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がらくたロボットのヤマモトダイジロウが綴るショート小説

がらくたロボット ヤマモトダイジロウの「1983」

2018/8/24

第四話「大男と映画館」

がらくたロボット ヤマモトダイジロウの「1983」第四話「大男と映画館」

「ソーリー ソーリー」

見下ろすように大男は言った。
無様にもコケてしまったおれは地面に両手を付けて見上げると、
大男が笑っている。
その笑い方ときたら、ホント不細工な顔で
見てるこっちまで笑いそうになるくらいなんだ。

「映画館へ急いでたもンだから、ぶつかってしまったよ」
と大男は、でっかい手を差し伸べて言った。

ん?映画?
そうだ、映画館へ行くんだった!
思い出したように飛び跳ねて起き上がり、
映画館はどっちか聞いた。

「なんだ、映画館へ行くのか。ならオレについて来な」
大男はそう言って、道を案内してくれた。
映画館に着くまでの間、
陽気でノンキな大男が、「どっから来たんだい?」だとか、
「何か飲み物買って行くかい?」だとか聞いてきたんだけど
それどころじゃないくらい時間が気になってて、
あまり聞いていなかった。

 

「ヘイ、あそこだ」
大男が指差して言った。
信号の先に見える映画館が
まるで砂漠の中のオアシスのような、
大航海する大海の中の港のような、
なぜだかはわからないけど、ふとそんな風なイメージが浮かんだんだ。

 

開演5分前、なんとか映画館に着いた。
受付で大男の後ろに並び、チケットを1枚ずつ買って
スクリーンのある広い部屋へ入り
薄暗い階段をゆっくりと上って、
1番後ろのフカフカとは全く程遠いような
硬い真っ赤な席にしかめっ面で腰掛けた時、

ブー、と開演のブザーが鳴り、
間に合った。と言うような顔で大男と顔を見合わせ微笑んだ。

 

物凄く喉が渇いてカラカラだった。
所どころ空席があるこの部屋は、
なんだかとても暑くて、酷く渇いていて
急いで飲み物も買わず映画館に来た事を少し後悔しながら
上着を脱いで、唾液ばかりを飲み
映写機からスクリーンに投射される映像を見ていた。

 

がらくたロボット ヤマモトダイジロウの「1983」第四話「大男と映画館」

ふと横目で大男を見ると、
口からよだれを垂らして
最高にマヌケな面をして寝ていた。

おれは睨むように映画を見ている。
軍曹が「メリークリスマス」と言って
エンドロールが流れ、2時間の映画は幕を閉じた。

眩しいライトが部屋を明るくしたのに
大男はまだマヌケ面でいびきかいて寝ている。
「ヘイ、起きろ」
と、大男を叩き起こして
上着を手に取り席を立って部屋を出た。

出口へと向かう途中、大男が
「良い映画だったなァ」
なんて、また不細工な笑顔でほざきやがる。
だけどなぜか憎めないんだ。

 

映画館を出ると、
その前にはカメラを片手に持った東洋人達が列をなして歩いていて、
あちこち眺めては写真を撮り、
列の先頭にいる旗を持ったスーツ姿の女について行くのを見た。
大男がそれを見て、思いついたかのような顔で嬉しそうに
ジョニー・サンダースのChinese Rocksを歌い出した。
だけど、おれはもう一つ別の歌が頭で流れてたんだ。

いや、違う。
その列の人達は中国人じゃない。
「あれ日本人だよ」
おれがそう言うと、
「どっちでもいいよ」
と、大男は笑った。またお決まりのあの顔で。
おれもつられて一緒に笑っていた。

そして、大男が
「コレ、やるよ」
と、キーホルダーと一枚のチケットをくれて言った。
「今夜、ハシエンダってとこで、最高にぶっ飛んだパーティーがあるんだ、
よかったらオマエも見にこいよ。それはそのチケットさ。
じゃあ、オレァもう行くよ、またな。」

そう言って、大男は手を振り去って行った。

 

小さくなって見えなくなる大男の背中を見つめて
貰ったキーホルダーとチケットを右ポケットにしまいこみ
映画のこと、大男のことを考えながら街をまた歩き出した。

 


あとがき
David Bowieのアルバム『Let’s Dance』から「China Girl」。大島渚監督の映画『戦場のメリークリスマス』を大男と2人で見たせいでか、映画館の前にいた観光客を見た時、「China Girl」が頭によぎったんだ。
「China Girl」は、David BowieとIggy Popの2人で作った曲で、1977年イギーの『The Idiot』ってアルバムに収録されてる。イギーが薬漬けで潰れていく時、ボウイが「China Girl」をセルフカバーして、イギーに印税が入るようにしたらしい。

David Bowie – China Girl (Official Video)