山﨑彩音の「その時、ハートは盗まれた」
第26回目 『とんでもない映画を観てしまった』
1月中旬、札幌から来日してきたメル友と新宿でお茶をしていたら、
彼が「ヤバそうな映画やってんだよね」って言うから「へーぇ」ってなんとなくついて行った。
もうすぐ上映時間だというのに、「まあ相手は外タレだから時間通り始まんないっしょ」とかふざけたこと言ってタラタラしてたらまさかの満席気味。
しかも奇跡的に空いていたのは最前席。
(幼稚園生の頃に観たポケモン以来の最前席だった、、、)
私はだいたい映画を観るときは下調べしちゃう派。
口コミとかホームページとかを覗いたり。(理解力があんましないから)
だけどこの日は予定外の映画鑑賞。
しかも恥ずかしながら今から観る映画が伝説の青春映画だとも知らずに最前席でオレンジジュースを飲みながらボケーっと構えていた。
本編がスタートした瞬間、ブロンドヘアの美少年が真っ赤なチャリンコを一生懸命に漕いでいる。
それと同時に「労働するなら死んだ方がマシ」(うろ覚えの歌詞ですみません)とCat StevensのBut I Might Die Tonightが爆音で流れた。
もうこの冒頭だけで私のハートは盗まれた!
-『早春 DEEP END』-
真っ赤なチャリンコを漕いでいた美少年は主人公のマイク15歳。
クリスマスに学校を退学、公衆浴場で働き始めることになる。
その職場で働いてる年上のスーザンに恋をする物語。
スーザンは自由奔放で、相手の気持ちとか知らん!なファンキーな女の子。
映画のタイトルとポスターと冒頭の衝撃から私は、「ちょっと心の荒んだ思春期のティーンのラブストーリかな」と予想した。
むしろ「あー、この手の物好きだぞ!」くらいに思ってた。
だけどまて!!マイクの様子がおかしい!!
学校をクリスマスに辞めたのにもかかわらず、職場に来る先生と普通に話すし、元カノらしき可愛い女の子の存在、家族との仲も良好。むしろマザコン。
「マイクは一体何に屈折してるんだ?」と本当にわからない。
私的には友達もいなくて学校にも馴染めなくて家庭環境も悪くて、だけどロックだけは僕の味方なんだ!みたいな男の子かと思っていたのに。
少し動揺というか残念な気持ちにすらなるくらいマイクはめちゃめちゃ元気なんです。
そんなマイクが恋しちゃうスーザンも問題アリ。
婚約者がいるのに遊びまくっていて、「そんなこと言ったかしら?」が口癖(あくまで想像)な完全に小悪魔タイプ。
そして笑っちゃうほど相手にしてくれないスーザンにマイクの行動はどんどんおかしな方向へ加速する。
とにかく暴走。馬鹿すぎる。
「ここでこうなったら?!」と展開の予想を10回くらいしたのにそれも見事にスルー。
ただ突っ走る、ぶっ飛んでいくだけ。
切なくなったり、悲しくなったりは全無視!
凹まない、全然凹まない!!反省??エモーショナル??知らんし!!
みたいな感じ。
本当に二人ともどうしようもないのである。
もはやこれはコメディ。
だけどコメディにしては美しさがありすぎる、、、
スーザンが着ているイエローのコート。白いブーツ。
白いラインが二本入った赤い車。
何回も食べるホットドッグのケチャップとマスタードの赤と黄色。
公衆浴場の壁を右側からペンキで塗られていく赤。
警報ベルをぶち壊した時に怪我してでる血。
マイクのチャリンコ。
時折出てくる「赤」が最後のクライマックスへと繋がる。
この見え隠れする赤色が少し湿っとしたイギリスの暗さを感じさせる。
馬鹿すぎるも突っ走っていく物語と映像の色彩が不思議とすごく合っているのだ。
私はたまにふと、一枚のポスターでも眺めているような気持ちにもなった。
そして映画の舞台というか肝でもある、「プール、プールサイド」というものに私はこの映画を観る前からロマンを感じている。
なんでだろう?
