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梶原有紀子の関西ライブレビュー

梶原有紀子の関西ライブレビュー

梶原有紀子の関西ライブレビュー

2017年12月the pillows、TENDRE、THE YELLOW MONKEY

the pillows「RETURN TO THIRD MOVEMENT!Vol.1」
12月3日(日)心斎橋BIGCAT

the pillows

当サイトにオフィシャルレポートも掲載されているthe pillowsの「RETURN TO THIRD MOVEMENT!Vol.1」の大阪公演を観た。20年前の1997年に発売された5thアルバム『Please Mr.Lostman』、翌年に発売された『LITTLE BUSTERS』の全曲を完全再現するライブで、現在のthe pillowsファンの愛称であるBUSTERSとはこの6thアルバムが発祥だったと記憶している。私事になるけれど、21年前の1996年の暮れ、『Please Mr.Lostman』のアルバムリリースを前にライターとして初めてインタビューに挑んだのがthe pillowsの山中さわおだった。昨年、『STROLL AND ROLL』取材の折り1996年、97年あたりに話が及んだ際にその旨を伝えると、「俺がいちばんイヤなヤツだった頃ね」と笑っていた。覚えている限り山中がイヤなヤツだったことは一度もなく、それよりも96年当時、the pillowsの熱心なリスナーでもあった自分としては、雑誌やラジオなどのメディアで現在のようにpillowsが取り上げられないことが何よりイヤだった。なぜなら『Please Mr.Lostman』の前作『LIVING FIELD』もさらに前作の『KOOL SPICE』も限りなく素晴らしいアルバムだったから。いまだにブックレットを開かなくても歌詞が思い出せるぐらい聴きまくっていたけれど、当時のライブのMCで山中がこんなふうに言ったことがあった。「全国ツアーといっても東名阪の三か所。外タレかよ(笑)」と。その数年後、何か月もかけて全国をツアーし多くのリスナーに求められるバンドへと変わっていったthe pillowsの激動の時期が、今回完全再現する2枚のアルバムリリース時期でもある90年代最後の数年だった。

“夜ってだけで楽しい”と歌う「Moon is mine」を傍らに置いて過ごした夜がいくつもあり、“ここにはもう欲しい物がないって気づいていた”と歌った「SUICIDE DIVING」のサビの美しさに不安定な気持ちを掬い上げてもらったことも一度や二度じゃなかった。そうやって過ごしていた日々を大人になった今、懐かしく振り返る気分になるのだろうかと、ライブに行く前は思っていた。しかし、1曲1曲と進むにつれて湧き上がってきたのはそんなほのぼのしたものではなく、当時とはまた違った今現在の自分の中にある砕くことのできないわだかまりや、日々消えることのない疑問、それに対する怒り。いいトシして、と恥じ入る気持ちがないと言ったらウソだけれど、諦めずにそこに立ち向かおうとする戦闘意識に彼らの音楽は当時よりもさらに強く、暖かく力を贈ってくれているように感じた。

the pillowsの楽曲の中から自分にとってのテーマソングを選ぶなら。以前に友人とそういう話になり、さまざまな曲が挙がった中で「ハイブリッド レインボウ」と答えた人がいちばん多かった。自分は「ONE LIFE」でこれは曲を知った時から不動。音楽は、一緒に時間を過ごした分だけいろんな思い出を運んできてくれる。映画も小説もそうだけれど、自分にとっては幼少の頃から音楽がいちばん身近で極端な話、友達と呼べる人がいなくても音楽があればいいと思っていた時期もあった。30年も40年も前のソウルミュージックにいまだに心が震えるのと同じように、今年生まれた人がこの先10年後、13年後の思春期に差し掛かった時に初めてthe pillowsの曲を聴いたとしても、曲の持つ力はまったく失われない。今すでにthe pillowsに出会えている人はこの音楽と過ごせることが本当に幸せで、この先まだ見ぬ未来の聴き手の中で彼らの音楽がどんな効力を発揮しどんな輝きを放っていくのか、それを知ることができたらいいのにとも思う。

