平田ぱんだのロックンロールの話
第47回:毛皮のマリーズ『戦争をしよう』
ロックンロールの!ファーストアルバムだけを紹介し続けて早3年! 継続は力なり、果ては本にまでしてもらった、買ったか? そんなこの場所にも終わりが見えてきた、今回紹介するロックンロール・ファーストアルバムは、こいつだ!!!
『戦争をしよう』毛皮のマリーズ
この私のラスト青春ロックンロールバンドのファーストアルバムです。ああ、もう最後と言い切っていいだろう。もうこの先現れるとはとても思えない、青春にはいつだって終わりがある、だから尊い、過ぎ去ってからいつも気づく、それが青春ってやつだったはずだろう? それにしても、まさかラスト青春ロールバンド毛皮のマリーズのファーストアルバムの話にまで辿り着けるとはな。思えばここまでの道のりは遠かった。ありがたやありがたや、ありがたやでしかないやいやい。やっててよかったクモンシキじゃなくてロックンロールの話。ちなみ青春と名付けるからには、今回は極私的トークに終始させてもらう所存であるのでよろです。
私と毛皮のマリーズ。出会いはごくごくシンプルだったな。地元山形でロックイベントをやってたお兄さんが「こないだ東京から呼んだ毛皮のマリーズってバンドがなかなかゴキゲンだったから、絶対お前らみたいな奴らが好きなはずだから、是非このCDを聴きなさい」ってうちのギターのビートりょうがCDを貰ったのがはじまりだったはずだ。ほいで記憶が正しければ、お隣・宮城県仙台市の今は亡きZepp仙台でハイロウズがワンマンライブをやるから行こうってみんなでカーに乗っかって行った時、カーステレオで毛皮のマリーズを流したんだった気がする。
「む?!」って思ったのを覚えてるよ。「むむ?!」くらいまでいったかもしれないかな下手したら。「むむむ?!」まではいかなかったかな。当時は僕も20代前半で物凄い角度をつけて斜に構えてたからね。ちょっとやそっとじゃ「むむむ?!」はいかねえわなそりゃ。ほいで紆余曲折をそれほど経ずに普通に「あれ焼いて」ってビートりょうにCD-Rに焼いてもらったね。「CD-Rに焼く」ってもうほぼ死語だけどね。若い子はついてこれてるだろうか? 思えば短い栄華だったな、CD-Rで音楽鑑賞というライフスタイルは。「もうCD買わなくていいじゃん!基本レンタルでいいじゃん!」って思ったもんだが、まさかCDというもの自体がここまでいらなくなるとは……つってもそれももう10年以上も前の話か。じゃあそれくらい時代が変わっても特段おかしかねえわな。
んで、その時なぜかビートりょうの不手際でこのアルバムの曲順が逆で収録されて僕の元に届いたのね。だから最初、僕はずっと最後の曲から順で聴いてたんだよね、2006年のあの頃。いや、当然逆に収録されたCD-Rだってことはわかってたよ? でも最初、逆で聴いてたことには変わりないからさ。だからそれにのっとって、今回はこのアルバムの話はケツから逆曲順でやってくことにする。いいね?
1曲目! もとい12曲目!「BOYS」!