「プール、プールサイド」という言葉を聞くだけでグッときてキュンとするのは。
私の中でそれはアメリカの西海岸の匂いだったり、甘酸っぱいサマーと言った感じだったり。
J.D.サリンジャーの「ナイン・ストーリーズ」という本に出てくる「バナナフィッシュにうってつけの日」に壮大な影響を受けているからだろうか。
水の中でのキスが描かれた物語が何かと好き。これはもはや一つのフェチだ。
サリンジャーの流れで村上春樹もきっとプールにロマンを感じていて、だからことあるごとに主人公はプールでひたすら泳いだり、プールのコーチに嫉妬する、なんてストーリがあるのかもしれないし。と、もう遺伝なのだ、数えたらキリがなくらいたくさんある。
この映画を観て少し、「懐かしい感じがする」と思ったのも、この映画がいろんな作品に影響を与えたからだと思うが、今原稿を書いていてこの監督はサリンジャーが好きだったのかもしれないなんて思うと嬉しくなるし、図々しくともハイタッチがしたくなる。
あーいろんなものが繋がっていく~~~!!
こういう瞬間、カルチャーやコンテンツって面白い!もっと知らないもの知りたい!って思ってしまう。
そして私はこの映画に何か壮大な、だけど掴めない、捕まえようとしたら消えてしまいそうな、何かを食らったのだ。
そんな風に感動を飛び越えて本能的に興奮したのは初めてだった。
言葉ではうまく言えないけど、映画を見てから妙にイエローが気分になってしまい、部屋に飾るお花もネイルも新しく買ったマグカップも気づけばイエローづくし。
ワースト3位に入るくらい嫌いな色だったのに!
あまりにスーザンが着ているコートが可愛いかったから、、、!
早春DEEP ENDを観て、日常や夢にまでも影響が自然と出てきてしまうような、強烈な何かが潜んでいるものこそ最高のコンテンツなのでは?と気づいてしまったのであった。
『早春 デジタル・リマスター版』
YEBISU GARDEN CINEMAで23日(金)まで
全国順次公開中!
http://mermaidfilms.co.jp/deepend/
© 1971 Maran Films & Kettledrum Productions Inc. All Rights Reserved.
監督・脚本:イエジー・スコリモフスキ
脚本:イエジー・スコリモフスキ、イエジー・グルザ、ボレスワフ・スリク
撮影:チャーリー・スタインバーガー
出演:ジェーン・アッシャー、ジョン・モルダー=ブラウン、ダイアナ・ドース、カール・マイケル・フォーグラー、クリストファー・サンフォード、エリカ・ベール
音楽:キャット・スティーヴンス、CAN
1970年|イギリス・西ドイツ|原題:Deep End|カラー|92分|デジタル・リマスター
提供:マーメイドフィルム、ディスクロード|配給:コピアポア・フィルム|宣伝:VALERIA
「早春」予告編
解説:『早春』(70)は、『手を挙げろ!』(67)がポーランド政府の検閲によって公開禁止となって以降、活動拠点を徐々に海外へと移し始めていたスコリモフスキ監督がイギリス・ロンドンと旧西ドイツ・ミュンヘンで撮影した青春劇。小規模作品ながら、ヴェネチア国際映画祭で上映されるなど大きな評判を呼び、今ではスコリモフスキの最高作の一本に数えられている。日本では1972年の劇場公開以来長らく劇場上映の機会がなく、ソフト化もされていないことからカルト的人気が年々高まっていた。今回上映されるデジタル・リマスター版では、その鮮やかな色彩や陰影が見事によみがえり、独特の映像美と主演ふたりの輝くような魅力を存分に伝えてくれる。
物語:ロンドンの公衆浴場に就職した15歳のマイクは、そこで働く年上の女性スーザンに恋心を抱く。だが婚約者がいながら別の年上男性ともつきあう彼女の奔放な性生活を知るうち、マイクの彼女ヘの執着は徐々にエスカレートしていく…。ジャン=ピエール・レオー主演の『出発』(67)で19歳の青年が大人へと移行する瞬間を映し出したスコリモフスキだが、本作では、15歳の少年が初めての恋と性的欲望のはざまで逡巡する様を、ときにリアルに、ときにユーモラスに描き出す。主人公の少年マイクを演じるのは、『初恋』(70)で当時アイドル的人気を誇っていたジョン・モルダー=ブラウン。彼を魅了するスーザン役を、『アルフィー』(66)他多くの作品に出演していたジェーン・アッシャーが演じる。音楽を手がけたのは、ロンドン出身のシンガー・ソングライター、キャット・スティーヴンスとドイツのロック・グループ“カン”。いつの時代も色あせない思春期の普遍的な物語を、前衛的なイメージと若々しくエネルギッシュな映像で描いた『早春』は、恋に囚われた経験のある者すべてを、狂おしいほどに魅了する。
2017年 4月 26日(水)リリース
FSCT-1005 フォーライフソングス
¥1,200(税込み)
収録曲:プレゼント/〇/キキ/ La mer 全4曲