カタヤマヒロキが「食」と「ロック」を綴る異色コラム

カタヤマヒロキの「食べロック」

2018/10/5

第6回:「クッキングパパと春吉な夜」

博多の春吉という街をご存知だろうか?

福岡県中央区に存在しており、天神や中洲に近く、昔ながらの飲食店も多い。

いわゆる「個性の強い下町」というやつだ。

数年前からこの春吉へたびたび訪れるようになった。

というのも、バンドのデザインをやってくれているSさんが、ここ春吉を愛し、実際に春吉に住んでいるのだ。

その為、福岡へ行くたびに春吉を案内してもらっていた。

何度か春吉を案内してもらい、春吉に滞在していると、どうもこれが居心地良いのだ。

まるで地元のように落ち着く、といった表現が近いかもしれない。

それは、きっと私の生まれ育った街が、温泉地である大分県別府市という、いわゆるディープな下町だったので、こういったディープな街に惹かれてしまう性分になったのだろう。幼少期の影響は大きい。

そんな「肌の合う街」春吉に、先日また訪れた。

というのも、ここ約10年間バンドのツアーで定期的に福岡へ行く機会があったのだが、バンドが止まってしまい、しばらく行ってなかった為に、それならば、と初めてツアーではなく、ふらっと1人で行くことにした。

なんというか、東京での生活に少し疲れてしまい、鋭気を養いたかったのだ。

「…よく来たねえ、待っとったよ。今回も色々と連れてっちゃんけん。」

そう言ってニヤリとSさん、そして福岡に住む友人たちと春吉で合流した。

「クッキングパパの109巻で春吉が特集されとうよ。」

うえやまとち先生の「クッキングパパ」109巻で、春吉に実在する店舗が紹介されている、とのこと。

実際に連れて行ってもらったことのある店と、まだ行ったことのない店があり、どちらも魅力的に描かれていた。

カタヤマヒロキの「食べロック」6回目

カタヤマヒロキの「食べロック」6回目

1軒目で紹介されている、餃子と手羽焼きのお店「旭軒」。今回は初めてここへ連れて行ってもらった。

カタヤマヒロキの「食べロック」6回目

ガラガラ、と引き戸を開けると、店内はカウンターのみで10席くらい。漫画そっくりなお母さん2人がテレビドラマを見ながら、慣れた手つきで餃子を包んでいる。

まるで、昭和で時が止まってるかのような空間。

「ご、ごくり」思わず唾を飲んだ。

メニューはいたってシンプルだった。

焼き餃子と、揚げ餃子
卓上にこんもり盛ってある手羽先
かしわ酢もつ
飲み物は瓶ビール、焼酎、日本酒…

カタヤマヒロキの「食べロック」6回目

まずは、瓶ビールをキュッと飲みながら、卓上にある手羽先に手を伸ばす。好きなだけセルフで食べなさい、とステキなスタイル。一本100円。

「わ、わはあ……。」声が漏れる。

冷えているのだが味が濃く染みていてビールと相性抜群。

作り置きなので、肉も少し硬くなっているのが、そこが良い味を醸し出していた。

ちなみに後ほど揚げ立てを出してくれた。もちろん美味しいのだが、この最初に食べた冷えた手羽先の方が記憶に大きく残っている。

そんなこんなしてると、焼きと揚げの餃子2種類がやってきた。

カタヤマヒロキの「食べロック」6回目

福岡名物の一口餃子

これもカリカリで、ヒョイ、ぽいっと何個でもいける餃子だった。可愛い奴をぽいぽい口に運ぶ。

特製ダレにゆず胡椒とラー油を入れて頂く。このタレも重要なポイント。

タレを付けなくてもしっかり美味しい餃子だが、べちょべちょにタレを付けて、ビールで流し込むと、そこに三途の川が見えた気がした。

 

「近くにあったら絶対通う」

 

このセリフを簡単に言う人は、きっと近くにあっても通わないだろうし、好きなものは遠くにあっても通うと思うので、あまり使わないようにしてる言葉だったのだが、思わず口から飛び出てしまった。

「ち、近くにあったら、オイラ、ゼッテエ通うな、エヘヘ。」

頬を赤らめて言うその様は、まるでかわいそうな子だ。

変な意地やプライドも真っさらにしてしまう、福岡の手羽先と餃子のパワー、参りました、へへえ。また、必ず来ます。

クッキングパパが次に訪れたのは「鉄板 好味」。

カタヤマヒロキの「食べロック」6回目

ここは以前連れて来てもらったのだが、まるで実家に帰って来たかのような暖かさがあり、お好み焼きはもちろん、ニラ玉が絶品だったのを覚えている。

ビジュアルがたまらない、ニラ玉だった。

カタヤマヒロキの「食べロック」6回目

漫画では、その後に「GEN×2」というライブバーへ行っている。

カタヤマヒロキの「食べロック」6回目

ここは今回はじめて訪れた。マスターの人柄が良く、格好いいライブバーだった。

ちなみに絵の後ろにいる方が恐らくマスター、漫画とよく似ていた。原作と同じくハイボールを頂いた。

この後、原作では角打ちのできる酒屋へ行き、地元のスーパーへ買い出しへ行く。この2つの店舗も今回は覗いてきたが、どちらも地元ならではの暖かさを感じた。

カタヤマヒロキの「食べロック」6回目

原作には描かれていなかったが、春吉にはまだまだ名店、迷店が沢山ある。知らないところも沢山あるだろう。

特に好きなのは、春吉へ行くたびに連れてってもらう「いずみ田」や、福岡ならではの麺の柔らかさが特徴の「弥太郎うどん」。

どちらも一口食べると「春吉へ帰って来た」と思える特別な味だ。

 

「次は、いつ、ここへ来ることができるだろう。」

 

ふと、そんな考えが頭をよぎった。

今回の旅は、春吉以外でも沢山食べに食べて、飲みに飲んだ。真面目な話は少しにして、バカな話や近況を話してガハガハ笑った。

 

旅の最後に小雨降る、春吉の夜を歩いた。

夏が終わり、冬の足音が聞こえる。

時は無情にも過ぎていく。

例え、何もしなくても、次の季節はやってくる。

クッキングパパの岩さんが、そこにいた。

 

「オレ、これで良いのかな?この先どうなるんだろう。なんだか、ときどき凄く自分が嫌になるんだ。ときどき凄く怖くなるんだ。」

「んな女々しいことばっか言って、またナルシストを気取ってるんだな、お前は!」

「うるさいな。しょうがないだろ、こんな性格なんだから……。岩さんはいいよな、いつも元気そうで。」

「ま、落ち込むときもあるさ。そんなときは元気の出るものを食うことだ!!
オレたちはな、うまいものを食うと、気分だけでも元気が出るものさ!!」

 

翌日、福岡空港にいた。

昨日までの雨が嘘みたいに晴れていた。

「意味のないことなんて一つもないさ」

クッキングパパが、そう笑った気がした。

 

口に入れた瞬間BGM
「エレファントカシマシ/孤独な旅人」

 

※写真:カタヤマヒロキ私物/引用: 講談社「クッキングパパ」

エレファントカシマシ「孤独な旅人」