がらくたロボット ヤマモトダイジロウの「1983」
第八話「ハシエンダ」
駅を南に出ると、赤いレンガ造りのでっかい建物が見える。
そう、一目見てわかったんだ。
あれがハシエンダだってね。
そして、ポケットに突っ込んだ手で
チケットをグッと握りしめ
まっすぐハシエンダを見つめながら入り口へと歩く。
受付に着くと、
陰気な顔をした受付員の男が
「ホラ、早くチケットを出せ」
とでも言う様な態度で、
何も言わず手を突き出してきやがった。
どうしてだろうか、わからない。
でも、おれは笑みを浮かべ、実に紳士的な振る舞いで
ゆっくりチケットを取り出し
男のその目の前に突きつけてやったのさ。
男は黙ったまま、一言も発する事なく中へ入れてくれた。
会場の中は、まるで「工場」のよう、
黒と黄色の安全色に塗られた鉄柱がいくつか立っていて
危険が動作するステージにブルーのライトが照らし
注意を警告するかのようだった。
わかりにくい言い回しをしたかもしれないが、
ステージにはバンドが演奏していて
気の狂ったみたいな客が踊り回ってる光景を見たんだ。
その客の中には映画館で出会った大男が最前列で笑っていた。
ハハハ、相変わらずホント不細工な顔で笑ってやがる。
そして、
ライトが少し明るくなって、おれは初めて気が付いた。
ここに居る人達は、
みんな驚くほどに巨人だったんだ!
熱気と爆音に包まれた空気の中、
とってもイケない匂いが充満してる。
回りをぐるりと一周、
会場の端っこに居る巨人達は虚ろな目
なんだ、おれの事を指差して笑ってる。
ここに居る奴らはホントどうかしてるのか。
その一瞬、会場全体に白い光が覆い
エレクトリックなビートが響く。
シンセサイザーやベースの音が
沸き立つフロアを包み込み、
おれは思わず息を飲んだ。
そして、ベースを持ったノッポの男の歌が会場中に響き渡り、
あれ、、、
あぁ、この曲知ってる。
「エノ~ラ・ゲ~イ……」
あとがき
ハシエンダに入った時、OMD(Orchestral Manoeuvres In The Dark)が演奏してて、その時やってたのがこの曲「Genetic Engineering」。怪しげな雰囲気とマッチして奇妙にも聞こえたりした。
でも、電子的な音の中にある温かさを感じるんだ。お話の最後に歌ってた「Enola gay」とかは特にね。同時期で言えばYazooなんかもそう、時代が新しくなっていく中でコンピュータの技術が良くなって。だけど生身の人間が歌うものの温もりが伝わる。当時の時代の象徴だと思うね。