すことにつながっていたと思えるぐらい。これまでずっと聴いてきた曲にこんな表情があったなんて、という発見がいくつもあった。9年前と現在では「BROKEN SCENE」という言葉の持つ意味は変わってきているのかもしれないけれど、見る度に聴く度に新しくなっていく彼らの音楽は、自分の中の古い価値観を壊し更新していく一助になっているように思う。(梶原有紀子)