がらくたロボットのヤマモトダイジロウが綴るショート小説

がらくたロボット ヤマモトダイジロウの「1983」

2018/10/19

第六話「プラットホームで」

がらくたロボット

公園から地下鉄までは、そう遠くなかった。
洞窟のように深くまで続く階段をリズミカルに下り、
陽の通らない改札口に到着した。
切符を買い改札へ、
陰気な面持ちで立つ駅員が
太陽も見た事ないような顔で切符を切る。

そしてその時、おれは地獄を徘徊する悪魔をイメージしながら
口角を上げて、ゆっくり、
ゆっくりと駅のプラットホームへと向かう。

 

ホームを歩いていると、
ベンチの横で1人の男が壁にもたれかかって歌っていた。
破れたシャツにボロボロのズボン、
白髪混じりの髭をもじゃもじゃに生やして
鼻がネジ曲がりそうなくらい強烈な匂いを放ちながら
目を閉じたまま、呪文を唱えるように歌っていたんだ。

浮浪者を横目に、
おれはベンチに腰を下ろし、長いため息を一つ。
浮浪者の気味悪い歌を聞きながら
やって来る電車をしばらく待つことにした。

がらくたロボット

すると、突然歌が止まったかと思うと
浮浪者は耳元で言った。

「よぉ、兄ちゃん。横に座ってもいいかい?」

ひどくしゃがれたガラガラ声は
とてもスロウな調子で喋りかけてきたと同時に
とびきりの異臭が襲いかかる。
おれは思わず、息を止めた。

そして、溜め込んだ空気をゆっくりと全部吐き出し、
実に紳士的な態度で答えてやった。

「あぁ、いいよ。」

 

……。

 

長い間、沈黙が続く。
(長いと言っても一瞬だったような気もしたが、
なぜだか沈黙はいつも長く感じるんだ。)

「兄ちゃん、どこへ行くんだい?」

髭もじゃらの浮浪者が先に口を開くと、
おれは間を置かず、
「ハシエンダさ。ン?君は?」

「ハシエンダか、随分と遠くまで行くんだな。」
もじゃもじゃの髭を撫で下ろしながら、
相変わらずスロウな調子で続けて喋る。

「ワシには行くアテなどない。長い間、海を旅してきた。
ある時は荒れ狂った海を渡り、またある時は穏やかな海を。
だが今はただここで、どこか遠く連れてってくれる電車を待っているだけさ。」

浮浪者の目は曇りなく真剣な眼差しで見つめていたが、
(あぁ、このお話を読む君達なら信じただろうか?)
一銭の金も持っていない男が海を航海しただって?
それは、ただの絵空事だろう。

「ただいつか、ある国へ行ってみたい。
陽の当たるあの……」

 

キィーーッ!

 

浮浪者は何か言っていたが、
電車のブレーキ音に
その声は掻き消された。

そして、止まる電車を見て浮浪者は言った。

「おぁ電車が来た。もう時間だ。
これに乗りゃ、ハシエンダまで一本で行けるさ。
こんな老人の話に付き合わせて悪かったな。」

浮浪者は初めて笑った。
ホント子供みたいな顔をして笑ったんだ。

そして、おれは
「さよなら、船長さん。」
それだけを言って、手を振り電車に乗った。
浮浪者は右手を軽く上げるだけで
すぐにまた髭を触った。

 

発車のベルがプラットホームに鳴り響き渡り
電車は走り出した。


あとがき
Psychic TVの『Dreams Less Sweet』から『The Orchids』。効果音や呪文みたいでどこか危なっかしい。だけど、その中にある「The Orchids」や1st Albumの「Stolen Kisses」とかは、悪魔の讃美歌のように聞こえるんだ。浮浪者がなぜ歌っていたかはわからない。もしかすると悪魔だったのかもしれないね。

Psychic TV – The Orchids [1983]