デヴィッド・ボウイの「ダイアモンドの犬」のフレーズパクリサウンド引用を基調とした、当時最大のマリーズ・アンセム。当時は大体、ライブの最後に演奏されていたような気がする。あくまでも気がする。こういうグラムロックな合唱アンセムが本当によく似合ってたよ、当時は。ほんとに。マリーズにっていうか志磨さんに。志磨さんって、このバンドのシンガーソングライターの志磨遼平さんのことね。92パーセントくらいこの人の魅力で成り立ってたんだわ、毛皮のマリーズって。でも残りの8パーセントがロックンロールにおいて時にビタクソ重要になってくるって話は前もしたか? まあその話はあとでいいや。
このナンバーが一番鮮烈に記憶に残ってるかな、初めて毛皮のマリーズを見た日の記憶のおもひでBGM的音楽としては。それは2007年の3月だかそんくらいの新宿の今は亡き「クラブ・アシッド」という場所での出来事だった。そこに至った経緯はこうだ。「うちのバンドのギターのビートりょうが毛皮のマリーズのファーストアルバムを聴いて嫉妬したかなんかして、昔のメンバーが誰でも書けるボヘミアンズブログで“毛皮のマリーズ死ね!”ってタイトルでそこそこの長文を書き散らした結果、それをみて面白がった僕の東京在住の知人が丁度今度新宿でイベントやるから、このブログの文を挑戦状として送りつけて、毛皮のマリーズとボヘミアンズをそこで戦わせたい!」とか言い出して、ほんとに送って、みたいな感じで実現したんだったはず。一行で書くとだけど。
ほいでそれが僕の所属バンドのボヘミアンズの上京後初の東京ファーストライブになったんだったな。まだベース星川ドントレットミーダウンとドラム千葉オライリーが入る前の話さ。でも、実はこのライブ、僕個人的には当時すごい迷惑だったんだよな。だって僕が書いたと思われてるんだもん、その挑戦状ブログ。「毛皮のマリーズ死ね」ってやつ。当時のボヘミアンズブログはメンバーが誰でも書ける仕様だったんだけど、やっぱどうしてもボーカルが書いてると思われちゃうんだよね。僕、CDを聴いた時点では別にそこまで毛皮のマリーズに対して特別なんにも思ってなかったから、はっきりいって温度差あったよね。がんばって一応のろうとはしてたけど。
何が嫌だって、もう当時の毛皮のマリーズはそこそこ信者がつき始めてる時期だったからさ。当日もそういう奴らから少なからず絡まれたのよ、僕だけが。マジクソうざかったわ。あん時のあいつらまだ元気? うざかったぞー。とにかく「俺じゃねえっつーの」って滅茶苦茶思ってた記憶がすごい。毛皮のマリーズなんてマイナーバンドどうでもいいよってね。まあでも結果、あの夜に、僕はどうしようもなく毛皮のマリーズ、というか志磨遼平に恋をすることになるんだ。そんなこと全く予想だにしてなかったぜ! 夢にも思っちゃいなかったってやつだ。少なくともCDを聴いた時点では。
その僕の知人主催のイベントはメインアクトがストリップ嬢というわけわかんないやつだったわけだが、その夜とにかくやられた。マジでやられた。マッジでやられたんだよ、僕は。その時、初めてみた毛皮のマリーズというか志磨遼平に! そこはライブハウスというか小さいクラブって感じでステージとかないようなとこだったんだけど、派手な照明なんかもちろんなかったと思う。でもさ、関係なかったさ、選ばれしものの姿がそこにあったんだからね! ロックンロール・スターってのはさ、別に高いステージの上にいたり、派手なスポットライトが当たってるからスターなんじゃないのよ。最初からなのよ、ロックンロール・スターってのは。最初からなのよ! スターは、最初から、僕たちが見上げ、高く拳をあげる指針であり、勝手に輝き散らす存在なのよ。どんなに暗い地下においても、きっとどこででも、それは変わりないのよ。ドッカン花火なのよ。雷ガガンガンなのよ! それをこの夜に知ったね、つーより思い知った。「これだ!」ってなった!
「僕たちの世代の忌野清志郎や甲本ヒロトになるべき人が今、目の前にいる!」って思った。ほんと、マジで心の底から。歌が上手いとか下手とか楽曲がどうだとか演奏がどうだとか、見た目や人種や人格やその他、一切関係なかった。「目撃した!」と思わせたら、もう勝ちだ。僕は負けた。負けまくった! すぐ心を志磨遼平の前に寝そべらせた! そしたらもうそっからはニコニコさ! そうニコニコだったんだ。だってすぐ目の前にロックンロール・スターがいるんだぜ? そしてグラムでパンクにブギってまわってるんだ。これ以上、他に何がある?
11曲目!「VELVET GOLD MAY」!
このままだと1冊の本になりそうなくらい思い出がいっぱいだから、唐突に曲を変えることにする。だがしかし。話す内容は何も変わらない!
