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7月28日(金)、29日(土)、30日(日)の3日間にわたり、新潟県湯沢町苗場スキー場にて「FUJI ROCK FESTIVAL ’17」が開催された。早いものであの日々からもう約3ヵ月が経ち、季節は秋へと突入した。しかし、各メディアでも数度にわたり今年の模様がオンエアされたり、今後もベストアクトを選ぶ番組が企画されていたりと、その熱はまだ余韻をもって続いている。事実、ふと思い起こせばいつでも脳内フジロックが繰り広げられ、筆者も実生活では来年に向けたフジロック貯金を始めている。つまり、1年じゅうフジロックのことを考えているあまり月日の実感がなく今になったというわけだが、各地の大きなイベントがひと段落したところで、遅ればせながら今年の感想をまとめておきたい。

好天に恵まれた昨年とうってかわり、少しの晴れ間と雨模様からなる3日間となった今年は、前夜祭を含め延べ125,000人が来場。20周年を迎えた昨年と同様の来場者数を記録したことは、このフェスがまだまだ高い期待値を保っていることを示している。そして、出演者・来場者ともに新たな層を取り込みつつある実情も。小沢健二やYUKI、Cocco、グループ魂らベテランとも言える邦楽勢が初出演を果たしたことも注目を浴びたが、そのほかも初参加組とフジロックらしさのバランスが拮抗したラインナップに加え、ルーカス・グラハム、ジ・アマゾンズ、アルカ、サンダーキャット、ラグンボーン・マン、DYGL、水曜日のカンパネラなど洋楽邦楽ともに今を捉えたメンツも多数ラインナップされたことは良かったように思う。例年問われる“フジロックらしさ”は、ともすれば自らの門を狭めるものになりかねない。しかし、音楽はそんな懐の狭いものではないことを体現しているのがこのフェスの魅力であり、振り切った多様性があるからこそ触れられるものもある。ルーツ音楽〜新しい音楽を体感できる喜び、偶然に出会える驚きや発見は格別だ。

晴天とは言わないまでも、曇り空で幕を開けた7月28日(金)初日。グリーンステージに到着し芝生を見てまず驚いた。バッタやアリ、名前のわからない虫たちがぎょっとするほど大きい。例年以上に大きなサイズの虫たちを眺めながら、まるでビョークのMVみたいだと思った。そんな矢先、衝撃のトップバッターを飾ったのはグループ魂。普段どおりにやりたい放題。ステージから放たれる下ネタとパンク、お決まりのスリッパ投げの応酬にもう笑うしかなかった。すぐ近くで観ていた外国人は割とノリノリ。破壊(vo)だったか港カヲル(46歳)だったかMCで言ったとおり、いろいろなものが国境を超えるリアルな現場を目撃した。グリーンステージ、朝イチのグループ魂。フジロックに新しい扉を開いたか!? と、前代未聞のスタートを切った今年のフジロック。ここからは、個人的にとくに印象に残ったアクト5組の感想を日付順に。

THE xx(7/28グリーンステージ)

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当サイトの『FUJI ROCK FESTIVAL ’17 出演アーティストに訊く「今年のフジロック、これが観たい!」』という企画にて、多くのアーティストから名前が挙がったTHE xx。彼らは2009年にアルバム『エックス・エックス』でデビュー、今年1月には最新作『アイ・シー・ユー』をリリースしたサウス・ロンドン出身の3人組で、メンバーはロミー・マドリー・クロフト(vo&g)、オリヴァー・シム(vo&b)、ジェイミー・スミス(key)。2010年レッドマーキー、2013年ホワイトステージを経て、ここフジロックには3度目にしてグリーンステージに登場した彼らは、予想を超えるスケールで私たちの前に現れた。1曲目「イントロ」で沸き起こった大きな歓声はそのスケール感をより浮き彫りに。ロミーとオリヴァーのしなやかな歌声の掛け合いも、後ろから見守るように存在するジェイミーのドラミングも、ステージ上の3人の佇まいまでもが音になっている。その場を共有するような阿吽の呼吸は、観ているこちらにも伝わってきて思わず息を呑む。静謐なビートとアンサンブルで惹き込みながら、後半、ダンサブルな四つ打ちで変化させた「シェルター」から「ラウド・プレイシズ」「オン・ホールド」へと続くセットはとくに圧巻だった。虹色のような光を照らした幻想的なライトがオーディエンスの心もあたためる。そんな照明に誘われたのか、気づけば空には三日月が。鳴り止まない拍手と歓声を受け、信じられないといった表情で何度も何度も「サンキュー」と伝えるロミー。ラストは名バラード「エンジェルズ」。イントロをやり直すキュートさを含め彼らの人柄、そしてTHE xxというバンドがもつ輝きにも魅了された1時間だった。

