ザ・ビートルズの映画『ザ・ビートルズ~EIGHT DAYS A WEEK』を観た。監督はロン・ハワード。『アポロ13』や『ビューティフル・マインド』を撮った監督だ。内容はビートルズがライブツアーをやっていた1963年から1966年を中心にしたドキュメンタリー。ファンの熱狂の嵐をめいっぱい帆に受け「リバプールのビートルズ」から「世界のビートルズ」へとのしていく様子と、理由のない敵視にどんどん疲弊していく4人の姿を生々しく描いた作品だ。ただし映画が面白いかというと、アンソロジーを再編集したような内容なので、とくに新しい発見があるわけではない。むしろあまりビートルズを知らないリスナーが観たほうが楽しめるだろう。だからコアなファンは断片的に流れるライブ映像に身体を揺らし、映画のラストに出てくるルーフトップ・セッションを観て「いよいよ『LET IT BE』がリイシューされるのか?」と期待に胸を膨らませ、音と映像をリマスターしたシェアスタジアム(今はシェイスタジアムというらしい)のライブ(劇場だけの特別上映)に狂喜乱舞すればいい。それだけで十分だ。
それにしてもこの頃のビートルズのライブは凄まじい。ロックンロールという言葉を具現化したらこうなるというライブを繰り広げている。とくにリンゴのドラミングが凄い。キレッキレだ。ハリウッドボウル公演の「Boys」は何度聴いてもしびれる。この飛行機のノイズのような歓声のなか、よく演奏ができたものだと思う。当時はステージ上に返しのモニターすらなかった。アンプの音もほとんどメンバーには聴こえていなかったと思う。だけどジョンもポールもジョージもリンゴも見事なほどロックンロールしている。リンゴはフロントの3人が身体でとるリズムを頼りにドラムを叩いていたという。今では考えられない話だ。筆者にとっては、これ以上のロックンロールは世界に存在しないことになっている。それくらいビートルズのライブは興奮する。ビートルズは下積み時代、ハンブルクで1日何時間も演奏を行った。ライブ・バンドとして徹底的に鍛えられた。その経験がなかったら、この映画で描かれた4年間のツアーリング・デイズはなかったかもしれない。果してこれほどまでに世界中の音楽ファンの心を掴んだかどうかもわからない。ビートルズはプレイヤーとしても一流だったことが、この映画でわかる。
この映画ではハリウッドスターや文化人がインタビューにこたえている。ウーピー・ゴールドバーグもそのひとりだ。彼女はビートルズを初めて聴いたときに、自由になんでもやっていいんだ、と思ったそうだ。人種とか国籍とかそういうものを全部飛び越えた自由さ、自分は自分であっていいんだ、と感じたという。これはビートルズのファンほぼ全員が口にする意見だ。仲井戸麗市も真島昌利も同じような発言をしている。筆者もそうだし、同じこというリスナーは実にたくさんいる。夏の風物詩となった埼玉県熊谷市の百貨店前の大温度計もビートルズの自由な発想に刺激された担当者が暑さを逆手にとって設置したという。とうとうビートルズは温度計にまで影響を与えてしまった。もうワケがわからない。
国も人種も習慣も考え方も職業も何もかもが違う人たちがビートルズに触れた瞬間に同じ光景を見る。これは実に面白いことだ。ビートルズに影響を受けた人たちがそれぞれの分野で既存のスタイルを飛び越えて、独自の発想で活動をする。本当に面白い。こんなバンドは他にはいない。まさにこの現象がロックンロールそのものだ。この言葉をウーピー・ゴールドバーグから聞けただけで、この映画を観てよかった、と思う。ビートルズとはそういうバンドなのだ、と再確認できたことが、とてもよかった。
映画を観ていると、この熱狂のなかにいられたらどんなに幸せだったろうな、とつくづく思う。映画のなかでギャーと叫んでいる人たちが羨ましい。ビートルズのライブを観られなかったぼくたちはどんなに素晴らしいアーティストのライブを観ても、その欠落感を埋めることはできない。例えポール・マッカートニーのライブを観ようとも、どこか満足できない。ビートルズを観られなかった残念な感じ、無念さが常に心の中に欠落感としてある。だから今回も(内容はアンソロジーだとしても)スクリーンを食い入るように観た。今回は試写で観せてもらったが、次は映画館で観る。ムビチケはすでに購入済みだ。ロックンロール!(森内淳/DONUT)
『ザ・ビートルズ~EIGHT DAYS A WEEK ‐ The Touring Years』
9/22(木・祝)より 角川シネマ有楽町ほか全国公開
「ザ・ビートルズ~EIGHT DAYS A WEEK ‐ The Touring Years」本予告
出演:ザ・ビートルズ 監督:ロン・ハワード
プロデューサー:ナイジェル・シンクレア、スコット・パスクッチ、ブライアン・グレイザー、ロン・ハワード/エグゼクティブ・プロデューサー:ジェフ・ジョーンズ、ジョナサン・クライド、マイケル・ローゼンバーグ、ガイ・イースト、ニコラス・フェラル、マーク・モンロー、ポール・クラウダー/2016年/イギリス/英語/カラー/原題『THE BEATLES:EIGHT DAYS A WEEK ‐ The Touring Years』/配給:KADOKAWA/提供:KADOKAWA、テレビ東京、BSジャパン/協力:ユニバーサル ミュージック合同会社/後援:ブリティッシュ・カウンシル
日本版公式サイトURL:http://thebeatles-eightdaysaweek.jp