これもデヴィッド・ボウイの曲タイトルをパロったグラムロック・ポップなナンバーだが、とにかく似合うアンド似合う! 志磨遼平にはグラムがとにかくとてもよく似合う! グラマラスが似合うということは歓迎すべきことだ。誰にでもできることではないからだ。やるやつ次第じゃ世間的にはアホの極みになる。それが所謂グラマラスってやつなんだ。それがあれほどまでに似合う志磨遼平はひたすらロールに愛されているって話がしたい。
00年代も半ばなご時世によ、時代錯誤甚だしい姿勢が似合いまくった時点で「ロール愛されている」というワードを用いなければならない。それは同業者や関係者、オーディエンスやら政治・経済界から、なんてチャチな方面からの愛ではない! もっととてつもない愛! そう志磨遼平、彼は確実に「ロックの神からロール愛されていた!!!」。そうとしか言いようがなかった、あれは。だが彼はのちにその寵愛を手放すことになるがね。誰もが欲しがるロックの神からのロール愛に背を向けるとは、なんたる不届き! これはもう殺されても文句は言えないな。だが殺されない! 殺す奴はいない! 何故ならば志磨遼平という人となりを目の前にして殺意を抱ける奴は頭がどうかしているからだ。志磨遼平を殺せる奴なんかこの世にはいない。少なくともかつては、いなかった。
だから僕は憎い。今、現在の志磨遼平がロックンロールをやらない世の中が! ああそうさ! 基本的に世の中が悪い! だって世が世なら志磨遼平はロックの王様のひとりになっていたはずなんだ! なのに、なのに、なんだ、なんなんだ、こんなもんはただ単にファックだ! ベリーベリーファックだ! 志磨遼平にロックンロールをやらせない、やらせることができないこんな世の中じゃ……っ! おっと、これ以上は言うまい。特にポイズンとは決して言うまい。次の曲へいくわい。
10曲目!「世界のトップ」!
せっかいのとっぷでぇぇぇぇぇー!!! せっかいのとっぷでぇぇぇぇぇー!!! せっかいのとっぷでぇぇぇぇぇー!!! せっかいのとっぷでぇぇぇぇぇー!!! これ、大好きだった。懐かしいな、楽しかったな。上京したての頃で金と時間と心の余裕がなかったから、マリーズのライブ、いうほど行ってないけど、行ける限りは行ってた気がするよ、ほんと。これでウェーイ! よいしょー!ってやってたよ。時には志磨さんの足を持って支えたりもしてたよ。思えばあれは最後の青春だったな。大好きだったな、毛皮のマリーズ。
自分も東京でバンドやり始めてたから、複雑な思いも時には交差もしたけれど、大好きなことには変わりなかったな。もうああいうことは絶対ないな。事実、ここ10年新しいバンドに胸を焦がしたことなんか一度もないし、バンドじゃなくても、ポップ・ミュージック自体に新しい感情が一切芽生えたことがない。話題は順調に過去に流れてく。ほんとにそうなるんだな。自分だけはならないと思ってた。でも仕方ないよな。それでもな、何がどうなろうとな、いい年こいていつまでも~ロックで、騒いでる奴だぁぁぁぁぁっ!!! そんな風に過ごしたい。世界のトップで。
9曲目!「ロリポップ」!
その名の通り最もキューティーなフィーリングをもつナンバー、と言えなくもない。ロックンロールは根本的にはタマキンを常備する男野郎のものだが、そこにキューティーなガールズのエキスをポチョリとすることで、より夢が鮮やかになることがある! その最大要因となるのがベースのヒロティ(栗本ヒロコ)さんなんだけど眠くなってきたから、また明日書きます。
んで、今から明日になりました。すんません続きを書きます。
僕は男女差別主義者なので、基本的にロックバンドに女がいるのは邪道だと思ってる。ボーカルならありだけどさ。男は男だけでバンド組んで「女がやるもんじゃねえ!」って言ってて欲しくて、女は女だけで組んで「男なんかには負けないわよ!」ってパワフルにやってて欲しい。そんな古い少年漫画みたいなノリをいつだって望んでるんだ。基本、頭が小学生めいてるんで、自分。
