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Rock is(ロックイズ)


ロード(7/30グリーンステージ)

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歌姫のステージが続く3日目。ロードは夕方から夜へと景色を深めるグリーンステージに登場。ニュージーランド出身、20歳のシンガー・ソングライターである彼女は今年6月に2ndアルバム『メロドラマ』をリリースしたばかり。ここフジロックでは、初出演となった2014年のレッドマーキーでのアクトが絶賛され、今年はグリーンのステージへ。ひときわ大きな歓声を浴びながら現れたロード。「テニス・コート」で幕を開け、ディスクロージャーとのコラボナンバー「マグネッツ」でタフな歌唱を聴かせると、辺りを見渡してとびきりの笑顔を見せた。「コンバンハ、フジロック!ワタシハ ロードデス」。続々と人が増え続けるグリーンのオーディエンスはもうすっかりロードの虜だ。ときに髪の毛を振り乱し、フリーキーなダンスを織り交ぜながら歌う様は、ポップスターの貫禄も十分。ステージ上には3人のバンドメンバー、そして照明とバックスクリーンの映像のみ。このシンプルの極みとも言える舞台セットにロードの存在感はよく映える。そして、黒のドレスに白いアディダスのスニーカーを身につけた姿は、ロードが醸し出す王道とコアの間、そのものにも見えた。随所で曲紹介を挟みながら進むステージは、歌の世界に感情移入してしまうものがあったが、なかでも途中、ステージに腰掛け自身の経験(←ニュアンスでの聞き取りだが)を語ってから披露された「ライアビリティ」はとくにグッときた。そこからの、彼女の歌から漂う情感はさらにエモーショナルな広がりを見せたと思う。度々の大合唱を巻き起こしながら、シンプルなバンドサウンドをバックに歌い躍る姿そのもので魅了し続けた彼女のステージは、一言でいうなら“躍動する魂”。「チーム」ではスニーカーを脱ぎ、曲の途中でマイクスタンドからハンドマイクに持ち替え、ステージから降りて柵前オーディエンスのところへ向かったと思いきや、そのままモッシュピットを抜けて再びステージへ。このコミュニケーションのあり方は時おり観られる光景だが、ロードのそれは何だかことさら感動的なシーンだった。「フジロック、サンキューサンキューサンキューソーマッチ!」。何度も感謝の言葉を述べるロード。デビューアルバム『ピュア・ヒロイン』と新作『メロドラマ』からの楽曲を織り交ぜたステージのラストは「グリーン・ライト」。鮮やかなグリーンの光を背に飛び跳ねる彼女の高揚感と弾むビートが大合唱を誘い、オーディエンスも大爆発。堂々のアクトを務めあげた。このステージで、彼女は何度もオーディエンス(クラウド)や景色を見ながら<ビューティフル>と口にした。かつてのパティ・スミスがそうだったように。

ビョーク(7/30グリーンステージ)

