カタヤマヒロキが「食」と「ロック」を綴る異色コラム

カタヤマヒロキの「食べロック」

2018/11/9

第7回:「毛深いロックスター」

先日、27歳になった。27歳というのはミュージシャン、特にロックミュージシャンにとって特別な年齢だ。

というのも「27CLUB」という言葉があり、27歳で死亡したミュージシャンが多いのだ。

ジム・モリソン、ブライアン・ジョーンズ、ジミ・ヘンドリックス、ジャニス・ジョプリン、カート・コバーン、エイミー・ワインハウス……。

数年前から頭の片隅にあった27歳になってしまった。

この27歳という年齢も365日で過ぎ去っていくのだが、妙に感慨深い年齢だった。

「今まで自分は何かを残せていたのだろうか」
「いいや、何一つ成し遂げてないじゃないか」

そんな自問自答を繰り返す日々。

まだ死ぬ訳にはいかない。

生きろ、おれ。

そして、エネルギーを消費するのだ。

その為に、カロリーを摂取するのだ。

そうだ、こんな時には、旨いものを食べよう。

27歳になって、真っ先に食べたいものを考えてみた。

エネルギーと言えば、肉だ。

好きな食べ物は?と聞かれたら、やっぱり肉と答えている。

単刀直入に肉が好きだ。

肉にしよう。

ステーキ、焼肉、生肉…ジンギスカンというウルトラCな裏技もある。

いや、寿司も良いな。

最近食べていなかった。

やっぱり寿司だ。

寿司はいつだって食べたい。

寿司は幸せだ。

寿司にしよう。

いや、待てよ。

………………

はてさて、どうしたものだろう。

こういう風に何かピタリと来ない時は日常でも多々ある。こんな時はじっくり自分と向き合うしかないのだ。

創作だって、なんだってそうだ。

じっくりと考えて、悩んでピタリとパズルのようにピースがはまった時が気持ちが良いのだ。多幸感に溢れるのだ。

落ち着いて考えようとしたその瞬間、ピリッと頭に赤い光が射した。

完全にパズルの最後のピースがスローモーションでゆっくりとはまっていった。

奴の存在を忘れていた。

……カニだ。

カニの存在を忘れていた。脳内にカニが一匹、カニが二匹、カニが三匹……と横歩きを始めた。

カニなんて、しばらくちゃんと食べていない。

滅多に食べる機会のない、カニ。

特別なときしか食べられない、カニ。

まるでロックスターのような、カニ。

キラキラと輝いていて、特別な存在だ。

カニカマや、寿司のカニではない。缶詰めのカニでもない。居酒屋にある、カニ味噌甲羅焼きでもない。

ぷりんとした肉厚の身、筋肉質な繊維、少量でも味の濃厚な、とろける旨さの、あの「カニ」をダイナミックに食べたいのだ。

そこからカニを食べるまでの記憶は曖昧だ。

景色がまるでモノクロのようにくすんでいた。気が付いたらカニ専門店にいた。

カタヤマヒロキの食べロック 第7回:「毛深いロックスター」

カタヤマヒロキの食べロック 第7回:「毛深いロックスター」先付けは大根のカニあんかけとほたるいか

飲み物は、瓶ビールのヱビス。
普段はサッポロかアサヒが多いのだが、久し振りに飲んだヱビスも、もちろん旨かった。

カタヤマヒロキの食べロック 第7回:「毛深いロックスター」カニといくらのサラダ

カタヤマヒロキの食べロック 第7回:「毛深いロックスター」刺身二点盛り

彼らも素晴らしかったのだが、焦らしに焦らされて絶頂寸前。早く、あのロックスターに会いたい。

客電が一斉に落ちて、観客の声が聞こえる。
SEが鳴り、そしてとうとう登場した。

カタヤマヒロキの食べロック 第7回:「毛深いロックスター」毛蟹の姿盛り

興奮した気持ちを押さえて、丁寧に身を殻から取り、まずは何も付けずに口へ運ぶ。

『タンッ!』

その瞬間、The Doorsの「ハートに火をつけて」の始まりで印象的なスネアドラム『タンッ!』という音が鳴り響いた。

そしてテーテレテーテーとイントロが流れ始めた。

モノクロのようにくすんだ、まるで、まぼろしの世界が、一瞬にして光を取り戻したのだ。

きっと、口に入れた瞬間に、あのタンッ!が鳴ることは、しばらくないだろう。

それからカニ酢につけたり、塩をつけたりとむしゃむしゃとカニを頬張った。

写真に写っているカニ味噌も重要だった。

少し辛くて苦くて、濃厚で、ねっとりとクリーミーな甘さが口に溢れた。

日本酒は詳しくないのだが、酔鯨を選んでカニ味噌と合わせて、ちびりちびりとやった。

カタヤマヒロキの食べロック 第7回:「毛深いロックスター」カニの天婦羅

〆のカニ雑炊

幸せな気持ちで店を出た。

外にはハロウィンシーズンという事もあり、仮装して騒ぐ人々がいたが、全く憤りを感じなかった。

カニは間違いなく、ロックスターだった。
毛深いロックスターだった。

「今まで自分は何かを残せていたのだろうか」
「いいや、何一つ成し遂げてないじゃないか」

だからこそ、まだ生きていられる。

ハートについた火はまだメラメラと燃えさかっていた。

 

The Doors – Light My Fire