ロックって冠がつかなきゃ別になんでもいいんだけどさ、ロックと名がつくなら僕はうるさいぜ? まあなんにしても男ロックバンドに女のメンバーがいるなんて邪道さ。ちょっとやそっとじゃ認めないぜ。だが毛皮のマリーズは紛れもなくロックンロール・バンドだった。何故ならば志磨遼平がロックンロールだったからだ。毛皮のマリーズに女のメンバーがいるなんて邪道だ! マイナスポイントだ! とは一切ならない。毛皮のマリーズにおいては女性メンバーがいてもいい。何故ならば、女性のメンバーがいることで親しみ安さが段違いだからだ。なぜ親しみやすさが必要かと言ったら、昔の志磨さんは怖かったからだ。
メジャーデビュー後しか知らない人は知らないと思うけど、アンダーグラウンド・パンク・ロックンロール・ヒーロー時代の毛皮のマリーズの志磨さんは怖かった。ステージを降りてからの普段の志磨さんは今と変わらず、信じられないほどの人当たりの良さを見せる愛されキャラなのだが、ひとたびステージに上がりロックンロールし始めると、剥き出しの野生パンク獣ロールヒーロー誕生って感じの迫力で、今にもこっちがぶち殺されてしまうんじゃないかってくらいのグッとくるリアルだった。だからそれを中和させるためにヒロティさんの存在は必要だった。ヒロティさんは毛皮のマリーズの避難所だった。誰がなんと言おうとロックンロールにだって親しみやすさは必要なんだ。何故ならば金を稼がなければならないからだ。極論をいうと金を稼いでないロックンロール・バンドなんか全部ダサい。ロックンロール!って叫ぶのが様になる理由は、あれを一回叫ぶごとに懐に金が入るからだ。だから金を儲けてないロックバンドはどんなに曲がよかろうが、ルックスがよかろうが、全員カスだ。
ロックじゃないなら別に金を稼いでなくても全然いいけど、ロックンロール・バンドはだめだ。金稼いでなんぼだ。だからヒロティさんの存在によって、より門戸が開いたことは重要だった。毛皮のマリーズに金が入りやすくなったからだ。僕はずっと志磨さんには金を持って欲しかったんだ。僕にとって毛皮のマリーズはドリームそのものだったからだ。初めて貧乏なところからあがっていって金を掴むまでを間近でみることができた、唯一のロックンロール・バンドが毛皮のマリーズだった。
だから2011年に解散を決めた時はアホだと思った。まだ早いってって、もっと金を稼いでいるところをみせていてくれよって。ほいでからの志磨さんが始めたニューバンドのドレスコーズの面白くねえこと、面白くねえこと。ほれみろって思った。ドレスコーズは今は志磨さんのソロプロジェクトだけど初期は背が高くてロック然としてて、楽器もうまいメンバーを集めた、ほんと「真っ当なロックバンド」って感じのプロジェクトだった。でもつまんなかった。だってバンドが志磨さんを立てないんだもん。4人でひとつの究極! みたいなに憧れて始めたプロジェクトだからなんだろうけど、でもそんなもん、作為的にやるもんじゃないじゃん。自然発生的にそうなるからかっこいいんであって、ロマンチックなんじゃないか。案の定初期ドレスコーズはアルバム2枚で終了。仕方ない.。志磨遼平さん、あんたは特別なんだ。ロックの神にロール愛されてるのはあんただけなんだ。
その点、毛皮のマリーズはよかった。何故ならばいわば「ロックの神にロール愛されている男、志磨遼平に周りの友達が付き合ってるプロジェクト」だったからだ。演奏なんかさっぱりうまくなくてもいい。ただの地元・和歌山の友達かもしれない。でも、でもな、君が僕を知ってるぅぅぅっ!!!ってやつなんだよ。こいつといると面白いからなんとなく一緒にいるという究極! 大袈裟に言うならば友情パワー! あのキン肉マンの強さの秘密! 友情パワー! 尊い! あまりにも! 毛皮のマリーズは志磨さん以外のあの野心のなさっぷりがすごくよかったよね。ギターの西さんはどうだったか知らないけど、少なくともベースのヒロティさんとドラムの富士山(富士夫)さんには金をあら稼がんとする気概も、自身の表現の追求をせんとする迸りも、ほぼ感じなかったよね。ワンフォアオール、オールフォア志磨って感じでだけで繋がっている、あのデコボコな体制が唯一無二のロール感を生んでいたような気がしなくもないし、それであんなにうまくいったんだと思う。何故ならばかつて志磨遼平は最高の男だったからだ。全ては必然ロール、必然ロールだったのだ。
8曲目!「”FUJIYAMA-FLASH”」!
