カタヤマヒロキの「食べロック」
第12回:「うどんの中の世界は確かに最高だった」
かのパンクロッカー町田康は「うどんのなかの世界」という曲でこう歌った。
「うどんのなか いれてみればいい。
鶏肉なんかもいれてみればいい。」
その後には、こう続く。
「悲しみなんかもいれてみればいい。
~中略~
政治家なんかもいれてみればいい。」
町田康節全開の狂気に溢れている歌詞だ。
「名詞を次々と変更していく」
という魅力的な手法であり、初めは鶏肉や長葱などを入れてみればいい、と普通のことを羅列していくのだが、後半に進むにつれ混沌としていく。
苦しみ、悲しみといった感情、そして太もも、陰茎など町田康なりの洒落を交えて、爆弾、政治家といった禍々しい雰囲気になり、最後は君、と締めている。
ただただ散らかす訳ではなく、妙に芯を付いており、更に洒落も散りばめていく非常に完成度の高い歌詞だと思う。
巧妙な仕掛けはまだまだ沢山散りばめられており、読めば読むほどその世界にズブズブと引き込まれていく。
そして最終的には、
「そもそも、“うどんのなかに入れてみればいい”……っていうテーマが一番ぶっとんでいる!!」
と凡才は気付くのである。
「うどん」というキーワードは、
他にもロック界隈で目にした。
それは十代の頃……。
地元のCDショップをぶらぶらしていると、このようなポップが目に入ってきた。
「うどんサイケの帝王!うどんのようなサイケ感を求めて……10年!あやうくうどん屋になるところだった……オシリペンペンズ!」
なんじゃこりゃあ、と少年は思い、その妙な違和感をスルーすることができずにCDを購入。
ドキドキしながら家に帰って聴くと、更に混沌とした違和感でいっぱいになった。
「なんかスゲー……」
なんかスゲー音楽を聴くと、なんとなく自分もなんかスゲー存在だと思えた。
うどんサイケの帝王! とポップに書いてあったので、うどんサイケとはなんじゃらと調べるも、独自のジャンルだった。ズコーッ、そりゃそうだ。
「うどん」
その少し間が抜けたような言葉の響きや、麺類の中でもラーメンより派手さに欠け、蕎麦より気軽な感じがする、その独自の立ち位置。
そんな「うどん」はロックとの相性が、意外にもかなり良いと証明された食べもので間違いないだろう。
今回は、以前ツアーで訪れた「うどん県」香川県高松市でのうどん食べ歩きを思い出して、書いてみようと思う。
高松に入り、まず連れて行ってもらったのが「本格手打ち もり家」。
いつもは行列らしいが、時間帯かスムーズに入店できた。
メニューで一番大きく載っている「かき揚げおろしうどん」を注文。かき揚げが半端じゃなく大きく、麺も艶々としている。硬すぎずちょうど良い茹で加減でとても美味しい。
正直これ以上のうどんはないのじゃないかというくらい満足だった。
かき揚げがかなりのボリュームで満腹だったが、その後に夜の街へ、更なるうどんを求めて繰り出した。
次は下調べ無しで、深夜までやってるという「うどん職人 さぬき麺之介」へ。
「……らっしゃい。」
コワモテな店主がうどん釜と向き合っていた。
ビールをちびちび待っていると、登場。
油が透きとおったツユの肉うどん。
ずぞっ、とひと口食べたら想像を遥かに超える味だった。満腹を忘れる旨さ。
飲める本格派うどん店、恐るべし。
うどん県の実力に打ちのめされて、その日は就寝。
翌日、一発目は人気店「風月」へ。
少しだけ並んで名物のかしわ天おろしを注文。
昨日ほどの衝撃は感じず。
もしかしたら旨いうどんに慣れてきてしまってるのかと恐怖感を抱く。
その後はライブハウス近くにあった「さか枝うどん」でかけうどん。
セルフで気軽につるつるつると啜る。
そして、翌日。最後のうどん。
帰りがけに見かけた小さなうどん屋で釜揚げを食べて高松を後にした。
確実に旨かった。
うどんうどんうどん……
うどんにまみれた2日間を過ごし、普段は主役級の食べものとしては認識をしていなかったが、いつだって主役になれる存在だということに気付いた。
きっと、こうだ。
その目立たない立場からでも主役になれる、
いつだって逆転してやるぜ、
そういった反逆精神を感じられる所が、うどんとロックの相性の良さを裏付けているのだ。
と、思ったり、
思わなかったり。
LIVE INFO
- 2019年4月5日(金)渋谷VUENOS
Lüstzöe presents
「Sympathy for the Devil No.1」 - 出演:Lüstzöe(ラストゾウイ)/deadbites/RIS
DJ : KAZUKI (FAR★STAR) - チケット予約
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LOOPUS「AREA 22nd ANNIVERSARY~Evil God’s Cabaret~」
出演:LOOPUS、Lüstzöe、酢酸カーミン