hotspringが2マンイベント「FIGHT CLUB vol.1」を開催。その模様をレポート
2019年6月12日(水)、hotspring主催の2マンライブイベント「FIGHT CLUB vol.1」が下北沢シェルターで行われた。今日の出演はhotspringと爆弾ジョニー。主催者のhotspringは大分県で結成されたロックンロール・バンド。幾度かのメンバー・チェンジがあって、現在はイノクチタカヒロ(vo) 、狩野省吾(gt) 、川越俊輔(dr)の3人に、サポートで長島アキト(ba)が参加して活動している。爆弾ジョニーは札幌で結成されたバンドで、りょーめー(vo)、キョウスケ(gt)、ロマンチック☆安田(key)、小堀ファイアー(ba)、タイチサンダー(dr)の5人で活動中。ふたつのバンドはメンバー間の交流はあるものの、こうやって2マンライブをやるのは今回が初めてだ。
まず最初に爆弾ジョニーが登場。1曲目はhotspringの狩野省吾のリクエストで「KNOCK」を披露。いきなり、りょーめーのボーカルに圧倒される。演奏も屈強なものへと進化。ロック・バンドとしてよりひとつの塊になった印象だ。2曲目は「KEN・KYO・NI・ORA・TSUKE」。3曲目が「終わりなき午後の冒険者」。爆弾ジョニーの歌はキャッチーなメロディとロックンロールのグルーヴが合わさっている。複雑な展開を見せる曲でもマニアックには転ばない。すべての曲がシンプルなロック・ソングとして響く。時に悪ふざけが過ぎるような楽曲ですら、歌と演奏が緊張感をもたらしてくれる。このバンドのポテンシャルはいつだって並外れている。音楽と、もっともっと真摯に向かい合えば、もっともっといいバンドになると思う。
その「終わりなき午後の冒険者」では、りょーめーがステージを降りて、客席でうたい始めた。「唯一人」「ガンぎまりサマ→デイズ」「ステキ世界」「キミハキミドリ」と、りょーめーはステージに戻ることはなかった。このワケのわからないパフォーマンスには、正直、戸惑う瞬間もある。ただ、階段の上でうたおうが、物販の前でうたおうが、PA卓の前でうたおうが、歌の持つ説得力は変わらない。そこが爆弾ジョニーのすごさでもある。メンバーも何事も起こってないかのように演奏に集中する。観客もりょーめーを目で追いかけながらも、ステージの演奏を楽しんでいる。
例えば、今が1969年だったら、このエキセントリックさもエンターテインメントとして昇華していただろう。ぼくがまだ10代だった1980年だったら「すげー!」と興奮したと思う。そもそもロックは異端なものなのだったから。演奏がグダグダになったりいい加減にうたわれたらドン引きするだろうが、爆弾ジョニーが放つロックンロールは高水準だ。ただ2019年における20~30代のリスナーがこの手のパフォーマンスを許容できるかどうかはわからないが。
8曲目「うたかたの日々」は爆弾ジョニーの真骨頂。彼らはメンバー全員が実に様々なタイプの楽曲をつくる。そのすべてがいわゆる「シングルカットできそうないい曲」ばかりだ。そんななかで一番力を発揮するのが「うたかたの日々」のようなシンプルでストレートなナンバーだ。この手の楽曲の破壊力は別格だ。「持ち時間があと8分あるから」と言って、最後に演奏した「イミナシ!」と「なあ~んにも」も同様。シリアスさとユーモアと皮肉と挫折と希望がむき出しになって、全力で降り注いでくる。その最新型が10曲目の新曲「歩く」だったように思う。「死ぬんじゃねえ。それだけでいい」。そのメッセージに今日のライブの全部が集約されていた。
次はこのイベントの主催者hotspringが登場。ついこないだまで新人だと思っていたが、今やロックンロール・シーンを牽引する役割を担っている。最初にメンバーが登場。狩野省吾がギターをかき鳴らすと、ステージ脇からイノクチタカヒロが飛び出してくる。ロックンロールの古き良きステージングだ。hotspringはこうでなくちゃいけない。2010年代はロックンロール不遇の10年だった。四つ打ちやメロコアやロキノン系と呼ばれるものが主流……いや、どちらかというと王道はアニソンでありアイドルだった。1970年代から80年代へ以降するときに、ロックンロールがパンクというかたちで爆発したような現象が2020年代にも起こるのか。それはどうかわからないが、hotspringのようなロックンロール・バンドがライブハウスで熱を放ちつづけていることを考えれば、期待値は0ではない。