初期マリーズお得意のギンギンのバシバシガレージパンク・ナンバーなんだけど、中間で珍しく16のファンク展開があったりしてるから、多分ライブではやってなかったんじゃないかな、この曲は。やってたっけ? でも富士山さんが16のファンクビートを叩く姿があまり想像できない。富士山さんといったらドカドカうるさいだけの、僕の大好きな毛皮のマリーズ・サウンド・ドラマーのはずだからね。あれはマリーズ以外じゃ成り立たない、マリーズ限定の最高のビートだ。志磨さんも解散間際に、富士山さんがドラムをちょっとうまくなろうと努力しそうな気配をみせはじめてるのが嫌だって言ってた、志磨さんがパンクじゃない難しい曲を作ってきたら、それを叩けるように努力しようとするんじゃなくて、「俺を誰だと思ってる! 毛皮のマリーズだぞ! こんな難しい曲が叩けるか!」って言って欲しかったって。たしかにそれ言ったらめっちゃかっこいいわっていうか、大好きだわ。そんな感じだからこの曲はきっとライブではやってない、間違いない。
でもCDじゃドラム叩いてるでしょって? 馬鹿野郎! 富士山さんがCD音源なんかでドラムを叩いてるはずないだろ! いくら暴力ガレージパンク期の毛皮のマリーズと言えどもCD音源はきちっとせねばならないはずだからな。基本、志磨さんが自ら叩いているらしい、全て。確かそうだったはず。だからロックンロール・バンドの基本である一発どりなんか一切しないで、全部、完全別どり。なんかベースすらも志磨さんが弾いてることもあるとか言ってたような言ってなかったよーな。それって毛皮のマリーズの音源って言えるのかって話ではあるんだけど、毛皮のマリーズはいいのだ。他のバンドでは許されないことも毛皮のマリーズなら許された。何故ならば毛皮のマリーズだからだ。
「”FUJIYAMA-FLASH”」って曲名ついでにドラマーの富士山さんの話をするしかないんだけど、この人は毛皮のマリーズの完成のために、なくてはならなかったはずだね。音源でドラム叩いてなかろうが関係ない。初期毛皮のマリーズのライブのパワフルはこの人の力いっぱい叩くテクニカル要素一切なしの野生ドラムが不可欠だったからだ。あまりにもパワーのみで押すから、僕らは自動で爆上がりだった。ドラムはそんなに叩けないけど、最高のドラマーだったはずだ。ただただパンクだった。そしてコミカルだった。おまけにデブでアフロで飄々としてた。全然、音楽家じゃないところがよかった。元々お笑い芸人だったらしいし。
当時、マリーズはドラムがいなくなって活動できなくて困ってた。そこにギターの西さんのバイト先に面白い奴がいた。全くの音楽未経験者だけど試しにそいつにドラム叩かせてみたら面白いんじゃないかってテキトーなチョイスしたら、まさかの当たりくじだった。って話らしい。音楽的には全く素晴らしくないところが特によかったらしい。ロックンロールなんてもんは、結局は人間音楽、つまるところがノリでしかねえんだよな。ノリがよければいいんだよ。演奏がいくらうまくても面白くなかったら意味がねえ。重要なのはノリなんだよノリ。ロックンロールはビートだ。面白い人がノリで力任せにドラム叩いたら、もうパンクロックは瞬く間に産声をあげる。パンクロック、そうパンクロックなんだ! 本当に下手くそだし、ほぼわけわかんない状態なんだけど、これしかないって説得力の大爆発、そんな永遠に解けない謎。そんな真のパンクロックがかつての毛皮のマリーズにはあった!
7曲目!「アンプリファイヤー」!
音でっか! イギー・ポップやジョニー・サンダースに傾倒し、「東京のストゥージズ」とかいう売り出し文句を名付けられていた頃の、そんなモロなナンバー。でもモロっつっても、ストゥージズの800倍くらい音がデカイけどね。デカイっていうか、もうウルサイのレベル。がっつり増幅してます。当時、西さんのギターとかマジクソ音デカかったもんな。富士山さんもパワーでガンガンで音がクソでかいし。で、ほんとドッカンドッカンだったよ、常に。つーかロックンロール・バンドって現代じゃ音がでかくないと話にならないとこあるっちゃあるよね。だってみんな音デカイんだもん。ロックじゃなくて売れ線ポップバンドでもヘヴィメタルかよっつーくらい音がでかい。だから僕の所属バンドみたいなのは「ロックバンドのくせに音がちっさい」ってたまに言われることがあって、よくなんか損した気分になるよね。でも仕方ないよね。こちとら楽曲がいいから。でかい音で誤魔化すタイプのロック音楽は扱ってないんだ。音がデカくねえと成り立たないようなロックバンドにだけはなりたくない。でもデカイ音で誤魔化すっつーかデカイ音じゃないと機能しない音楽も実際この世にはある。そのデカイ音そのものがその曲の一部みたいなやつが。よーするにこの曲のことだね。なんだかんだで、やっぱ爆音はいいぜ。爆音はよぉぉぉぉっ!!! エレキギターをガンと鳴らして、ドンで全部だ!!! どうだ、まいったか!!!
6曲目!「YOUNG LOSER」!
