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山﨑彩音が「今」気になるモノやコト、エッセイなどを紹介!

山﨑彩音の「その時、ハートは盗まれた」

2018/6/12

第30回目「〜壊れた心をアートに変えるコートニー・バーネットのセカンドアルバム〜」

「壊れた心をアートに変えるのよ」 。キャリー・フィッシャーの言葉を引用している「Hopefulessness」というこの曲はコートニー・バーネットが今年の5月に発表した、セカンドアルバム『テル・ミー・ハウ・ユ ー・リアリー・フィール』の1曲目。

 

山﨑彩音

 

初めてアルバムを再生したとき、聴いてる自分はいま試されているのではないか? という 気持ちになった。 親切なビートはなく、静けさとアンニュイなムードに自分が耳を傾けて、注意深く、そこで起きている音をキャッチしなければならない。
感じる力。感性を研ぎ澄まして体いっぱいにそれを浴びること。
アートに変えた作品をそうして感じる力が「あなたにはある?」と冒頭で試されている気 がしたのだ。
それから「一匹狼とも言えないけど普通の人にもなれない」という詞がダイレクトに胸に 突き刺さる。受け取る側と生み出す側の2つに分けるとしたら自分はもう生み出す側の人 間だ。そんな自分にとってはまさに日常で抱える小さなモヤモヤのひとつであり、共感以外 の何物でもなかった。

そして「相手を傷つけたくなくて慎重になる感情」を歌ったという9曲目の「Walkin’On Eggshells」が一番お気に入り。
単純に曲がすごくいいな、と思った。それに歌詞カードを眺めながら聴いていると自分に近いものも感じた。思考回路というか、内面的な気の部分が。 勘が鋭くて相手を思いやるあまり自分は目を瞑って感情は抑える、そういうところに共感できた。
今回のアルバムには、全体的にはっきりとしたメッセージはあるんだけど、使ってる言葉 が尖った言葉じゃないのが彼女のすごいところで好きなところだ。 コートニーの歌詞は気持ちも言葉もあくまで個人的なもの。
だから押しつけがない。「私はこう思うけど、みんなはどう?」っていう、そのくらいのニュアンスなのがすごくクール。だけど現に私は彼女のメッセージに共感したり考えさせられている。

出会いの話をすると、2016年のフジロックの前にコートニー・バーネットのレコード会社の方から「これ、聴いてみて」と言って渡されたのがファーストアルバム『サムタイムス・ アイ・シット・アンド・シンク、サムタイムス・アイジャスト・シット』だった。
初めて聴いたとき、声が気だるくて好き!って思った。
喋るように歌っているところが心地よかった。

私は年々、日本の音楽を聴くとき言葉が気になり、ラフに聴けなくなっている。 例えば好きなバンドのライブを見に行って、新曲をやったとすると、1回聴いただけで、すぐに歌詞を覚えてしまう。それくらい言葉に集中するようになってしまったのだ。そのお陰で高校2年生くらいからライブに行くのが苦痛になった。

だから最初にコートニーのアルバムを楽しめたのは「洋楽だったから」ということと「日 常に馴染むやわらかい空気感」だったからだと思う。
ライブでは(2016年フジロックで見たときは)、3ピースでステージの後に大きなマークが映し出されていて、その前にコートニーとベースとドラムがいるだけのシンプルなスタイ ル。衣装もスキニーのパンツにTシャツ。 コートニーはギターを持ってさらっと出てきて、さらっと始める。そのラフさみたいなものがとてもかっこよくて。
3ピースでラフにやってるところを見て「私もああいうことがしたい!」って興奮したのを 覚えている。

 

山﨑彩音(ライブ後バックヤードで撮ってもらった記念写真。若い、、、。)

世界中で活躍している彼女の新作には、人間の中の絶望的な部分をアートに変えたもの、 つまり「ストレートさと曖昧さのバランスを絶妙にとった」、でも核心的で人の心が動く 作品となっていて、こういう作品が今現在リリースされている事実だけで私も自由にな れるような気がするのだ。
ただ絶望を絶望というわけではなく、それを自分なりに変換して表現すること。
正に私がいま向かおうとしている表現。
そして小林秀雄さんの「人を感動させたいのなら、まず自分が感動できる人でいなければ ならない」という言葉が頭をよぎる。

きっとポップに可愛く過ごし、ハッピーに感じられる自分でいることがなによりも大切なんだろう。

コートニー・バーネット
2nd album『テル・ミー・ハウ・ユー・リアリー・フィール』

(COURTNEY BARNETT 2nd album『TELL ME HOW YOU REALLY FEEL』)
2018年5月18日(金)リリース
TRCP-230/2,200円(税抜)

コートニー・バーネット 2nd album『テル・ミー・ハウ・ユー・リアリー・フィール』

収録曲:
1. Hopefulessness
2. City Looks Pretty
3. Charity
4. Need A Little Time
5. Nameless, Faceless
6. I’m Not Your Mother, I’m Not Your Bitch
7. Crippling Self Doubt And A General Lack Of Self Confidence
8. Help Your Self
9. Walkin’ On Eggshells
10. Sunday Roast
11. How To Boil An Egg (Bonus Track/ 世界初CD化/ 2016年)
12. Swan St Swagger (Bonus Track/ 世界初CD化/ 2014年)

コートニー・バーネット (COURTNEY BARNETT)プロフィール

コートニー・バーネット

コートニー・バーネットはデビュー・アルバム『サムタイムス・アイ・シット・アンド・シンク、サムタイムス・アイ・ジャスト・シット』(2015年)で世界的に大ブレイクを果たす。『テル・ミー・ハウ・ユー・リアリー・フィール』は3年ぶりとなるセカンドアルバム。

 


major 1st album『METROPOLIS』

2018年7月25日(水)リリース
FLCF-4515/2,400円(税込)

<収録曲>
1.アフター・ストーリーズ
2.世界の外のどこへでも
3.ロング・グッドバイ
4.Nobody Else
5. FLYING BOYS
6.恋は夢の中
7.メェメェ羊とミルクチョコレイト
8.ナイトロジー
9. Wolf Moon
10.海へ行こう