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2018/3/7

森内淳の2018年1月 ライブ日記(前編)

毎月たくさんのライブを見るので、記録を残しておかないと、どういうライブだったかを忘れてしまう。そこでインスタとFacebookで短いレビューを書き始めたのだが、もったいないので、加筆・修正した文章をRock isで発表することにした。正式なライブレポートではないので写真は掲載しないし、見たライブ全部書くわけでもない。何だか中途半端だが、レビューの体裁だけは整える。日記を覗く感覚で読んでもらえれば、と思う。出来る限り毎月更新します。

1月5日(金)GLIM SPANKY 新木場コースト

今年最初のライブはGLIM SPANKYのライブ。本来なら6日が取材日。しかし翌日はhotspringの復活ライブ。なので、5日に見せてもらう。6日はソールドアウト。5日はソールドアウトに至っていないと聞いた。ところがこの日も会場は超満員だった。ほぼ定刻にライブはスタート。サイケデリックに彩られた新作『BIZARRE CARNIVAL』を中心にセットリストを構成。GLIM SPANKYは、ストレートにシンプルに音を鳴らし、この日も60年代〜70年代の洋楽ロックの王道を突き進む。そこには「このスタイルで大衆にアクセスしてこそ意味がある」という信念が見え隠れしている。Rock isのインタビューでは「松尾レミが宙を舞う」という冗談めかした発言もあったが、当然、そんな演出はなく、ただただ真摯にロックを鳴らしていた。その姿がとても眩しいライブだった。

 

1月6日(土)hotspring 代官山UNIT

ボーカル・イノクチタカヒロの大怪我のために2017年夏以降の活動休止を余儀なくされたhotspring。その復活ライブが代官山UNITで行われた。イノクチは本当に大丈夫なのか? 久しぶりの演奏は上手くいくのか? そんなあまたの心配事をはねのけ、この日はhotspring史上ベストアクトだった。最初は緊張していたイノクチも、最後には晴れやかな表情を見せた。今までのライブにない余裕すら感じた。バンドのアンサンブルもばっちり。この日のために行った長期合宿の成果なのかもしれない。大一番のライブとなると、気合いを入れすぎてから回ることが多かったhotspringだが、この日は気負うことなく、ロックンロールの衝動を素直に表現していた。

 

1月9日(火)THE BOHEMIANS UFO CLUB

ボヘミアンズが12月に渋谷WWWでやった2マンツアーのファイナルはとてもいいライブだった。自分たちがつくってきたロックンロールをどうライブで見せればいいのかを熟知した巧さが光っていた。そのボヘミアンズがUFO CLUBのイベントに登場。UFO CLUBは小さなライブハウスだ。WWWは天井も高く、ホールのような雰囲気もあるが、UFO CLUBは正真正銘のライブハウス。この日のボヘミアンズは会場の規模やイベントの雰囲気にすかさずアジャストし、ロックンロールの衝動を全面に打ち出すライブをやった。その両方が間違いなくボヘミアンズであり、どちらか一方のライブを見ても、「今日のボヘミアンズのライブはよかった」という感想が得られると思う。日本にネオ・ロックンロールのシーンがあるとすれば、ボヘミアンズはその中心にいるバンドだ。

 