デヴィッド・ボウイ作詞作曲で、モット・ザ・フープルが演奏歌唱した70年代初頭の英国のグラムロック・ブームを象徴する楽曲「全ての若き野郎ども」のフレーズをサンプリングしたグラムバラード楽曲。毛皮のマリーズは、基本、こんな風にフレーズパクリ引用の嵐なんだ。もう好きなやつ、なんのひねりもなくそのまんまやるということに対して、何ひとつ臆さない。そのふてぶてしいというか厚かましいというか、図太いハートというか、ただ単純に鈍感なだけなのか、それとも自分というものを逆に持ちすぎてるがゆえなのだろうか? こんなんよくやるなってとこまで余裕でやってしまうんだ、毛皮のマリーズ楽曲は。
僕なんか、最初コミックバンド的な人たちなんだと思ってたもん、マジでライブ見るまで。ふざけてる人たちってことは間違いなかったけど、でも普通にガチンコのバンドだったっていうか、さっきも書いたけど、死ぬほどかっこよかった。ベスト5レベルで。 大体にしてこういうのって他のザコくんバンドがやっても絶対サマにならないからな。ロックの神にロール愛されている男、志磨遼平を中心としてやるからオールライトなんだ。志磨遼平はほんと全てを許される星のs下に生まれてきてるからな。絶対、俺だったら許されねえわってことも全部通る。てか、むしろプラスに受け取られるみたいなところある気がする。
この許される率の高さに限って話すなら、志磨さんはマジで僕の人生で出会った人の中でマックスでトップ。なんなの、あの人当たりのよさ。人当たり大王じゃん。マジ卑怯くせえわ。しかも別に性格もよくないし、なんなら悪いくらいなんじゃないかってくらいだし。でもいい人なんだよ。嫌いになれないというか、むしろこっちがこの人に嫌われたくないって思っちゃうくらいみたいな。僕が決してなれない「いい人」に自然となっちゃってるんだよ。それも性格が悪いまんまで! 媚もせず! 自分のまんまで! マジ卑怯くせー。僕、自分大好きだからあんま人のこと羨まないんだけど、人生で唯一志磨さんだけは羨ましいって思ったことがあるよ。
結局、あれだな、ロックンロールってのは人となりなんだよ。人間音楽だからね。人となりが関係ないんだったら、オベンキョー音楽でいいわけなんだからさ。僕の人生でナンバーワン人間は甲本ヒロトだけど、実際、関わったことがある人の中で話すなら、今んとこ志磨さんがナンバーワンかもしんまい。僕が女の子だったらどうにかして彼女になりたがったはずさ。当時、僕のちんちんが何かの拍子でとれていたら、もしかしたらそれにチャレンジしていたかもわからない。いや、そんなことはありえない! このちんちんを、手放す気は毛頭ないんだ! ちんちん最高! 自分のちんちん愛してる! 超舐めたい! 自分のちんちん舐めるためにヨガ習おうかなって思ったことは人生で一度や二度じゃない! ちんちん! 君がいてくれてよかった! おっと、何を書いているんだ、僕は。たしかに自分のちんちんは舐めたいが、それはここで書くことじゃないな。わきまえろ! だからダメなんだ、お前は。
5曲目 !「(MY JOHNNY) SUE」
インスト名義の歌物ナンバーです。これはアコーステックな感じで進行していくためにギンギンにエフェクトがかかってない状態の志磨さんの歌唱が聴けますな、このアルバムで唯一。 これを聴くと、やっぱ別に声、変わってないよね。いやさ、毛皮のマリーズがメジャーデビューして全然ギンギン・インディーガレージじゃない整理整頓されたメジャーロック・サウンドで志磨さんの声を聴いたらさ、「こんな声だったっけ?」って、みんななったじゃん? 実際、巷でも変な声、変な声、言われまくってて、最初は「いやい、や志磨さんの声はむしろかっこいいっつーの。パンクロックと相性抜群だっつーの」って思って、メジャーの1枚目聴いたら「あれ?」ってなったのを覚えてるわ。「ほんとだ」って。
マジでメジャーなサウンドと相性が悪いよね、志磨さんの声。インディー時代のギンギンに汚らしいガレージパンク・サウンドだとあんなに映えるのに。いや、つーよりも初期の頃は歌い方自体がジョニー・ロットンとかイギー・ポップとかのパンク歌唱のオマージュやショートディレイとかかけまくりーのエルヴィス・プレスリーみたいな歌唱をやったりして、本来の超特徴的な声の本質がわかりづらかったってのもあるかもしんまい。でもほんといいんだか悪いんだかわからんな、こういう事例は。ロックンロール的には一発で誰の声ってわかるって超重要なことだから、いいことではあるんだ。あの忌野清志郎だって変な声じゃん。
気持ちの良い心地のいい爽やかな風のマイナスイオンアルファ派声なんてロックンロール的にはマイナスもマイナス、最悪ボイスでしかないんだからさ。だから志磨さんがまたギンギンのガレージパンク・ロックンロールをやる気になる世の中になったらいいな、と思うよ。もう全然それを待ってはいないけど。つーか絶対やんないと思うけど。ロックンロール黄金時代なんか、この先来るとは思えないし。もう最近の志磨さんのやつはあんま好きくないから、新しいの出たらなんとなくさらっとどんな感じかくらいでしか聴いてないんだけど。もういっそのこと一回ボーカルすらもゲストミュージシャンにしてアルバム作ったらいいなってと思ったりもするよ。そしたら声と音楽があってねえってとこから一回抜け出せるし、ドレスコーズというプロジェクトの幅も広がる。とかテキトーなこと書いて次の曲へ行こう。
4曲目 !「或るGIRLの死」!
