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但野正和が「闘う男」をテーマに綴る月イチ連載コラム

但野正和の「闘いはワンルームで」

2019/6/19

第23回:「但野一家、ファイヤー!」

子供の頃、『クレヨンしんちゃん』の新刊が発売される度に、仕事終わりの父さんはそれを購入し帰宅していた。

久しぶりに映画館で『クレヨンしんちゃん』の映画を観た帰り道に、そんなことをふと思い出した。
その頃は特に不思議に思うことはなく、しんちゃんが好きな俺のために買ってきてくれてるんだろうと思っていたのだが、俺の方からオネダリしたような記憶はどうも見当たらなかった。

そのことを母さんに聞いてみたところ、当然彼女もそれはよく覚えていた。
そして母もまた、あらためて不思議そうにしていた。
漫画を揃えていくようなタイプではなかったという重要な証言もしてくれた。

そしてもう一つ、とても重大な、父の不可解な行動があったことを思い出した。

俺が小学二年生の初夏。
父さんが捨てられていた犬を拾ってきた。
子供の頃に犬に噛まれ、それ以来、女満別では知らぬ者がいないほどの犬嫌いの父だった。
「くれぐれも但野んとこのテッちゃん(父のアダ名)には犬を近付けるな」と女満別中に恐れられていたあの父がだ。

小学生にとっては犬のいる生活なんてものは憧れライフナンバーワン。
突然我が家に可愛いイッヌが! 幼い俺は、父のその行動を不思議がる余裕もなく大喜びしたものであった。
はりきった但野少年は名付け親に立候補。
その結果、犬の名前シェア率ナンバーワンの「もも」と命名。(随分と保守的であった)

ふうむ……。
ここで一つの仮説を立てよう。

父は我々家族が思っていた以上に、『クレヨンしんちゃん』を愛していたのではないだろうか。
そしてその中に登場する野原家の愛犬「シロ」

そう。父はシロの魅力にすっかり骨抜きにされてしまった。

ある日、いつものように「オラはにんきもの」を口ずさみながら父は営業回りをしていた。
「パニックパニックパニックみんながあーわっててーるー♪ オーラはすごいぞ天才的だぞぉー」
「わん!」
突然合いの手が入り、ふと足元を見ると一匹の犬が仲間になりたそうにこちらを見ていた。ダンボールには「メスです。かわいがってください」とゼブラのマッキーペン(太字)で書かれていた。

「こ、これは……! このシチュエーションは……! まるで……! しんのすけとシロじゃないか!」

即決。

シロ(仮名)を三菱デリカという名の三輪車の助手席に乗せ、家族の待つ帰路につくのであった。fin……

……そうか。
俺が「もも」と名付けたとき、そうじゃないだろって顔をしていたような気もする。
7対3で白よりは茶色毛の面積が多かったが、そうだったのか。
全てに合点がいく。
すまない、父よ。

 

閑話休題。

先日、また一つ歳を重ね33歳になった。
加齢による日々の暮らしへの影響はそれほど感じず。残念ながら特筆すべきほどの強いエピソードも無い。かつやに足を運ぶことが少なくなったぐらいのものだ。

ひとつ危機感を覚えることといえば、『巨人の星』「星一徹」と同い年になってしまったことぐらいだろうか。

『サザエさん』の「アナゴさん」が27歳
『天空の城ラピュタ』の「ムスカ大佐」が32歳(28歳説もあり)
そして『クレヨンしんちゃん』の「野原ひろし」は35歳である。

以上、アラサー男性キャラクターを独断で選び並べてみたが。
どうだろう。
無論好みはそれぞれだろうが、圧倒的に、最年長の野原ひろしに憧れないかい。

 

俺はこの頃、『クレヨンしんちゃん』の映画に夢中になっている。
観ていなかった作品を漁り。既に観た作品を見返したりしている。

そして究極の結論に辿り着いた。
俺は、映画『クレヨンしんちゃん』の様なライブがしたいのではないか。

うん、そうだ、間違いない。したいのだ。

 

好きな映画は多々ある。

ショーシャンクの空に
ロッカーズ
耳をすませば
時をかける少女
などなど
(そういえば好きな映画で人間の深さ測られそうで、好きじゃない映画でも好きなフリして観てた時期あるけど、あれって黒歴史になったな。感性には正直が一番だった)

しかし! 否! どれでもない。
俺は、『クレヨンしんちゃん』の映画がいいのだ。
「じゃあライブしないでクレヨンしんちゃんの映画流せや」と言われそうだが、それは違う。面倒なのですぐそういうこと言う奴にはひろしの靴下を嗅がせよ。

 

言葉にすると非常に陳腐なのだが。
笑えて、洒落ていて、スリルがあり、ガッツがあり、感動がある。そして大きな愛がある。
観終わったらあとには、俺も頑張ろうと。明日からも生きていこうぞと。思えるのだ。

そして俺は、その中でも野原ひろし役に立候補したい。

歳を重ねていくと熱くなることに躊躇してしまうのだろうかと、周囲の様子を見渡し思っていたのだが、ひろしを見ていると、そんなことはないと。俺もこうありたいと思えるのだ。

やるときには我武者羅に、それこそ我を忘れるかのような、全てを捨てて家族を守る姿は、あまりにも美しい。
映画版で稀に登場する、突然作画が劇画風になるあのひろし。あの勢いこそが。
俺が憧れる、ひとつの正しさなのだ。

 

但野正和の『闘いはワンルームで』

左から、みさえ、ひまわり、しんのすけです

 


LIVE INFO

6月22日(土)札幌フライアーパーク
※但野正和弾き語り

8月24日(土)・25日(日)中心市街地2エリア5ステージ
活性の火‘19 -誇れるまちの灯火となれ-
若草中央公園/ELLCUBE・アカシア公園
入場無料
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