1月10日(水)Rock is LIVE 渋谷WWWX

Rock isとDONUTで開催したイベント。出演は浅井健一&THE INTERCHANGE KILLS、ドミコ、DOUBLE SIZE BEDROOM。自画自賛するわけではないが、新進気鋭の注目バンド、ドミコと元最終少女ひかさの但野正和の新バンドDOUBLE SIZE BEDROOM(この日が東京初お披露目)が並んでいるだけでも価値があるイベントだったと思う。明日のロックンロール・シーンを確実に先取りしている。その若いバンドを牽引するように、レジェンド・浅井健一&THE INTERCHANGE KILLSがトリに登場した。3バンドともそれぞれのまったくちがう個性のバンド。DOUBLE SIZE BEDROOMはスリーピースのバンドで、但野和正のエモーショナルな面を激しい演奏と歌で表現。グランジやオルタナのエモさを自分たちのスタイルに取り入れたパフォーマンスでお客さんを圧倒した。一転、ドミコのパフォーマンスはクールそのもの。ギター・ボーカルとドラムの2ピースバンド。MCもほとんどなく、淡々とカッコいいリフを繰り出す。いわゆるJ-ROCKの文脈にはない新しいバンドだ。浅井健一&THE INTERCHANGE KILLSは密度の濃いロックンロールをひたすらぶっ放し、貫禄を見せつけた。3つの異なるロックンロールの世界観、スタイルを楽しめたイベントだった。

 

1月13日(土)the pillows 高円寺HIGH

ピロウズ恒例のファンクラブイベント。他のバンドのファンクラブのイベントがどういうものかよくわからないが、ピロウズは、毎回、この一夜だけのイベントのためにセットリストを考え、フルセットのライブを披露する。今回はロックンロール・ナンバーを多めに選曲されていた。このままツアーに出てもおかしくはないような完成度だ。この1ステージのために選曲しリハーサルをやり披露するピロウズの情熱がすべてといっていい特別なライブだ。サービス精神というのも大きいと思うが、「自称ワーカホリックの山中さわお」が爆発したようなライブだ。このシリーズはお客さんとピロウズが一体となり熱を生み出すのが特徴。この日ばかりは「ピロウズのライブを見る」というよりも、「ピロウズとオーディエンスが生み出すロックンロール・ライブを見る」という感じになる。ステージも客席もステージというか、ちょっと他では見られないようなライブだ。

 

1月17日(水)THE 夏の魔物 ギターウルフ リンダ&マーヤ 渋谷WWW

成田大致率いるTHE 夏の魔物の主催イベント。ロックンロールとはサウンド・フォーマットのことをいうのではない。アティチュードだ。それを考えると、泉茉里と鏡るびいの2人のパフォーマンスがすごくいい。彼女たちの懸命さこそTHE 夏の魔物のロックンロールだと、ぼくは思っている。リンダ&マーヤは「楽曲を壊しながら楽曲を構築していく」という、まさに真の意味で「パンク」を体現したバンドだ。去年の暮れもライブを見せてもらったが、今一番過激なパンク・バンドだと思う。この日のハイライトはギターウルフ。ステージに客を呼び込みギターを弾かせるパフォーマンスには、THE 夏の魔物のアントーニオ本多が登場。2人のロックンロールのソウルがスパークし、さながら「セイジ対アントーニオ本多」のプロレスの試合を見ているようだった。成田大致は「夏の魔物」というフェスを毎年やっているが、さながらフェスの前哨戦のようなイベントだった(今年フェスが行われるかは未定)。

 

1月20日(土)中村一義 ZeppTokyo

中村一義、20周年シリーズのファイナルステージ。ここ数年、20周年を迎えるアーティストがたくさんいる。今から20年前はCDがめちゃくちゃ売れていた。音楽産業も活況で、おかげで面白いアーティストがデビューするチャンスを多く得た時代だ。中村一義もそのひとり。バンドが席巻する時代に宅録でレコーディングした音源でデビューを飾った。メロディとリリックのユニークな関係、後期ビートルズのような緻密な音作りなどなど、たったひとりで高度なことをやってのけた。彼が天才といわれた所以だ。その孤高の天才は、今、海賊という大所帯のバンドでライブをやっている。たったひとりの世界から、バンド・海賊へ。そのたたずまいは大きく変わったが、彼の歌、メロディ、サウンドは変わらない。サニーデイ・サービスとやったデビュー曲「犬と猫」、イベント最後に出演者全員でやった「キャノン・ボール」もしっかりとオーディエンスに届き、心を震わせていた。音楽は時間を超えることを証明したような夜だった。

 

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