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「太陽光でロックを!」中津川 THE SOLAR BUDOKAN 2017に行ってきた

 


2017年9月23日(土)太陽が味方についたフェス

天気予報は降水確率60%。名古屋は昨日の夜まで雨が降っていた。中津川も雨模様だったという。2017年9月23日。ホテルを出た筆者は午前7時40分の地下鉄東山線に乗って、千種まで。千種からJR中央線中津川行きに乗り換え、およそ1時間半で中津川に到着した。シャトルバスの乗り場まで徒歩10分弱。駅前の通りを一直線に登るだけなので迷うこともない。そこからシャトルバスで会場の中津川公園へ。さすがにフェス開催5年目ともなると乗り場も手際よい。バスのチケット購入から乗車まで実にスムーズ。バスも10分起きに来るのですぐに乗車することができた。20分ほどで会場に到着。バスを降りたら青空が迎えてくれた。降水確率が高くても晴れてしまうところがこのフェスの不思議なところ。この5年間、ほとんど雨は降っていない。音楽ファンは、このフェスを「太陽が味方についたフェス」と呼んでいる。

 

中津川 THE SOLAR BUDOKAN(以下、中津川ソーラー)。太陽光を始めとした自然エネルギーへのシフトを目指すフェスだ。きっかけは9.11の震災と原発事故。原発から自然エネルギーへのシフトを足踏みする風潮に業を煮やしたシアターブルックの佐藤タイジが、自らの日本武道館公演を太陽光で行ったのが始まりだ。「そんなこと本当にできるのか?」から「やればできる」へ。武道館へやって来たお客さん、出演したアーティストの考え方はそんな風に変わっていった。今度はもっと規模を大きくしてやってみよう、ということで始まったのが中津川ソーラーだ。

 

中津川ソーラーの仕組みはこうだ。まず太陽光発電によって予め蓄電池を満タンにしておく。その蓄電池を使用してフェスを行う。減った電気をフィールドに設置された531基のソーラーパネルで補う。ステージは大きい順に、レヴォリューション、リデンプション、リスペクト、リアライズ、レジリエンスの5つ。他にも各所にDJブースがあり、子供が遊ぶ施設がある。夜になるとヴィレッジ・オブ・イリュージョン(深夜営業の屋台やステージ)も登場する。そのすべてを太陽光発電で賄う。本部がある建物(ふれあいセンター)の電気に関してはグリーン電力証書を購入する。今まで一度もステージの電源が落ちたことはない。

そう説明しても、信用しない人もいる。それは原発なしで電源が確保できるのかという疑いの目と重なる。しかし実際に中津川公園へやって来て、たくさんのソーラーパネルを目の前にして、フェスがやれているとわかると、何かが変わり始めていることを実感せざるを得ない。佐藤タイジ曰く「エネルギー政策の素人が太陽光でフェスがやれるのだから国のリーダーが立ち上がったらどれだけのことができるのか」。中津川ソーラーは未来を示す偉大な実験の場でもある。

 

開場時間前、筆者は場内をうろついた。すると、ステージからサウンドチェックの音が聴こえてきた。太陽光発電による蓄電池から供給される電気は安定している。それはモニタやPAから出る音にも反映される。多くのアーティストが中津川ソーラーの音のよさに驚く。この演奏体験が忘れられないという理由でリピートするアーティストも多い。そのためか、ステージ上から「来年も出たい」とアピールするアーティストが続出するのも、このフェスの特徴。電気は地産地消に限るということか。家の屋根のソーラーパネルで作った電気を一度東電に売るという今のシステムにも疑問を感じる。「太陽光でロックする!」は日本のアーティストに浸透しつつある。

10時開場。多くの若者に交じって、子供連れのお客さんが次々にゲートをくぐってやって来ている。家族連れが多い理由はいくつか考えらえる。まず会場の中津川公園がとても整備されていること。全体を青々としたふかふかの芝が覆っている。もともと市民の憩いの場として整備されている。遊具や長い滑り台なんかもある。それだけで楽しい気分になる。さらにこのフェスのためにアクアドームやトランポリンなどが増設される。熱気球はすでにこのフェスの顔になっている。ふれあいセンターの前では大道芸人がパフォーマンスをやっている。今年はモンチッチもやってきてフェスを盛り上げていた。加えて導線もしっかりしている。どのステージに行くにも10分と歩かない。しかも迷うことはない。ふれあいセンターの体育館が休憩所として解放されていて、いつでも休むことができる。雨さえ降らなければ(トレッキングシューズではなく)スニーカーで楽しめるフェスだ。フェスは無理をしながら楽しむものだが、中津川ソーラーは無理をしなくても楽しめる。お目当てのアーティスト以外の時間を遊戯施設で過ごす親子連れの姿は「アットホームなフェス」というイメージづくりにひと役買っている。

 

10時の開場と共に、入場ゲートのすぐ脇のリアライズでは5人組のジャズ・バンドTRI4THが演奏をスタート。ノリのいいインストゥルメンタルが雰囲気を盛り上げる。TRI4THの音楽を聴きながらリスペクトを目指す。リスペクトはメインステージとは反対側の丘のふもとにある小さなステージ。丘の上から吹き下ろしてくる風がとても気持ちがいい。リスペクトステージでは開会宣言が行われる。なぜメインステージではなくリスペクトなのか? それには理由がある。1969年8月9日、フェスの先駆け「全日本フォークジャンボリー(通称:中津川フォークジャンボリー)」が中津川で開催された(ウッドストックよりも早かった)。そこでは吉田拓郎や岡林信康などのフォークシンガーをはじめ、ジャックスやはっぴいえんどといったロック・バンドも演奏。フォークジャンボリーは1971年まで開催された(最終的には3万人を動員した)。リスペクトはフォークジャンボリーへのリスペクトを込めて作られたステージだ。中津川ソーラーは「フェス文化の継承」という役割も担っている。このステージは言うなれば、フェスのソウルになっている。ディズニーランドでいうところのイッツ・ア・スモール・ワールドだ。セレモニーをこのステージで行う理由はそこにある。

11時になる少し前、リスペクトにMCの中村貴子が登場。オーガナイザーの佐藤タイジを呼び込む。今年の中津川ソーラーのテーマは「ファミリー・フォーエバー・ファミリー」。曰く「太陽光は、ずっと家族が続くための宇宙からの贈りもの」。原発事故は家族を分断してしまった。エネルギーシフトをしない以上、家族の未来は担保されない。奇しくも、このフェスと同じ時期、アメリカの某大手電力会社が原発の新規建設中止を発表。太陽光発電や蓄電池への投資に切り替えたというニュースが飛び込んできた。「ファミリー・フォーエバー・ファミリー」は絵空事ではなく、もはや世界の常識なのだ。佐藤タイジが中津川市長を紹介。市長は開会を宣言。動員を10万人に増やそうと気勢を上げた。10万人とはかなり大きな目標でもあるが、中津川ソーラーの動員数は毎年着実に増えている。

photo by 三浦麻旅子/岡村直昭

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