がらくたロボット ヤマモトダイジロウの「1983」
第三話「街」
空腹を満たした体で、また少しソファーに横たわっている。
口を大きく開けて、アクビを一つ
ゆっくり、ゆっくりと、
時が流れるのを感じていた。
(感じていた、と言ってもただボーっとしていただけだが、
時計の秒針の刻む音のせいでか、そんな風に感じていたんだ。)
仰向けに寝そべった目線の先に、開いたままの窓を見つけた。
外からは、太陽の光が差し込み、ほんの少し風も吹いている。
ふっとソファーから体を起こして、
太陽や風に誘われるように窓の方へと向かった。
窓から見える空は、どこまでも見渡せるくらいに晴れていて
遮る雲の一つもない。
窓辺に肘を立てて、街を見下ろしていたら、
ゴーン!
と、時計台の鐘の音が鳴り響いた。
ふと時計を見たら、もう3時半!
あわてたように玄関を飛び出して
4、5段くらいある石造りの階段を勢いよくジャンプで飛び越えた。
部屋の窓は閉め忘れたまま、行くアテもなく街へ出掛けたんだ。
街を歩くってのは、目的地なんか考えず、
時々、空を眺めたりなんかするもんだ。
スキップとまではいかないが、
周りから見ると浮いて見えるようなステップで
ただこの街を歩いている。
裏通りに入ると、とてもキレイとは言い難い外観のレコード屋が立っていた。
ネオン管で「HEAVEN」と書かれた看板が点滅して
外に立って居ても聞こえるくらい大音量のBGMが、
迷わせる事なく、一直線に入り口へと足を運ばせた。
店内に入ると、壁一面に80’sオリジナルポスターがあちこちに貼られていて、
ここは“天国”か、なんて冗談みたいに笑って見ていたら、
店のオヤジさんがこっちに向かって何か言ってきたんだけど
その声はBGMにかき消されて、全く聞こえやしない。
ニッコリとても紳士的な微笑みで、笑って返した。
出入り口に並べられた新聞やチラシには、大してロクなものがなかったけど
その中にあった一枚の映画のチラシに目を奪われた。
4人の男達の顔が描かれたそのチラシの映画が今日、
この近くの映画館で上映される最終日だった。
「もうすぐ始まる、急がなくちゃ。」
そう言って、ポケットにチラシをしまい込んで、店を後にした。
さっき聞いたレコード屋のBGMが頭から離れない。
いつの間にか声に出して、歌いながら走っていた。
「確かこの辺りだったような、、、」
近くまで来たはずなのに、映画館が見つからず、
一旦足を止めて、ポケットの中からチラシを手に取り
裏に小さく書かれた地図を見ながら、後ろ向きにまた歩き出した。
交差点の角に立つ建物を横切ったその時、
ドン!っと
きつく肩をぶつけ、
まるで酔っ払いのようにフラフラとふらついた足は地面を踏み損ねて、
あぁ、想像出来るだろうか。
不覚にも無様にコケてしまったんだ。
頭を押さえながら、睨みつけるように顔を上げると、
見上げる程デカイ、大男が立っていた。
あとがき
Dexy’s Midnight Runnersの2ndアルバム『Too-Rye-Ay』の最後の曲、「Come On Eileen」
街を歩いたり走ったりしていると、思わず歌いたくなるような曲。「1983」でも、レコード屋から映画館へ向かう途中、走って歌っていたんだ。
おれも時々、この曲のPVみたいに歩いて走って歌ってる。オーバーオール着てバンジョーとかバイオリン弾く姿に心踊らされてね。