1曲目は「ダニエルとメロディ」。2曲目が「黒でいろ」。hotspringは紆余曲折を経て、今やオリジナルメンバーはボーカルとドラムのふたりだけだ。ギターに狩野省吾が、ベースにサポートメンバーの長島アキトが加入し、現在の編成になっている。当初は以前のhotspringにいかに近づけるかが課題だったように思う。バンドを立て直すには一番の近道だからだ。しかしあるときから、現メンバーの良さを引き出す発想へと転換。以前のバンドの良さを活かしながら、幻影を振り払った結果、hotspringは現在のメンバーの元でのオリジナルhotspringに生まれ変わった。ロックンロールの疾走感に加え、表現の階層が2倍にも3倍にも増え、楽曲の表情が俄然、豊かになった。それを端的に表しているのが3曲目の「ダンダンダンダンッ」。今のhotspringだからこそできたダンスナンバーだ。「本気で踊ろうぜ」という掛け声と共にミラーボールがまわり始める。こんな演出も昔は考えられなかった。頭でっかちもやりようによってはかっこいいが、そもそもhotspringは「馬鹿になって」ロックンロールの楽しさを追求してきたバンドだ。むしろそこに近づいたのが現在のhotspringなのかもしれない。
「調子に乗って何が悪い?」という開き直りがバンドを強くしたとするならば、それを象徴していたのが新曲の「BIG KISS IN THE SATURDAY NIGHT」だ。「ロックンロールは自由だ」という根源的テーマを具現化したような曲だった。そのマインドは、新曲だけではなく過去曲にも反映。5曲目の「ギャグのセンス」はロカビリーに、9曲目の「灰になっても」はカントリー調にリアレンジされていた。hotspringは自由なのだ。
「今日は持ち時間がたくさんあるので、あんまりやれない曲をやってみます」というMCにつづき「Baby Baby」を披露。こういうオーセンティックなバラードもロックンロール・バンドには必要不可欠な要素。「FIGHT CLUB」は2マンライブなので、演奏時間が普段よりも長い。持ち時間が60分もあれば、いろんなタイプの楽曲を選曲でき、バンドの多彩さを表現することができる。おそらくそういう狙いもあって、この2マン企画を始めたのだろう。「Baby Baby」のような曲はロックンロールのライブにおいてとても重要だ。
終盤は狂熱のロックンロール・モードに突入。「45回転」「BABY KILL LOVE」「シュガーK」「モード」「青春の正体」とライブの定番曲を畳み掛ける。「レコーディングしたい曲」という紹介から「レコーディングをしたいのでグッズを買ってください」という冗談のようで冗談ではないMCで新曲「犯罪映画」を演奏。ここで本編は終了。最後に新曲を持ってきたのも新生hotspringに対しての自信の表れと見た。果たし「FIGHT CLUB」というネーミングには「自身の闘いに打ち勝ちたい」という願望も込められているのかもしれない。「FIGHT CLUB vol.1」はアンコールの「夜の魚」で終了した。(森内淳/DONUT)
- hotspring presents「FIGHT CLUB vol.1」
2019年6月12日(水)下北沢シェルター - <セットリスト>
- 爆弾ジョニー
- 1.KNOCK
2.KEN・KYO・NI・ORA・TSUKE
3.終わりなき午後の冒険者
4.唯一人
-MC-
5.ガンぎまりサマ→デイズ
6.ステキ世界
7.キミハキミドリ
-MC-
8.うたかたの日々
9.メドレー(123 356~緑~賛歌)
10.歩く
11.ユメノウタ
12.イミナシ!
13.なあ~んにも - hotspring
- 1.ダニエルとメロディ
2.黒でいろ
3.ダンダンダンダンッ
4.BIG KISS IN THE SATURDAY NIGHT
5.ギャグのセンス
6.ELECTRIC SUPER BAD
7.Touch Me I’m Sick
8.車輪の中
9.灰になっても
10.Baby Baby
11.45回転
12.BABY KILL LOVE
13.シュガーK
14.モード
15.青春の正体
16.犯罪映画 - Encore
17.夜の魚