いい曲っす。好きっす。こういうのあるから毛皮のマリーズは信用できたっす。爆音パンクでギンギンギンなんて、ある種の気合いとデカい音さえあれば、誰でもできますからね。ビートルズの「フォー・ノー・ワン」みたいな小品なんだけど、これ以上ないっていうメロディの残り香を見せる、ある種の究極のナンバーを作りたいって二回くらい志磨さんは言ってるのをみたことがあるけど、これもそれを目指した系楽曲でしょう、きっと。残念ながら、こういうのはライブではやらないんですけどね。別にライブでは求めてはなかったけれども。
3曲目!「ロマンチック」!
「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」のパロディロールでグイグイ攻めてくるハッピーナンバーだ。基本スリーコードのワッショイ楽曲なんだけど、真ん中あたりでちょっとメロウにひと展開つける当時のマリーズの常套手段ナンバーでもある。いーっチマンねーん!って西さん(越川和磨)が叫ぶのを一緒にやんの楽しかったおもひで。
ちなみ当たり前のように毛皮のマリーズのギターの人のことを西さん西さんって呼び方で書いてるけど、元々それは西アメリカって芸名だった瞬間が一瞬だけあって、そのせいで周りが全員それで呼ぶようになって、完全に定着してしまったからだそうです。こんな意味不明なアダ名が広く浸透し続けている例は現実で西さん以外みたことないです、僕、多分。
2曲目!「BORN TO MEET YOU」!
これもアルバム冒頭のストーンズ系グラム70sハードロールナンバー。今回これを書くために10年ぶりくらいに歌詞カードをみたけど、衝撃的なほど、何言ってっかわかってなかったな、自分。ってことを再確認したわ。そうなんだよ、ほんと初期マリーズナンバーって何を言ってっかわかんないんだよ。基本的に英語と日本語のブレンド歌詞みたいな感じなんだけど、憧れの洋楽ロックのそのまんまを追求するために、日本語部分もわざと英語っぽい発音で何言ってっかわかんなくしてるから、歌詞カードなしじゃほぼ聴き取り不可。今初めてこれの歌詞を知ったかもしんまいってくらいわかんねかったわ。そーえば、僕、このCDを買った理由って歌詞カードのためだったもんなあ。東高円寺のU.F.O. CLUBでさ。僕、普段、バンドの稼ぎの生命線たる物販グッズとかほぼ買わないダメなファン1号なんだけど、唯一買ったのがこのファーストアルバム。当時はまだ毛皮のマリーズもライブが終わったら、その辺をウロウロしてたから、サインちょーだいって気軽に言えたけど、いちいちライブ会場にCDなんか持ってくわけないから、いまだに僕のこのファーストアルバムのサインは志磨さんのとヒロティさんのふたり分しかない。西さんはともかく富士山さんに今後会うことあるんだろうか? サインのコンプはなかなか難しそうだ。昔、対バンの時とかにいくらでも頼めたはずなのに、なぜそれをしなかったのかは永遠の謎だ。小さなプライドが邪魔をしたのだろうか? もう10年以上前の話だからわすれてしまったわい。
んで、話を戻すと、そんな感じで、何言ってっかさっぱり聴き取れない歌詞歌唱も初期毛皮の特徴ですけど、それが謎めきといかがわしさが増す要素のひとつにもなってて、かっこよくてよかった説もある。読んでみると、歌詞の内容も、基本、全能感ムンムンなのもポイント高い。だからぶっちゃけサードアルバムの『Gloomy』はあんまし好みじゃなかった、当時。つーか、その直前に出したシングル「ビューティフル」で決定的に向かう方向が完全に変わっちゃったけど。だから「ビューティフル」は当時、めっちゃ嫌いだったね。あそこからファン層も明らかに変わったし。人気が出るきっかけになったと言えなくもないけど。なんつーか、毛皮のマリーズがアンダーグラウンド・ヒーローじゃなくなってしまったんだ。かっこよくなくなった、あぶなくなくなった。僕はアンダーグラウンド・ヒーローだった時の毛皮のマリーズが好きだったから、残念に感じたおもひで。
まあ仕方ないよね。愛されてるのに攻撃的になる奴なんかいねえよ。つーか「ビューティフル」っていうか、その前にブログに彼女のことばっか書くようになった辺りから「なんじゃこの人?」ってなりはじめてたおもひで。そういう意味では僕が毛皮のマリーズを本当に好きだった時間って、実はほんのちょっとの期間なんだよな。でもそこがマジで黄金だったんすよ。世界一だったんすよ。その残り香だけで一生いけるくらいに、黄金だったんすよ! 僕の愛を贈る日本音楽男性ベスト5は今も変わらず、忌野清志郎、甲本ヒロト、山中さわお、ILL-BOSSTINO、志磨遼平のまんまさ!