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フジロック、3日目のヘッドライナーを飾ったのはビョーク。2015年にリリースした最新アルバム『ヴァルニキュラ』は、最愛のパートナーとの離別を投影し、パーソナルな感情を内包した作品だったことで、同作を携えたツアーにもダイレクトな影響を及ぼしたことは海を越えて伝わってきていた。そのステージがついに日本へ。グリーンステージの舞台には、先にストリングス(室屋光一郎ストリングス)がスタンバイ。そして後方中央には、『ヴァルニキュラ』にも参加し、フジロック初日にも自身のプレイを披露したアルカが。満場のオーディエンスから期待高まる視線がステージとストリングスの音色に注がれていると、ビョークが登場。これまでも奇抜な衣装を身にまとってきたビョークだから、もはやどんな格好で現れようと驚かない。この日の衣装は所々フリルのついたピンクの上下。加えて、顔の回りを白いベールのようなものでぐるりと覆っていた。見えないようでうっすらと表情が見え隠れする様子が逆に生々しくさえある。まるでアルバムで綴った生身の声と連動しているかのように。1曲目は『ヴァルニキュラ』から「ストーンミルカー」。ぼそっと語るような歌声が印象的な幕開けから、最新作・過去作のナンバーを交えてステージは進む。丈が長すぎたのか、時おり左側のパンツの裾を気にするチャーミングな一面も。「ヨーガ」「イゾベル」「ノットゲット」「ミューチュアル・コア」など、ステップを踏みながら羽ばたくような、ときに何かを振り払うようなパフォーマンスと、ストリングス、アルカのビート、そして歌。このシンプルな要素で構成されたステージと、映像に映し出される細胞、ヒューマン、火、水などが、苗場の山々と、剥き出しの大地と、雨に濡れた木々と呼応する。ビョークが自然の中で歌うこと。それがなんとこんなにも尊く感じるのか。アンコールでアルカとともに再びステージに現れたビョークは、今夜のステージをともにしたアルカと室屋光一郎ストリングスを改めて紹介。そして、アルカの横に座り込み「ヒストリー・オブ・タッチズ」を披露。ラストは、その時その時のモードで幾度となくライブのクライマックスを彩ってきた「ハイパーバラッド」。アルカの手腕が冴えるアレンジと力強い歌声、ビートに合わせてステージに上がる炎、夜空に打ち上がる花火、会場全体に沸き起こる大合唱。お馴染みのビョークの「アリガト!」が余韻を残し、完璧かつ感動的なフィナーレとなった。

 

もちろん上記に挙げた以外にも、素晴らしいアクトをたくさん観た。一見、強面だが滋味をともなった歌声で“歌”を聴かせるステージを魅せたラグンボーン・マン。フジロックのハウスバンドとしてロックンロールの歴史を繋いだルート17ロックンロール・オーケストラ。ヘビーかつ王道なロックサウンドの真髄に浸ったクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ。超満員のルーキーステージで堂々の新世代オルタナを見せつけたCHAI。大雨に負けないブリティッシュサウンドを響かせたNumber the.。ハードさとキャッチーさの絶妙なバンド感で魅了したジ・アマゾンズ。昨年キャンセルのリベンジ、グルーヴィーな演奏で沸かせたアヴァランチーズ。ビートとメロディ、映像とのシンクロで日本最高峰のサウンドを展開したコーネリアス。ド級の演奏で洋楽邦楽の壁を突き抜けたDYGL。ゴキゲンなギターサウンドが炸裂した復活ジェット。濃密な音の波でレッドマーキーを埋め尽くしたスロウダイヴ。臨機応変なステージングで貫禄すら漂わせたストライプス。最終日深夜のレッドマーキーに強烈なビートと熱い言の葉を浴びせかけたTHE BLUE HERBなど。そして見逃したアクトもたくさん。会場のあちこちで見逃したライブの感想を耳にするとやはりちょっと悔しいが、こればかりは仕方ない。余談だが、今年の個人的ベストフェス飯3はタイラーメン、熟成豚串、博多水炊きスープ雑炊といったところだろうか。

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最後に。場内物販エリアだった場所がトイレエリアになっていたり、OASIS内にあったワールドレストランエリアが「BLUE GALAXY」というDJテントになっていたり、人気の苗場食堂のステージ位置が見直されていたり、去年に続いてパスモやスイカが使えたりと、年々の改善はひとつ一つ、快適さに実を結んでいる。一方で、混雑時でもイスを広げて待機する人や、折りたたみイスを広げたまま持ち歩く人(とくにヘリノックス。ヘリノックス自体に罪はないです。あくまで広げたまま持ち歩く人の問題)、ゴミの放置、入場規制時のマナーなど、来場者の乱雑さが目立つ場面も多く見かけた。フジロックは、参加する側も一緒になって日本にフェスティバル文化を根付かせてきたフェスだと思うのだが、そのことは正直とても気になった。ちょっとした視線の向け方で、見え方も感じ方も過ごし方も変わるのに。そんなことも思った21回目のフジロックだった。さて、2018年はどんな物語が生まれるか!? 早くも楽しみで楽しみで仕方ない。なお、今年出演したストライプス、THE xx、スロウダイヴ、ファーザー・ジョン・ミスティ、ボノボ、ジェットは単独来日が決定しているのでこちらもぜひチェックしてほしい。(秋元美乃/DONUT)

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