がらくたロボットのヤマモトダイジロウが綴るショート小説

がらくたロボット ヤマモトダイジロウの「1983」

2019/2/22

第十話「ロンドンへ」

おれはただ走った。
アテもないまま薄暗い夜の中を……

 

ハシエンダの汚れたトイレを飛び出し、
会場中にあふれる巨人達の山を掻き分けながら、
大男を探している。

だけど、大男の姿が見えない。
巨人達に聞いてみても、みんな酔っ払って
白目をむいて笑ってるだけ。
これじゃ、ただの虚人じゃないか。
こんな所、もうたくさん。
そして、会場の外へ出て、ほつほつ歩いたんだ。

すると、
ハシエンダから駅に繋がる橋の下で
一人の男が歌を歌っていた。
何重にも木霊するように、響いている。
外灯は消えていて、あまり見えなかったけど、
近づいてみてわかったんだ。
それが大男だってこと

 

「よオ、兄ちゃん」
だいぶん酔っ払い、声がかすれている。
そして、息を落ち着かせ、大男は続けた。
「今夜は本当にぶっ飛んでたよ。こんな夜がずっと続けばいいって思うんだ。
そう思い通りにゃいかないんだけどね。
それにしてもどうしたんだい? 浮かない顔をしやがって」
大男の顔は今にも吐きそうなくらいバッドだったけど
なぜだろう、希望と幸福に満ち溢れている。
おれは言った。
「ハシエンダのトイレで見たんだ、鏡に映る自分を。
おれは日本人で、どうしてここに居るんだろう」

大男は自分の体を重たそうにしながら立ち上がり、
不細工な笑みを浮かべ、

「どっちでもいいよ」

そう言って、また陽気に歌いながら
ハシエンダの方へとフラフラ歩いて行った。

 

あぁ、あの町へ戻ろう

 

そして、電車に乗りこの町に別れを告げた。
だんだんと小さくなってゆくハシエンダを眺め見ながら、、、

 

ジリリリリン!

終着駅、電車を降りる。
プラットホームを見回しても、あの浮浪者はもういない。
1匹のネズミが目の前を横切っただけ。
ホームを歩きながら、
あの時、ここに浮浪者が座ってて、
この世のモノとは思えない程の異臭だったなぁ
なんて思い巡らしていると、
ベンチの上に捨てられたのか、忘れられたのか、
新聞紙を見つけたんだ。
何人もの人が電車を待つ間に読んだのであろう
手垢まみれの新聞紙を手に取り、“ながら新聞”なんかして
地上へと続く階段を上がる。

すると、
一瞬、時が止まったのかというように
いや、電撃が身体中を駆け巡ったかとでも言おうか。
おれは新聞を投げ捨てて走りだした。
アテもないまま薄暗い夜の中を走り続けたんだ。

“新聞紙の端っこには、こう書かれていた”
-1983年ロンドン-

 


あとがき

The Undertones「Teenage Kicks (re-issue)」。大男は舌をもつらせながら歌ってた。ホント気持ち良さそうに、また、ちょっぴり切なそうで。この曲は1978年に発売されて、The Undertonesはこの曲と一緒にロンドンへ走り出した。そしてロンドン中を走り回った。その後に、1983年11月にリイシューとして出してチャートインしたんだけど、同じ年にボーカルが辞めてバンドは解散。数年後に新しいボーカル入って再結成だとか言っても……おっと、少し話しすぎたかな。まぁ何より走り出したんだ、おれも。

The Undertones – Teenage Kicks (Official Video)