ラストワン。1曲目!「LOVEDOGS」!
はっきりいって一番好きだわ。これこそが毛皮のマリーズだわ。毛皮のマリーズにやって欲しいことの全部だわ。ロックンロールが求める究極はいつの時代もイギー・ポップなんすわ。もう好きな理由のほぼ全部だわ。これ聴いて毛皮のマリーズになんも関心持てない人と分かち合う愛なんかないんすわ。つまるところがロックンロールなんですわ。ビッダビダのギンジギンジなんすわ。回転して広がってドンっすわ。斜めトンガリ飛行っすわ。故意爆弾希望殺し博覧会阻止組織委員会委員長のケツの穴竜巻っすわ。もう誰にも僕を止めることはできないんすわ。もうここまできたからにはなんもないんすわ。ロックンロールなんすわ。 そんだけっすわ。これ以上書くことねっすわ。だからやめますわ。終わり!
終わってしまった。
このファーストアルバムが出たのは06年。このアルバム自体は特段ムーヴメントのきっかけとはならなかったけど、この数年後に日本で起こるプチ・ロックンロール・リバイバルみたいなやつの中心に毛皮のマリーズがいたことは間違いない。正確には同じくオールドロックスタイルを貫くボウディーズと毛皮のマリーズの2009年くらいから2010年くらいにかけてのメジャーフィールドレベルでのブレイクが直接的に響いてると思うけど。でも所謂ビートバンドってやつ自体は沢山いたけど、ボウディーズの直接的なフォロワーといえる存在ってほぼいなかったって感じだけど、毛皮のマリーズのフォロワーは当時ライブハウス・レベルだとくっさるほどいたよね、マジで。僕の所属バンドも当然そこに組み込まれたもんで。しかも若者バンドとして。おかげさんで、その流れで全然人気がなかったのに、メジャーデビューまでさしてもらいまして、ラッキーでしたと思ってます。
でも僕ら、毛皮のマリーズを知る前から目の周り真っ黒にして、オールドなロック趣味スタイルでやってたから、別に真似じゃないよ。でも僕がTシャツの首回り切るようになったのは志磨さんの影響だよ。2008年に対バンした時、僕が着てたジョン・レノンのTシャツを「いいな、これと交換してくれ」って志磨さんに言われて、志磨さんのカスタマイズしたTシャツを着てみたら、めっちゃ僕に似合うじゃんってなって、それ以来ずっと切ってる。つーか、首回りがしまってるともう窮屈で着れない。
つーかこの手のこと書き出すとマジで終わんなくなるってか、かなりこれでも抑えまくったんだ。もう十分書いただろ。だから今回はこれくらいで許してやる。あばよ
そして次回、唐突に最終回!
いや、元々ファーストアルバム縛りで書くのは年内で終わらすつもりだったんだけど。っつーことで一旦、連載を終わります。 今までありがとうございました。月一で書くの大変だったけど楽しかったです。
ってまだ終わってねえよ!
次回! 最終回!
毛皮のマリーズ「LOVEDOGS」
平田ぱんだ『ロックンロールの話』単行本
2019年10月1日(火)発売
著者:平田ぱんだ
仕様:A5変形 全232ページ(特製ケース/特製しおり付き)
価格:2,400円+税
発行:株式会社CHINTAI
編集:Rock is/DONUT
ブックデザイン:山﨑将弘