FUJI ROCK FESTIVAL ’17 3日間のリポート
7月28日(金)
2017年のフジロックも終了。いわゆるネット用語の「~ロス」という言い方が嫌いだが、フジロックが終わった時だけ、「~ロス」を共有できる。とくに月曜日。次のフジロックまであと365日か、という虚しさがつきまとう。
今年のフジロックは7月28日(金)から30日(日)までの3日間、開催された。前夜祭を入れると4日間だ。動員は延べ12万5千人。ソールドアウトした29日が4万人。たしかに中高年は増えたが、年齢層が広がったという解釈の方が正しい。親子で参加している方も多数見かけた。ロックを何世代に渡って共有するなんて昔は考えられなかった。考えてみれば、ビートルズのデビューからもう60年近くが経過している。ロック・リスナーは今や三世代にわたる。それがロック・フェスの年齢層の広がりにも反映されている。出演アーティストでいうと、RADWIMPSからエルヴィン・ビショップまでということになる。
筆者は、7月28日金曜日の朝6時に新宿に集合し、苗場に向かった。GypsyAvalonのアトミック・カフェ・ステージをお手伝いしているので、そのスタッフと一緒に苗場入り。9時頃に到着し、打ち合わせ。あっという間に12時に。急いで木道亭へ移動してReiのステージを見た。いや、正確に言うと、Reiの姿を見ることはほとんどできなかった。なぜなら木道亭は溢れんばかりの人だったからだ。フジロックでも彼女への期待感は半端ない。Reiのステージはドラムとベースの3ピース編成。ギターもアコギで、ソロツアーで見せたポップなアプローチはない。ベーシックなセットで、ひたすらブルーズとロックンロールを放つ。大衆性を探りながら次のフェーズへジャンプするReiもよかったが、やはり最強はベーシックなReiだ。アコースティック・ギターと歌、リズム隊のアンサンブルは終始お客さんを圧倒していた。どんなに大衆性を意識しようとも、彼女には「ベーシックRei」という揺るぎないものがある。ここが彼女の強みだと思った。
GypsyAvalonでアトミック・カフェ・トークとライブ。3.11をきかっけに自然エネルギーへのシフトをテーマに掲げたイベントだ。今年で6年目の開催になる。GypsyAvalonの上方にはNGOビレッジが設置され、ここでは世界中の社会問題が扱われている。ちなみに、このエリアは太陽光とてんぷら油で電気を賄っている。まずはMCの津田大介が登場。グループ魂の富澤タク、泉田元新潟県知事がステージに上った。泉田元知事は行政という観点から、富澤タクは福島県出身で原発事故から避難した家族を持つ立場から原発について語った。泉田元知事が原発の持つ軍事的な側面の問題を語ったのに対し、富澤タクが日常生活からとらえた原発の怖さを語ったのが印象的だった。その2つの視点は我々の中に同時に存在し、その2つは将来のエネルギー・シフトを考える上で避けては通れない部分だ。トークの後は富澤タク率いるNumber the.のライブ。今年のフジロックは3日間、天気が悪かった。Number the.のステージの時は、そのピークと言っていいくらいの土砂降りだった。逆にそれがメンバーの心に火をつけた。アグレッシブなビート・ナンバーを次から次に繰り出し、会場を盛り上げた。ちなみに富澤タクは、この日、グループ魂(グリーンステージ)、Number the.(Gypsy Avalon)、ソロ(木道亭)と八面六臂の活躍だった。
NGOビレッジのテントで店番。その後、ホワイトステージでキャトフィッシュ・アンド・ザ・ボトルメンを見た。彼らはイギリスの北ウェールズ出身のロック・バンドだ。2014年にリリースした『ザ・バルコニー』は高評価を得、全英チャートの10位にランクイン。2016年にリリースした『ザ・ライド』は全英チャート1位に輝いた。なんだか名前だけ見るとブルース・バンドのようだけど、その実、今時のロックンロール・バンド。AppleMUSICなんかはオルタナに分類され、それっぽい曲もあるのだが、ライブは熱く、エモーショナルなロックンロール・パフォーマンスに支配されている。たたずまいがちょっとダサいところもかえってパフォーマンスの熱さと共鳴して盛り上がった。こういう体温が高めのロック・バンドはなかなか出てこなくなった。音楽との距離感を保つバンドが多い。それがまた新しい音楽を生んでいくので、それはそれで面白いのだが、彼らのように、熱いロックンロール・パフォーマンスのマジックを信じているようなバンドもかえって新鮮で、見ていて楽しい。現代的なセンスと熱いロックンロールはどこかでアジャストできる。そういう信念もまた新しい音楽を生む原動力になっていく、と信じたい。
苗場食堂へ移動してドミコを見た。ドミコはRock isでも積極的に追いかけている2ピースバンド。めちゃくちゃかっこいいリフと英語のような日本語の歌詞を駆使して、ロックンロールを鳴らしている。苗場食堂前も超満員。ほとんどステージの2人の姿を捉えることはできなかった。いつものようにアグレッシブな演奏で、日本人はもちろん、外国人のオーディエンスがやたらと盛り上がっていた。ただこの日は機材トラブルがあった。フレーズをサンプリングして流すルーパーが上手く機能しなかったらしい(ルーパーはけっこう繊細な機材らしい)。ドミコはドラムとギターという編成。ライブではルーパーを多用する。これが上手く機能しないとやれない曲も出てくる。それで何曲かはその場で変更したという。それでも客席は、ドミコが繰り出すリフに信じられないほど盛り上がっていた。彼らにとってルーパー不調のライブはかなりのきついものだろうが、コレクターズのギタリスト古市コータローがスタジオ盤に入っているあらゆる音をギター1本で表現するように、ドミコも無謀なチャレンジがあっていいかもしれない。そこから新たなロックが生まれる可能性だってある。この日、お客さんがステージのトラブルをよそ目にガンガン盛り上がったのは揺るぎない事実だ。
この日の締めはグリーンでゴリラズ。飛行機でやってきたその日に演奏して、次の日に飛行機移動してまたライブという過酷なスケジュールをデーモンはMCで嘆いていた。にも関わらず、圧巻のライブ・パフォーマンスを繰り広げてくれた。元々バーチャル・バンドのゴリラズだが、ライブではプレイヤーに加え大勢のコーラスによる「血と肉」を得て、バーチャルという言葉から来る質感とは対極のところで音楽が鳴らされていた。かと言って、すべてがアナログかというとそうではなく、スクリーンに映し出される2Dゴリラズと演奏がしっかりリンク。アナログ的価値観とデジタル的価値観がスパークしたエンタテインメント・ショウになっていた。