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2019/9/26

ザ・ビートルズの『アビイ・ロード』50周年記念エディションをレビュー

ザ・ビートルズ『アビイ・ロード』

ザ・ビートルズがアルバム『アビイ・ロード』をリリースして今年で50年になる。それを記念して50周年記念エディションが9月27日にリリースされる。『アビイ・ロード』はビートルズの最後のレコーディング作品。『アビイ・ロード』のあとに『レット・イット・ビー』がリリースされたが、『レット・イット・ビー』は『アビイ・ロード』をレコーディングする前のセッションで構成されている。実際には『アビイ・ロード』発表後、ジョン・レノンを除く3人は『レット・イット・ビー』の前身となる作品『ゲット・バック』のために2曲のレコーディングに臨んでいるのだが、これを説明し始めると大変なので、まぁここはそういうことにしておく。そんでもって、なんだかんだお蔵入りになった『ゲット・バック』をフィル・スペクターが再構築して出来上がったのが『レット・イット・ビー』。よって、「ビートルズのラスト・アルバムは『アビイ・ロード』」ということになっている。

今回の作品は『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド 』からつづく「50周年記念エディション」のシリーズの一環で、ビートルズのプロデューサー、ジョージ・マーティンの息子、ジャイルズ・マーティンが中心になってステレオ・リミックスを手がけた。ただ『アビイ・ロード』に関しては、他の作品と少しだけ状況がちがう。『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド 』と『ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム)』に関してはビートルズがミックスに立ち会ったのはモノラル・バージョンであり、ステレオは他人任せだった。だからステレオ・ミックスをやり直す意味があった。ところが『アビイ・ロード』に関しては、時代の流れもあって、モノラル・ミックスは存在していない。これまでとちがい、ステレオ・ミックスはビートルズ立ち会いのもとに行われた。したがってぼくのようなオールド・ファンは『アビイ・ロード』のリミックスをどう受け取ればいいのか困惑していると思う。

ぼくはビートルズのベストアルバムを選べといわれたらファースト・アルバムの『プリーズ・プリーズ・ミー』か『アビイ・ロード』で迷うというくらいに、この作品が好きだ。今も夜中に43年前に購入した『アビイ・ロード』をターンテーブルに載せている。とくにB面を構成しているふたつのメドレーは圧巻。そのなかでも「ゴールデン・スランバーズ」からはじまる最後のメドレーは、今でも聴いていて泣きそうになる。このメドレーは現在、ポール・マッカートニーのライブでもアンコールの最後に演奏されている。これがどう変わったかというと、前2作同様、ひとつひとつの楽器がよく聴こえ、まとまりがよく、ビートルズのマニアではなくても、すんなりと『アビイ・ロード』の世界に入れるようになっている。その代わり、オリジナルのいい意味でのヘンテコさ、尖ったイメージはなくなっている。そこが正直いって物足りないのだけど、それは単に中学生の頃から現在までオリジナル盤を聴き続けてきたからであり、そういう事情を除外して、「どのバージョンがいい音か答えなさい」と問われれば、オリジナル盤 < 2009年盤 < 50周年記念盤ということになる。合理的な脳みそを働かせれば今回の『アビイ・ロード』がベスト・オブ・ベストだ。90年代のブリット・ポップ以降に音楽ファンになった人にとっても今回の『アビイ・ロード』を聴けば、どうしてオアシスがビートルズに傾倒していたかがわかると思う。ビートルズの入門編のようなミックスといっていい。

では、オールド・ファンはどう受け止めればいいのか? その答えはスーパー・デラックス・エディションに隠されている。今回のリミックスの本当の目玉は、実は、スーパー・デラックス・エディションに収録されている「DOLBY ATMOS」バージョンなのだ。ジャイルズ・マーティンが今回のリミックスをベースに、DOLBY ATMOS用にさらにリミックスした『アビイ・ロード』は「まったく新しいビートルズ体験」といっていい。まさかこんなものがリリースから半世紀後に現れるなんて想像していなかった。DOLBY ATMOSは主に映画で使用されているサウンド・システムだ。通常のシステム+天井に配置された6個のスピーカーによって、スピーカーがないところからも音が出てくる。音が劇場の空間を縦横無尽に駆け巡るのはそのためだ。5.1chという言葉をよく耳にするが、今回、ぼくがドルビー・ジャパンの本社で体験したのは13.1chということになるそうだ。

試聴会はまず今回のリミックスを一通り聴いてからATMOSバージョンを聴くという趣向で行われた。『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド 』と『ホワイト・アルバム』でジャイルズの手の内はだいたいわかっている。だから参加者も『アビイ・ロード』がどんな感じに仕上がってくるのかだいたい予想をしていた。「なるほど。今回も楽器のひとつひとつがよく聴こえてきますね」という会話が聞こえてきそうだった。休憩を挟み、ATMOS版の視聴に入った。「カム・トゥゲザー」の最初の音が鳴ったとき、その場にいた全員が驚きの表情に変わった。「何、これ? 今、アビイ・ロード・スタジオにいて、目の前でビートルズが演奏しているよね?」。そういう錯覚に陥った。音を聴くというよりも音に包まれるという感覚。ビートルズが録音したすべての楽器の音が埋もれることなく身体のなかに入り込んでくる。映画に例えると4DXのようなものだろうか。

この音に包まれる感覚やあたかも演者が目の前にいて演奏している感覚を味わったのは、実は、これが初めてではない。蓄音機を聴いたときの感覚とひじょうに近い。蓄音機もまるで目の前でエルヴィス・プレスリーが歌っているような錯覚に陥る。音楽再生の歴史は技術革新とともに音が退化していっている。蓄音機 > レコード > CD > デジタル配信というように。DOLBY ATMOSという最先端の技術でデジタルは蓄音機に追いついたのだ。とはいえ、ビートルズがタイムスリップしたとしても、蓄音機の時代に『アビイ・ロード』を録音することは不可能だった、それを考えると、ますますDOLBY ATMOS版『アビイ・ロード』の存在に意味が出てくる(DOLBY ATMOS版は『ホワイト・アルバム』50周年記念スーパー・デラックス・エディションにも収録されている)。ジャイルズ・マーティンはこれをやりたかったのではないのだろうか。当時のビートルズのレコーディングを記録した資料を読んでいると、ビートルズの才能に加え、エンジニアやプロデューサーのアイディアによって数々の名作が生み出された。まさにスタジオ・ワークの賜物だ。50年前のビートルズの歌と演奏を、あらたなスタジオ・ワークによって今まで体験したことがない『アビイ・ロード』として蘇らせるというのは、これはこれでビートルズらしい物語だ。『アビイ・ロード』のリミックスに関して、ぼくよりもさらにオールドなファン(リアル・タイマー)からは、少なからず反発があるだろう。それはそれでしょうがないことだ。ただ、そういう人にこそ、このDOLBY ATMOSバージョンを聴かせてあげたい。きっと「生きていてよかった」と思うにちがいない。(森内淳/DONUT)

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※全作品とも2019年9月27日(金)リリース
※各作品の収録内容については公式サイトまで:https://www.universal-music.co.jp/the-beatles/
※税込み価格は消費税8%の場合

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