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ブルース・スプリングスティーン&E ストリート・バンドの創成期から『ボーン・イン・ザ・U.S.A.』のツアーまでを綴った写真集が登場
ブルース・スプリングスティーンは3度来日している。1度目は『ボーン・イン・ザ・U.S.A.』のツアー(東京・大阪・京都/1985年)。2度目がアムネスティ主催のフェス(東京ドーム/1988年)。3度目がアコースティックセットでの来日だ(東京国際フォーラム/1997年)。最初の来日公演のときは言うまでもなく凄まじい盛り上がりだった。東京では代々木第一体育館で5日間行われた。そのうちの3回見に行った。毎回、違うセットリストで、たしか2日目の公演はキグルミが登場して寸劇をやった。「ザ・リバー」をやる前に子供の頃の思い出について語るシーンも忘れられない。3時間以上にわたってつづく濃密なロックンロール・ショーを十二分に堪能した。今まで見たライブのなかでもベスト5に入る。日本のミュージシャンに対する影響も絶大で、スプリングスティーン離日後、多くのミュージシャンがシャツの袖を切った衣装を身に着け、ギターを抱えてジャンプした。ニルヴァーナが登場したあと、いろんなバンドがニルヴァーナになったり、オアシスが登場したあと、いろんなバンドがオアシスになったりたのと同じ現象だ。ブルース・スプリングスティーンは今も精力的にツアーをやっている。数年前、ぼくの友人も海外にライブを見に行って、今でもすごいパフォーマンスだったという。死ぬまでにもう一度見たいミュージシャンのひとりだ。
そんなロックンロール・レジェンド、ブルース・スプリングスティーンの写真集『青春の叫び ブルース・スプリングスティーン写真集 1973-1986』がリリースされた。この写真集には “『アズベリー・パークからの挨拶』から『明日なき暴走』『ボーン・イン・ザ・U.S.A.』まで”というサブタイトルがついているように、1973年から1986年までの写真が集められている。スプリングスティーンの出身地ニュー・ジャージー州の海岸沿いの街アズベリー・パークで過ごしたバンド創成期からワールド・ツアーを行うようになるまでの、最も輝かしくて、勢いがあって、上昇気流に乗っている時代の写真ばかりが掲載されている。この貴重な写真を撮ったのはデイヴィッド・ガー(1922年〜2008年没)。最初に目に飛び込むのは、まだ売れていない頃のブルース・スプリングスティーンが彼を支える「E ストリート・バンド」と一緒に撮った集合写真だ。このE ストリート・バンドとの集合写真は何回か出てくるので、比較してみると面白い。彼らがブレイクしていく様子が集合写真からもわかる。レコード会社はスプリングスティーンをボブ・ディランの再来という位置づけでシンガーソングライターとして売り出そうとした。ところが、スプリングスティーンにその気はなく、アレンジはおとなしいものの、ファースト・アルバム『アズベリー・パークからの挨拶』(1973年リリース)の冒頭からロックンロールが展開される。ちなみにこの時期で一番シンガーソングライター寄りのアルバムは自宅録音による『ネブラスカ』(1982年リリース)だ。この写真集のE ストリート・バンドと一緒に撮った写真から醸し出される匂いもあきらかにロックンロール・バンドのものだ。1973年のライブの模様を写した写真が1枚だけ掲載されているが、シンガーソングライターといった佇まいではない。1974年のニューヨーク・リンカーン・センターでのライブ写真に至っては、3時間半のロックンロール・ショーを全世界で展開する全盛期の写真と寸分違わない。
デイヴィッド・ガーはセカンド・アルバム『青春の叫び』(1974年リリース)のジャケット写真を撮影している。そのときのアウトテイクがこの写真集の表紙に使われている。このセカンド・アルバムまではレコード会社の意向とスプリングスティーンのやりたいことが噛み合わず、まだブレイクに至っていない。それでもガーはスプリングスティーンを撮りつづけている。彼もまたスプリングスティーンにロックンロールの未来を感じた人たちのひとりだったのだろう。1975年、スプリングスティーンは『明日なき暴走』をリリースする。音楽史に燦然と輝くロックンロールの名盤だ。「私はロックンロールの未来を観た。その名はブルース・スプリングスティーン」というコラムをローリング・ストーン誌に書いたジョン・ランダウをプロデューサーに招き入れて制作された。スプリングスティーンが目指したロックンロールを誰に気遣うこともなく表現した作品に仕上がった。この作品でスプリングスティーンは大ブレイク。初めてUSチャートのトップ10入りを果たす。この写真集にはアルバム・リリース直前のボトム・ラインでのライブ写真が収録されている。充実のレコーディングを終えたスプリングスティーンとE ストリート・バンドの熱気が伝わってくる。その後の写真で、彼らの雰囲気が一気に変わる。表情が柔らかくなる。ライブ写真からは余裕すら感じる。1984年の『ボーン・イン・ザ・U.S.A.』ツアーに至っては、世界をロックンロールで制覇した男の顔になっている。この写真集には、ブルース・スプリングスティーンとE ストリート・バンドによるロックンロールのサクセス・ストーリーが詰まっている。2000部限定の貴重な写真集だ。(森内淳/DONUT)
『青春の叫び ブルース・スプリングスティーン写真集 1973-1986』
[twoColumn leftimg=”/wp-content/uploads/2018/03/Springsteen_cover_obi_sq.png” righthtml=’著者:デイヴィッド・ガー
価格・品番:3,700円+税 ISBN:978-4-909087-10-2
仕様:A4判 192ページ ハードカバー
出版社:SPACE SHOWER BOOKS’ ]