梶原有紀子の関西ライブレビュー
MASS OF THE FERMENTING DREGSワンマン&9mm、バクホン、NCISの合同ツアー「Pyramid ACT」大阪公演レビュー
MASS OF THE FERMENTING DREGS「Pyramid ACT」大阪公演
<MASS OF THE FERMENTING DREGS>
MASS OF THE FERMENTING DREGS「デイドリームなんかじゃない」
9月3日(日)心斎橋pangea
約3年間の活動休止期間を終えて2015年末にフルパワーで復活したマスドレことMASS OF THE FERMENTING DREGS。彼らが今年3月より東京・下北沢GARAGEを拠点に開催している、日曜の午後にライブを行う昼ワンマン「デイドリームなんかじゃない」(以下、デイドリ)が大阪でも実現した。フェスやイベントでなくワンマンが、しかも週末の昼間に観られるとは、子を持つ音楽好きな母親としても本当に有難い機会。
6月にVol.2があり、9月24日(日)に同じデイドリのVol.3があるということで、この日はVol.2.5 。こういうセンス、素敵。まだ夏の太陽がギラギラ照りつける中、繁華街のド真ん中にあるライブハウスで12時開場、12時半開演。宮本菜津子(b&vo)の「おはよう!」の一言でライブは始まった。「まで。」「かくいうもの」、そして「She is inside, He is outside」と冒頭から胸のすくような爆音が鳴り響き、暗いライブハウスに鮮やかな光が差したような感覚に。YouTubeで公開されている2016年にカナダのトロントであったマスドレのライブ映像を思い出す。3人の演奏に、現地のリスナーは居ても立ってもいられないという勢いで踊ったり、揺れたり、暴れる寸前だったり。宮本は裸足で、ギターの小倉直也はほとんど下を向いて弾き倒し、ドラムの吉野功はタガが外れたように叩きまくる、いつも通りのマスドレのライブ。画面のこっちと向こうで、国や言語が違っても同じバンドの演奏に心も身体も持っていかれている。音楽が国境を超えるってこういうことか、と何度も思った。けれど、その映像を何百回、何千回再生しても、今ここで見ている光景には勝てない。マスドレが活動を休止して、わずかでも息を止めていた期間があったなんて信じられないぐらいにいきいきと、豊かに音楽で深呼吸をしているのが伝わりすぎるぐらい。吉野のアイディアでこの日は冒頭から6曲、MCなしで一気に畳みかけた。その試みを「どう?」とフロアに聞く宮本に「おう!」と韻を踏むような返事があちこちで聞こえたけど、ステージには届いたかな。その後は、立て続けに新曲を披露。小倉がボーカルをとる曲も、変拍子がめちゃくちゃに気持ちいい曲も、全部を体いっぱいに吸い込んで、その音が新しい風を吹き込んでくれたように気分が良かった。まるで自分の中に澱んでいたものを彼らの曲が粉砕して、すっ飛ばしてくれたようなすがすがしさ。宮本の声がよりそう感じさせるのか、なんて風通しがいいんだろう。
ステージの上の3人の緊張感もいい。曲に入る前、宮本がメンバー2人に視線を送り「いける?」「いける?」というようなやりとりが一瞬のうちに交わされ、吉野のスティックが振り下ろされると同時に曲が始まる。音楽が彼らを強固に結び付けていることを実感させ、そこに自分たちリスナーも繋がったり、時にはぶら下がったりしていろんな活力を彼らの音楽からもらっている。この日は、過去のLIVE REVIEWでもおなじみのFLAKE RECORDSのオーナーであるDAWAがフロアDJを担当。MCでそのことに触れながら宮本は、自分はクラブに行かないからDJはよくわからないけど、と言いながら、「リハの時からDAWAさんの選曲が自分の“THE 青春!”みたいな曲ばっかりでめっちゃアゲてくれる」「そういうのが音楽のいいところよね」と話した。妙というか同じようなことを、この日ライブの冒頭からマスドレの音楽に対して感じていた。青春という通り過ぎた季節に出会った音楽ではなく、今現在のこの日この時を生きていくためにリアルタイムで鳴っている音楽なのだけれど。
MCで「今日一日まだ長いぞー!(笑)」(宮本)と言っていた通り、ライブが終わって外に出たらまだ15時前。もともとこの昼ワンマンは、家庭や仕事の事情などで夜のライブに足を運ぶのが難しくなってきた、という以前からのマスドレファンの声を聞いたメンバーが提案したものだという。東京では今年あと9月24日(日)と12月24日(日)の2回、開催が予定されている。関西でも引き続きの開催を心待ちにしている。
デイドリームなんかじゃない vol.3/vol.4詳細
http://www.garage.or.jp/series/notdaydream
<THE BACK HORN、Nothing’s Carved In Stone、9mm Parabellum Bullet>