デス・グリップス(7/29ホワイトステージ)

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しばしの活動休止から再始動したデス・グリップス。彼らはザック・ヒル(dr)、ステファン・バーネット(MC)、アンディー・モーリン(key)からなるエクスペリメンタル・ヒップホップ・グループ。2013年のフジロックで見逃したことを後悔していたため、今年は絶対に観ると決めていた。ドラムとキーボードとMCという至ってシンプルな構成にも関わらず、ステージから放たれる音圧のすごさ。暴力的な電子音と体を射抜くリズムに触れたら最後、抗う術がない。ヒップホップとノイズ、パンクロックの融合は、なぜか体に馴染むキャッチーさがあるというか、ただただ痛快というか。この轟音にならいつまでも打たれていたいと思わせる。これはもう体感あるのみ。上半身裸でプレイするザックとステファンの筋肉質な体からは湯気も立ち、何だか音楽の肉体性を目に見たようだった。音とビートとスクリームで何かを破壊するようで、原子構造を見せつけるようなステージにモッシュも起こる。最後は「ギロチン」。曲間なし・ノンストップで突き抜けた1時間に、雨の憂鬱さも吹き飛んだ。ちなみに、次に控える小沢健二待ちのオーディエンスが彼らのライブを眺めて呆然としているのが印象的だった。

LCDサウンドシステム(7/29ホワイトステージ)

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97年の初開催時には、小屋の中でのプレイが伝説となったエイフェックス・ツイン、約20年ぶりのフジロックは凶暴なノイズ、映像、照明、すべてが規格外の体験だったが、「ものすごいものを目撃している」という実感に後ろ髪を引かれつつも、LCDサウンドシステムを観にホワイトステージに移動。ホワイトに到着するや否や、ステージに下げられたミラーボールを見て胸が高鳴った。というのも、2010年のフジロック、同じくホワイトステージで観た彼らのライブがあまりに最高だったから。その後2011年の解散、2015年の復活を経て今回、7年ぶりの再来日。土砂降りのなか集まった満場のオーディエンスからもその期待が窺えた。今か今かと待ちわびる歓待モード満点のなか「US v THEM」でライブがスタート。<The time has come…>というフレーズの繰り返しで始まるこの曲が1曲目なんて、なんと心憎い。まさにそのとおり、この時が来るのを待ってました!ジェームス・マーフィー万歳! LCDサウンドシステムは、DFAレコーズを主宰するジェームス・マーフィーを中心としたプロジェクトで、エレクトロのビートと、彼のルーツであるパンク/ロックサウンドとの融合はダンス・パンクというひとつの潮流を生み出した。ライブはバンド形式で行っており、今回は7人のバンドメンバーを率いて来日。ディスコもファンクもクラウトロックも飲み込んでなお無駄を一切感じさせないミニマルなサウンドは、大所帯でありながらひとつの巨大なグルーヴを轟かす。“人力”という言葉が使われて久しいが、彼らのグルーヴはまさにそれ。ダンスミュージックとロック、パンクとのクロスオーバー。そこに生まれる音楽体験に、LCDサウンドシステムに魅了される大きな理由がある。キラーチューン「ダフト・パンク・イズ・プレイング・アット・マイ・ハウス」からの「アイ・キャン・チェンジ」といったナンバーで緩急つけつつ、炸裂パンク「ムーヴメント」、徐々に高揚感を増していく「イェー」の連打でアゲにアゲていく。ベスト・セットに続き9月にリリースされた新作『アメリカン・ドリーム』から新曲「コール・ザ・ポリス」「アメリカン・ドリーム」「トゥナイト」を披露し、「ホーム」で本編終了。大歓声のなか再登場したアンコールでは、今日のこの日を体に染み込ませるような「ダンス・ユアセルフ・クリーン」、アンセム「オール・マイ・フレンズ」をプレイし、新旧織り交ぜた歓喜のセットリストで7年ぶりのフジ、2日目ホワイトステージのトリを完遂した。ジェームス・マーフィーは、ビートの波、メロディの流れ、強靭なグルーヴにのせて希望も絶望も人生も死も、パーティも歌う。そこにダンスフロアが生まれる。ホワイトステージ全体が一体となった約2時間。感無量。

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