カタヤマヒロキが「食」と「ロック」を綴る異色コラム

カタヤマヒロキの「食べロック」

2018/7/6

第3回:「バイセクシャルと鰻」

天気は良かった。

朝、ツアー先のホテルで目が覚めた瞬間に「あ、今日はいい天気だ」とわかるくらい快晴だった。ただ、同時に若干の“気持ち悪さ”が身体をよぎる。この“気持ち悪さ”とは食べ過ぎや飲み過ぎ、ではない。ましてや、ツアーの疲れでもない。

というのも、昨晩無事にライブを終え、打ち上げもせずに宿泊しているホテルへ帰った。

大浴場があるのは事前に知っていた。一刻も早くライブでどろどろになった身体を流したかった。今すぐに呑みたい気持ちを抑えて、まずはひとっ風呂浴び、“ごきゅ”っと生ビールをいってしまおうかしら、と企んでいた。

先走る気持ちのせいか、小さいタオルを持ってくるのを忘れてしまった。気付いた時には脱衣所にて、すっぽんぽん。だが、大丈夫。どうせ男だらけ、タオルで身体を隠す必要もない。出た後に身体を拭くバスタオルがあれば問題ない。気にせず浴槽へ向かうとニコニコしたおじさんが、

「小さいタオル持ってかんでええんかー?」
と声を掛けてくる。

決して注意という雰囲気ではなくアットホームな気さくなおじさんといったところ。

「だいじょぶっす。」

返事もそこそこに風呂場でまず洗体。髪をわしゃわしゃやってると鏡越しにおじさんがこちらを見て、浴槽の縁に腰掛け、ニコニコしている。コミュニケーションを取りたいのか。数分後、突然こちらに寄ってきて耳元で、

「お兄ちゃん…手ぬぐい忘れたんやったら、おいちゃんが背中洗ったろ か……?」

ニコニコしていた顔が突如不気味に変わり、漫画の「ハア…ハア…」という吹き出しが実際に見えた。

そんな事が昨夜あったせいで目覚めに独特の“気持ち悪さ”が残っていたのだ。

 

だが、今日は特別な日なのだ。
気を取り直して行こう。

なぜなら、今日は鰻を食べに行くのだ。

うなぎ、ウナギ、鰻……。

小さな時はタレの味が付いているご飯の方が好きだったのだが、不思議と大人になるにつれ、鰻への愛情が深くなった。と、同時に価格も高騰し、滅多に食べることのできない食材となってしまった。

余談だが、鰻だけに焦点を当てたラズウェル細木先生の漫画『う』も鰻好きにはたまらない作品。

カタヤマヒロキの「食べロック」

 

本日、行く予定のお店は名古屋の「イチビキ」という鰻の老舗。

連れて行ってくれるバンドの先輩はここが大好きで、名古屋に行くたびに訪れているそう。

名古屋はひつまぶしが有名で、あまり詳しくはないのだが、以前「あつた蓬莱軒」に行った際には世の中にこんな美味しいものがあるのか、と思ったくらい美味しかった。

ただ、今日行くイチビキで狙っているのは「鰻丼 特上」とにかく鰻を腹一杯食べることができるそう。しかも鰻の質もめちゃめちゃ高いらしい。

お店のレビューを読むと「うなぎ界の二郎だ」などと書かれているが、一体どうなんだろう。想像は膨らむ。

昼11時30分開店なのだが、オープン前には整理券が配布されて売り切れてしまうとのこと。

先輩から伝えられた朝9時にお店の前に行くと、既に数人並んでいる。1時間ほど待って、ようやくシャッターが開く。整理券が配られるのだ。この時点で後ろに30人くらい並んでいた。

カタヤマヒロキの「食べロック」

無事に整理券をもらい、11時30分にまた来てくださいと伝えられる。開店と同時に入ることが出来るようだ。

カタヤマヒロキの「食べロック」

適当に時間をつぶして、開店時間にお店に行くと既に鰻を焼く香りが漂う。やっとだ……。

カタヤマヒロキの「食べロック」店内は昔ながらの上品な雰囲気。

もちろん注文するのは狙っていた、
「鰻丼 特上3800円」

瓶ビールを飲みつつ、到着を待つ。
そして、いよいよ……。

カタヤマヒロキの「食べロック」

鰻さまの御成り。

大きな鰻が4切れも乗っている。

「今日の鰻は少し硬いかも…ごめんねえ…」
とお母さん。いや、全然硬そうに見えないですよ…。

大っきなひと切れを箸で掴んで、一口。

「サクッ。とろっ。」

ああ……名古屋特有の焼きがしっかりしていて、外がサクサク、中がふわふわ。柔らかい。

そして、脂もこれでもか!と乗っている。まるでトロみたいな口溶け。これは、鰻のトロだ。大トロだ。

本気で美味いものを食べた時の感動が押し寄せてくる。

カタヤマヒロキの「食べロック」

食べ進めると、ご飯の中にもう一切れ鰻が入っていた。計5枚。腹いっぱい鰻を食べた。こんなに惜しげもなく鰻をかっ食らったのは、はじめてかもしれない。ご飯との配分も考えずに、何にもとらわれずに、ただ、鰻を、ひたすら、かっ食らった。

パンチ力、といった面でこれだけガツンとくる鰻ははじめてで、それでいて味も美味いのだ。

「イチビキを食わせろ」

今後こんな声が自分の中から聞こえてくる予感がした。

おじさんにケツを狙われた後に、鰻をひたすら食べる。なんということだろう。

『ジギー・スターダスト』に収録されているが、当初デヴィッド・ボウイがマーク・ボランに送ったという曲「Lady Stardust」。

元々、この曲のタイトルは「He Was Alright (A Song for Marc)」だったという。

そこにバイセクシャルな意味合いが込められていたのかは定かではないが、一口、一口鰻を噛みしめるたびに、同曲のピアノが頭の中に耽美的にリフレインしていた。

外に出ると、朝にも増して天気が良かった。

 

イチビキ
愛知県名古屋市中村区名駅南1-3-16

 

「Rock is LIVE 5」2018.10.12(金)下北沢 BASEMENT BAR. hotspring/がらくたロボット/錯乱前戦.チケット発売中:2,000円(1ドリンク別)