THE BACK HORNとNothing’s Carved In Stoneと9mm Parabellum Bulletの3マンとはいったい何事!?かと。こんなにうるさいバンドばかりを一晩で一気に味わえるなんて、本当に嬉しい。と、精いっぱいの愛情を込めて言いたい。フェスなどでは当然顔を合わせている3組だし、対バンもしている。が、この3バンドでしかも各地でそれぞれがホストを務めるという試みも初で、初日、9月9日の大阪は9mmがホストを担当。ほぼ毎年にわたり9月9日の9mmの日を中心に開催している自主企画イベントのタイトル「カオスの百年」を冠したライブとなった。ちなみに9月13日の名古屋はTHE BACK HORNがホストを務めた「KYO‐MEI」。最終日、9月14日の東京はNothing’s Carved In Stoneがホストの「Hand In Hand」。それぞれのライブのタイトルが日替わりでつけられていた。
最初に登場したTHE BACK HORNは、来年で結成20年。フロアに隙間なくみっしりとつまった人たちの群れが、一つの大きな生きもののように右に左に大きくうねるさまは壮観。オープニングの「孤独を繋いで」に続き、早くも「戦う君よ」が聴こえたら、そうなってしまうのも頷ける。ボーカルの山田将司はステージからフロアに何度も手を広げ、少しでも遠くまで届けとばかりに手を伸ばす。その手に応えるように、フロアからは無数の拳が上がり、マイクを向けられなくても歌声が上がる。ステージとフロアが、まるで命をぶつけ合っているよう。3曲目の「声」が終わった時に岡峰光舟はベースを高々と掲げ、菅波栄純は両腕を突き上げ会心のポーズを。ドラムの松田晋二は「今日の3バンドのライブでみんな満腹になって帰って」と言ったけれど、各バンドそれぞれにとっておきのフルコースを用意しているのは目に見えている。THE BACK HORNも10月に発売する20周年記念のベスト盤『BEST THE BACK HORN Ⅱ』に収録される新曲「グローリア」を聴かせてくれた。晴れ晴れと胸を張って前を向かせてくれるその新曲はまさに、彼らの栄光の20年を飾るとともに21年目から始まる新しい船出にふさわしい楽曲だった。
実はこの夜初めてNothing’s Carved In Stoneを生で聴けた。部屋で、電車の中で、高速道路をぶっ飛ばす車中で、どこで聴いてもナッシングスの音楽は気持ちがいい。その曲たちが、ライブの場では想像をはるかに超える生命力を宿していた。英語のように聞こえる日本語詞。洋楽を聴いているような英語詞曲。村松拓の歌声は時にびっくりするほど妖艶で、ロックのダイナミズムとダンスミュージックの華やかさ、しなやかさが文字通りに溶け合った彼らの音楽は、重厚でありながらとても軽やか。この音楽は他の誰にも鳴らせないし、誰も彼のようには歌えない。
今回の「Pyramid ACT」というタイトルについて、3バンドのフロントマンにa flood of circleの佐々木亮介が加わった4人で飲んだ際に、「ピラミッドは横から見ると三角だけど、空から見ると四角」という話になったと紹介してくれた。3バンドすべてが4人組ということも関係あるのだろうか。「みんなの力を借りて主役になりたい」と村松は言ったけれど、彼らはとっくに主役だ。「ここにいる人、一人一人に届けたい」という言葉を待つまでもなく、一音も残らず、ひと呼吸も漏らさずすべて届いている。届くどころか、それに揺さぶられぱなしだった。
最後に登場した今夜のホスト、9mm parabellum Bulletは滝善充に代わりサポートギター2人が加わった5人編成のステージ。彼らにとって今年は、メジャーデビュー10周年の節目でもある。9mmは変わったと、この日のステージを体感して思った。荒れ狂うようなプレイのテンポの速さや、そこからにじみ出る破壊力の強さは変わらないし、変わらないどころか威力を増している。ベースの中村和彦は相変わらず低い位置にあるマイクで絶叫するし、中村とフロントマンの菅原卓郎と横一線に並ぶフォーメーションにより、ドラムのかみじょうちひろの凄まじいプレイはこれまで以上の迫力を持って目に耳に飛び込んでくる。そういった変化とは別に9mmが変わったと感じたのは、歌の芯にあるタフさや、ロックバンドには似合わない表現かもしれないけれど、歌心のようなものが以前よりも揺るぎなくそこにあったこと。激しさや熱さとともに、もっと奥の方からこちらの感情を覚醒させ、爆発させるような強さと、どこまでも行っていいんだと背中を押し出してくれる温かさを今夜ほど感じたライブはなかった。
今回の3バンドは、鳴らしている音楽が持っている魅力以外では、バンドの歴史もメンバーの生い立ちも共通点を探すほうが難しい。似ているところもあるけど、実はまったく似ていない3バンド。菅原は「この3組は戦う相手だとかそういうことじゃなく、この3組が存在している事実が熱い」と話した。アンコールでは山田将司、村松拓を迎えて「Black Market Blues」を。通常、9mmのライブでも異様に沸き上がるこの曲をこの編成で聴けるとは、贅沢極まりない。3バンドがそれぞれに最後に演奏した曲はTHE BACK HORNが「刃」。Nothing’s Carved In Stoneは「Isolation」、そして9mmは「新しい光」。思わず感じ入ってしまうほどどの曲にも共通しているのは、時代の闇を切り開くための戦いは孤独で、でもその先には新しい光が待っているという叫びにも似たメッセージ。その先へ、そのさなかへと飛び込んで行けるだけの力をくれるロックをこの夜確かに受け取った。貴重な饗宴に列席することができた、本当に素晴らしい夜だった。(梶原有紀子)