TENDRE
12月6日(水)南堀江FLAKE RECORDS

sumikaやKANDYTOWNのサポートプレイヤーとしても知られるampelの河原太朗がソロプロジェクト、TENDRE(テンダー)として本格的な活動を開始。1stアルバムの『RED FOCUS』を携えた発売記念インストアライブが、両手を伸ばせば届きそうなところにレコードがあふれたFLAKE RECORDS店内で行われた。ampelではベース&ボーカルを務めていたけれど、鍵盤やサックス、ほかにもまだまだ武器があるようで、この日はShe her her hersのドラマー、松浦大樹をサポートに迎え、自身は鍵盤&ボーカルを担当。アットホームな雰囲気の中、フワッと包み込んでくれるような心地よく質の高い音楽を手ずから届けるみたいに奏でていく。ジャズミュージシャンである両親を持ち、子供の頃からスティーヴィー・ワンダーなどのブラックミュージックに親しんでいたという彼の作る音楽は、海外を見渡せばnonameやRhye、HONNEなどとも近距離の聴き手を選ばないグッドミュージック。アルバムではサンダーキャットのカバーも収録していて、80年代の音楽に親しんできたリスナーにとっては懐かしさを感じるようなAOR風味も。TENDREという言葉には「柔らかい」という意味があるそうで、河原自身も彼の作り出す音楽もまさにTENDREという言葉がぴったり。ライブ中、「こういうところでライブがやれるのは理想的」と本人も話していたようにアコースティックセットももっとじっくり楽しみたいし、バンドセットによるライブも体験したい。

THE YELLOW MONKEY「THE YELLOW MONKEY SUPER BIG EGG 2017」
12月9日(土)東京ドーム

THE YELLOWMONKEY

仕事ではなくプライベートで9日の東京ドーム公演を観た。なんとも晴れがましく、That`s Entertainment!と快哉を叫びたくなるようなショウだった。約17年前の2001年1月8日にあった活動休止前のドーム公演「メカラ ウロコ・8」を当時観ていて、それから東京を離れたこともあり東京ドームでライブを観るのはあの日のYELLOW MONKEY以来だった。前回のドームで吉井和哉がファンへ投げかけた言葉、「数え切れないほどの希望と、絶望と、興奮をありがとう」は16年経っても忘れないぐらい字面以上にとても重く鋭かった。2003年に吉井和哉のソロ活動が始まってからもその重さ、鋭さは作品の中にまぎれこんでいるように感じたけれど、それも吉井のソロ10周年を超えたあたりから霧消したように思う。
2016年夏にTHE YELLOW MONKEY復活のステージを大阪城ホールで観た時、今の時代に彼らが存在する意味と理由と必然性の大きさを強く感じた。ドームで一旦幕を閉じたバンドが同じメンバーで、17年ぶりに再びドームのステージに立っている(しかも2日間にわたって)ことだけでも前例がない。まさに前人未到の領域に彼らが突入していくのを体感できることはとてもエキサイティングであると思う。今後さらにオリジナルアルバムの制作に入ることも伝えられた。音楽の買い方も聴き方も、語る言葉も時間の経過によって変わっていくけれど、音楽の素晴らしさは不変。50歳という年齢を超えた今の彼らの中に太陽のように燃え続けているロックンロールを、時代の移ろいに流されない音楽を、早く聴きたい。(梶原有紀子)

梶原有紀子/関西在住。雑誌『CDでーた』編集を経てフリーに。以降、『Weeklyぴあ 首都圏版』『東京Walker』『Barfout!』他でインタビューやライブレポート。近年は主に『ぴあ関西版WEB』『GOOD ROCKS!』でインタビューなど。執筆を手掛けた書籍『髭(HiGE)10th Anniversary Book 素敵な闇』、『K 10th Anniversary Book Years』、『Every Little Thing 20th Anniversary Book Arigato』(すべてシンコーミュージック刊)発売中。

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